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にっぽんの元気人
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“供給側”の論理ではなく“需要側”の立場に立った提案を

リモートワークを中心とする“働き方”の変化や、“新しい生活様式”の定着によって、IT製品やソリューションのニーズも急速に様変わりしている。そうした変化の中で、どうすれば顧客のニーズにかなった提案が行えるのか。『コロナ大不況後、日本は必ず復活する』(宝島社)など多数の著書があり、自らも「リモートワーク中心の仕事と生活に完全に切り替わった」という経済学者で嘉悦大学教授の高橋洋一氏に、提案のヒントと、今後の日本経済の見通しについて聞いた。

“供給側”の論理ではなく、“需要側”への発想の転換、身の回りの“需要”を見つめ直し、地域に根差したビジネスが重要

対面に慣れ切った業種ほどオンライン化が進みにくい
 BP:新型コロナウイルスの感染拡大に対する緊急事態宣言が5月25日に解除されて以降、社員を在宅ワークからオフィス勤務に戻す企業が増える一方で、在宅ワークの継続を選択する企業も少なくないようです。高橋さんも、ずっとテレワークを続けているそうですね。

高橋洋一氏(以下、高橋氏):
在宅中心のワークスタイルに切り替えて半年近くになりますが、まったく不便を感じません。むしろ、なるべく在宅で仕事を済ませたいので、講演や取材、打ち合わせなどは、「オンラインでできるんだったら、それでお願いします」と頼んでいます。この取材も、オンライン取材でしたので、お受けすることにしました(笑)。
 大学での教鞭は、週に何日かは通わなければならなかったのですが、新型コロナウイルスの影響で講義がすべてオンラインに変更されたので、今年に入ってからは、大学にも一度も行っていません。
 それでも、講義や学生とのコミュニケーションにはまったく支障ありませんし、わざわざ時間をかけて通う必要がなくなったので、むしろ便利になったと思っているくらいです。

BP:同じように、多くの人が在宅ワークの利便性に気付いているはずですが、それでも緊急事態宣言が解除された後、業種によって、在宅からオフィスワークへと“働き方”が元に戻っているのは何が原因なのでしょうか。

高橋氏:
いろいろな理由が考えられますが、業種によってオンラインへの慣れ、不慣れがあることも大きな理由のひとつだと思います。
 例えば、よくお受けする講演やセミナーなどの企画・運営会社は、講師を会場に招き、人を集めるというスタイルがありますが、それらをオンラインに置き換えるということに慣れていないようです。
今では、リアルな講演やセミナーの代わりに、Web会議システムなどを使って講演内容を配信する「ウェビナー」
(ウェブによるセミナー)が主流になっています。この仕組みなら、講師も自宅にいながら講演やセミナーをできるはずなのに、多くの企画・運営会社は、その会社の会議室やスタジオわざわざ出向いてきてほしいと言う。
 同じことは、大学についても言えます。そもそも大学教育は、教室に学生を集めて教えるというのが前提になっており、文部科学省による大学の設置認可でも、何人の定員に対して教室がいくつある、といったことが重要なポイントになっているほどです。
 大学の先生たちも、対面を前提とした講義を行ってきた人が多いので、いきなりオンライン講義に変えてほしいといわれても、スライドの資料をいくつも用意して、それを見せながら話を進めるというスタイルにまったく慣れていません。

BP:先生がそんな状況では、学生たちも学ぶのに苦労しそうですね。

高橋氏:
ついでに言えば、新型コロナの感染拡大以降、大学の教授会もオンラインで行われるようになりましたが、先生の中にはPCやスマートフォンの操作に不慣れな人も多く、そうした人は、わざわざ大学に行って教授会に参加しています。
 こんな例は学校以外にもいくらでもあって、医療の分野でも、新型コロナの影響でようやく認められたオンライン診療がまったく進んでいませんよね。
 対面が当たり前とされてきた業種ほど、オンラインに不慣れな人が集まっているので、リモートワークが進むどころか、むしろ時代に逆行する可能性が高いのではないでしょうか。

“需要側”が本当に求めているものを提案する
BP:本誌の読者である大塚商会のビジネスパートナーの皆さんにとっては、そうした業種にこそセールスのチャンスが広がっているとも言えそうですね。セールスをするうえで、何かアドバイスがあればお願いします。

高橋氏:
大切なのは、メーカーやディストリビューターといった“供給側”の論理ではなく、デバイスやサービスを利用する“需要側”の視点に立って提案することだと思います。
 例えば、リモートワークではWeb会議を頻繁に行うので、法人のお客さまに社員が在宅で使用するPCの大量導入を勧めるディストリビューターもいらっしゃると思います。
 でも、Web会議に使用するのなら、PCよりも、むしろスマートフォンのほうが断然便利なのです。
 PCでWeb会議に参加したことのある人ならわかると思いますが、必ずと言っていいほどヘッドセットをしますよね。これは、PCに内蔵されたスピーカーからの音声では聞き取りにくく、内蔵マイクの性能も悪いからです。周囲の雑音まで拾ってしまうので、どうしても口元にマイクが来るヘッドセットに頼らざるを得ません。
 ところが、スマートフォンはそもそも“電話”なので、スピーカーとマイクは聞き取りやすく、話しやすいように基本設計されており、わざわざヘッドセットを使う必要がありません。
 しかも、ほとんどのスマートフォンは、動画を高画質で視聴できるように設計されているので、PCよりもはるかに鮮明に相手の顔や資料を見ることができるのです。
 ほとんどの日本人は、すでにスマートフォンを持っているので、Web会議用にわざわざPCを導入する必要はありません。“供給側”の論理で無理に売り込むのではなく、“需要側”が「本当に求めているもの」を提供するという発想の転換が求められていると言えます。

