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2005年9月時点の情報を掲載しています。
いよいよ日本でも、iTunes Music Store(iTMS)のサービスが開始された。iTMSは、アップルコンピュータ(以下アップル)が提供する音楽配信サービスのことだ。サービス開始時点で、国内15社の音楽会社が提供している100万曲もの楽曲がオンラインで購入できるようになった。
1曲あたりの価格は150円で、それまで国内で行われていた音楽配信サービスが200円以上であったことに比べると、そのインパクトは大きい。iTMSの発表にあわせて、先行した国内音楽配信サービス会社各社が、この料金体系に、価格をあわせてきたことからも、そのインパクトの大きさが裏付けられると言えよう。
iTMSは、米国では2003年4月からサービスが開始されており、日本では実に2年4ヵ月遅れでのサービス開始となった。
なぜ、日本でのサービス開始がこれだけ遅れたのだろうか。同社幹部によると、その最大の理由が音楽会社との調整だったとコメントする。「日本の音楽業界と米国の音楽業界とは、音楽配信に関する認識が大きく異なっている。日本で、サービスを開始するにあたり、多くの楽曲を用意しなくてはならない。また、それに付随するすばらしいサービスを用意しなくてはならない。そして、手頃な料金で提供できなくてはならない。こういった観点で話し合いを進めてきたが、これにかなりの時間と労力を費やしたのが要因だ」とアップルのナンバー2であるフィリップ・シラー上席副社長は語る。
音楽の著作権管理が複雑なこと、著作権保護やビジネスの観点から音楽配信サービスに懐疑的な音楽会社が多かったこと。そしてそれを背景にアップルが提案する料金での音楽配信に及び腰だったことなどが、この交渉を難航させたといえる。
とくにビジネスの観点からいえば、既存のレコード販売店との関係維持、パソコンを利用してダウンロードするという仕組みによって利用者が限定されること、違法にデジタルコピーをされる可能性があることなどが懸念材料となっていた。
また、業界関係者の間では、「日本ではレンタルCDが普及しており、それが普及していない米国とは、音楽配信に対する市場の地盤が違う」というようにサービス開始には懸念の声もあがっていた。そのほか、利用者が自由に1曲だけを選択して購入する、あるいは曲順を自由に設定して再生するという聴き方に対して、1枚のアルバムCDで世界観を演出するアーティストからは、それがないがしろにされるとして、反発の声もあがっていた。
結局、一部のメジャー音楽会社が、サービス開始時には参加しないということになったが、それでも、この楽曲数は他の音楽配信サービスを寄せ付けない質と量を誇っているのは間違いない。
だが、こうした音楽会社や著作権者が懸念したビジネス面での不安はあっという間に吹き飛んだ。8月4日のサービス開始から4日間で、iTMSはなんと100万曲のダウンロードを達成したからだ。米国で、iTMSのサービスが開始されたときには、1週間で100万曲という実績だったが、この記録をあっさりと塗り替える出足となったのである。さらに、音楽会社の予想を超える使い方がいくつか出ていたことも音楽会社を驚かせた。例えば、古いヒット曲が一気に売れ筋上位に食い込むという動きが見られたのだ。この動きの背景には、一部サイトでの不用意ともいえる誘導があったのは事実だが、それでも、約30年前のヒット曲が、テレビ番組のヒットなどの影響を受けずに大量に販売されたというのは、これまでのレコード業界ではなかったことだ。
こうした曲の購入傾向は、わざわざアルバムを購入しなくても1曲だけ欲しい、あるいはレコード店に購入しに出向かなくても手に入れる手軽さがあれば購入したい、とりあえず自分のミュージックプレーヤーに入れておきたい、というように「ついでに」購入する形態が多い。趣向性や趣味性の高い音楽には、そうした潜在的な需要があり、それが、iTMSで顕在化したともいえるのだ。音楽配信サービスは、音楽会社にとって、新たなビジネスチャンスを生むことになったことは間違いない。そして、サービスに対する知恵の絞り方次第で、まだまだビジネスが拡大することは間違いなさそうだ。
大河原 克行
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、'01年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊アスキー(アスキー)などで連載および定期記事を執筆中。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社刊)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社刊)など。
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