業務改革・改善のためには、どのようなIT活用の方法があるのだろうか。パッケージ化されたアプリケーションの利用によって、どこまで効率は上げられるのか。あるいは、ビジネス系アプリケーションの使いこなしによって改善が計れるのか。そうした視点から、IT活用について考えていく。 集計を抜け出して分析と予測へと進化しよう ビジネスで利用する身近なITといえば、なんといっても代表はExcelではないだろうか。表計算ソフトは、現在のようにWindowsやインターネットが普及するよりもずっと前から、パソコンでビジネスをするためのソフトとして普及してきた。今でこそ、携帯音楽機器メーカーとなっているApple社も、その昔はApple Uというパソコンをホビーからビジネス用途にまで幅広く販売していた。Apple UにCP/MというOSを稼動させて、VisiCalcという表計算ソフトを使うスタイルで、一斉を風靡したのだ。時代は移り、MS-DOSというOSの時代にはLotus 1-2-3という表計算ソフトが爆発的に売れ、それがWindows時代になってExcelへと移ったのだ。 OSやパソコンが進化して、表計算ソフトも多機能で表現力も豊かになってきたが、四半世紀以上も昔からその基本的な目的は変わってはいない。ビジネスで扱う数字を集めて計算することで、何らかの結果を得ようとしてきたのだ。しかし、そうした表計算ソフトの使い方にも、さらなる業務改革やIT活用という側面では、そろそろ限界が見え始めていることは確かだ。なぜなら、表計算ソフトによる数字の扱いは、あくまで「結果」でしかないからだ。セルに数字を入力するか、どこかからデータを集めてインポートしない限り、表は何も計算してくれない。せいぜい、式を設定しておくことで、数字によるシミュレーションが行えるといった程度だろう。現在のビジネスが求めているのは、結果の集まりではなく、効率や改善に貢献する分析や予測なのだ。 ビジネスの知性をサポートするインテリジェンスとは何か 今、ビジネスインテリジェンス(BI)というアプリケーションや開発環境が注目されている。BIは、蓄積されたデータを集計するだけではなく、分析し指標や統計結果を示すことによって、経営や管理をサポートする情報を提供する仕組みだ。確かに、ERPのような管理会計システムでも、経理データを通して企業のリソースを把握し、経営計画を立案するための情報を提供できるはずだ。しかし、実際には財務会計で使われるバランスシートや一般的な経営指標しか示せない。いわゆる対前年比や進捗率といったものだ。それに対して、BIを活用すれば求める情報をさまざまな角度から取り出すことが可能になる。例えば、営業部門のコストと売上の比率を比較するだけではなく、月次や部署や商品ごとの違いや推移などを分析したり、それらを掛け合わせて変化をグラフにすることで、これまで見えなかった傾向や特長を発見することも可能になる。 これまで、多くの企業では業務の効率化を最優先にして、勘定系業務を中心としたIT化を推進してきた。その結果、多くの業務がデジタル化されて、自動的にデータが蓄積される仕組みが整ってきた。しかし、まだその蓄積されたデータを有効に活用している企業は少ない。その取り組みは、いままさにこれからはじまろうとしている。 変化に強い組織を作るためにBIが必須になっていく 経営規模の大小に関わりなく、ビジネスにはこれまで以上のスピードが求められている。変化の激しい市場に追従するためには、的確な情報力と迅速な意思決定が求められている。それをサポートできるITが、BIになるのだ。 しかし、対象とする市場が小さく、個人の勘と経験でビジネスを継続してきた企業経営者の多くは、BIの必要性を感じてはいない。個人の頭の中で理解できる範囲で、まだまだビジネスを継続できると考えているからだ。 だが反対に、どんなに小さな規模のビジネスであっても、ITを活用できるか否かは、そのまま事業としての競争力を左右してしまう。インターネットや電子メールは当然として、ビジネスに関わる情報の収集と分析を的確かつ迅速に行う仕組みを確立しなければ、市場から取り残されてしまうのだ。BIへの取り組みは、単に情報を分析するツールを導入するだけではなく、BIへの情報パスをつなぐ取り組みでもある。その結果として、社内の情報疎通がこれまで以上に高くなり、分析結果を経営者や管理者が共有することによって、新たな経営意識や計画性が生まれてくる。 改善や改革の指標を発見することの重要性 日米のITに対する取り組みを調査した結果によれば、日本ではIT投資に対する効果測定が十分に行われていないのだという。つまり、入れっ放しのITが多いというのだ。また、別の調査によれば企業のIT予算では、全体の約7割がシステムの運用管理で消費されているという。過去に開発したシステムの維持にコストがかかり過ぎて、新規のソフト開発や投資に回せる予算が切り詰められているのだ。これでは、十分に効果を発揮できるIT導入は難しい。経営規模に違いはあっても、中堅や中小企業でも同様の傾向は見られるのではないだろうか。オープンシステムへの移行を推進できないままに、過去から使ってきたオフコンやメインフレームを捨てられずにいる。そんなジレンマから、IT投資を抑制してしまうのだ。 こうした事態を打開するためにも、BIによる蓄積されたデータの数値化による指標の提示は、大きな価値がある。「なんとなく」ではなく、正確な分析結果として、業務改革や革新に貢献するIT投資を提案できるようになるのだ。 業務効率の改善に向けた取り組み ITによる業務効率の改善方法は、さまざまな手法やアプローチがある。今回はBIという視点から情報疎通という面での改善や革新を考えてきたが、何よりも重要なことは社内にあるデータをいかに効率よく再利用するかにある。導入したままのITや入力しただけのデータでは、ビジネスに貢献するITにはならない。ある意見によれば、情報は再利用すればするほど、その価値や意義が増すという。蓄積し分類し検索して分析することによって、素のままだったデータは新たな価値へと進化するのだ。そのための明確なアプリケーションとして、BIへの需要が高まっているのだが、そうした本格的なシステムとしての導入を行うまでに至らなくとも、BIの目的に合致する情報システムの再構築も有効な手段といえるだろう。つまり、情報を蓄積するだけではなく、情報を取り出して分析するためのツールを導入したり、あるいはExcelで分析を行うような仕組み作りを実践していくのだ。BIツールにしても、エンタープライズ規模でデータを集めてきた後には、設定した条件や関数によって数字を集計している。Excelとの違いは、情報を引き出して整理する部分にある。 少し前に流行したデータウェアハウスやOLAPによるデータの多次元化といった取り組みは、まさにBIのための準備段階だったのだ。Excelでも、OLAPによって構成されたキューブデータをピボットテーブルで分析する機能は備わっているのだが、これも元となるデータが揃っていなければ、使いこなすことはできない。結局のところ、これまでに導入した情報システムを再活用するためには、そこに蓄積されているデータをいかに再利用できるかにある。また、新規に情報システムを構築するときにも、データの再利用を効率よく行える仕組みをあらかじめ考えておくべきなのだ。 いずれにしても、業務改善に貢献するITとは、情報の力でビジネスを支えられるシステムに尽きるのだろう。