BP:“供給側”の論理としては、つい売り上げを伸ばすために1台でも多くのデバイスを売りたい、PCだけでは不便だというなら、ヘッドセットも合わせて売りたい、ということになってしまいそうですが、そうではなく、「真のニーズ」にかなった提案をすべきだということですね。

高橋氏:
使い手の立場に立って想像力を働かせてみることでしょうね。
 例えば、スマートフォンでWeb会議に参加すると、PCよりも不便な点もあるわけです。何と言っても、資料は鮮明に見えるけれど、画面が小さいので、細かな文字は読みにくい。
 これを解決するため、スマートフォン
のほかにタブレット端末でも会議に参加し、資料はタブレットで見るようにしています。
 このように、実際の利用シーンや困りごとなどに想像力を働かせれば、PCやヘッドセットを無理やり売り込むよりも、タブレットを勧めたほうがいいのではないかというユーザー視点の提案が浮かぶはずです。

身の回りの“需要”をもう一度見つめ直そう
BP:ところで、高橋さんは著書『コロナ大不況後、日本は必ず復活する』の中で、日本は世界の中でもいち早く経済を復活させられる可能性を持っていると書かれています。
 その理由についてお聞かせください。

高橋氏:
これからの政策次第だとは思いますが、うまくやれば復活させられるだろうと見ています。
 経済を復活させるために国ができるはいくつかありますが、最も効果的なのは、中央銀行にお金をつくらせることです。日本で言えば、日本銀行(日銀)が有価証券などを大量購入し、それを裏付けとして紙幣を大量に刷る。このやり方なら、財政負担をかけずに巨額のお金をつくることができます。
 そのお金を助成金として全国に配れば、中小企業や個人事業主は新型コロナによる不況を何とか乗り切って、日本経済はいち早く復活できるはずです。
 実は、中央銀行にお金をつくらせるという点において、日本は非常に有利な立場にあります。
 EU(欧州連合)の場合、加盟国は27もあるのに、中央銀行は欧州中央銀行(ECB)ひとつしかないので、各国の思惑がせめぎ合って、なかなかお金をつくらせることができません。
 結局、「EU復興基金」というものをつくって域内経済回復の資金に充てることにしましたが、わたしに言わせれば、不十分な次善策だと言えます。
 また、米国は1つの国に、連邦準備制度理事会(FRB)という1つの中央銀行なので、日本と同じように、国が中央銀行にお金をつくらせやすい状況にはありますが、コロナ禍が非常に深刻であることや、今年11月に控える大統領選挙で国がゴタゴタしていることなどで、うまく機能していないのが実情です。
 これらを踏まえると、先進国の経済は、もっともお金をつくりやすい日本、次に米国、最後にEUの順で回復していくことになるでしょう。
 実際、内閣府が8月27日に発表した今年4-6月期のGDP(国内総生産)速報値は、年率換算で前期比マイナス27.8%と、米国のマイナス32.9%、EUのマイナス40.3%に比べて低いマイナス幅にとどまりました。
 もちろん、戦後最大のマイナス幅なので非常に深刻ですが、国がお金をつくりやすい状況にあるので、ほかの国に比べれば傷は浅かったと言えます。
 すでに国はコロナ対策として約60兆円のお金をつくっていますが、これを今後100兆円規模まで拡大すれば、日本経済は復活できるはずです。

BP:中小企業は当面、どうやって生き延びればいいでしょうか。

高橋氏:
国がお金をつくり、企業に配ろうとしているのですから、公的な助成金はもれなくもらうようにしたほうがいいですね。
 国の持続化給付金だけでなく、各地方自治体もさまざまな給付金や助成金を提供しています。インターネットでくまなく情報を調べて、もらえそうなお金はしっかりもらっておきましょう。
 それによって経営の足元が固まれば、次にどんなビジネスをすればいいのかということを考える余裕が生まれ、攻めの経営に転じられるはずです。
 また、今回のコロナ禍を機に、社員がテレワークでも営業活動やその他の業務ができる体制づくりを進めてみてはどうでしょうか。

BP:最後に本誌読者にメッセージをお願いします。

高橋氏:
コロナ禍で大幅に縮小したとは言っても、日本は世界で3番目にGDPが大きい国ですし、その8割以上を内需が占めているのが他の国にはない強みだと思います。
 新型コロナが流行する前はインバウンドがもてはやされましたが、コロナによってグローバルな経済活動が停滞しても、国内需要だけで十分に食べていける潜在力を備えているというのは、非常にありがたいことです。
 中小企業の皆さんは、身の丈に合わないグローバルビジネスに挑むよりも、身の回りの“需要”を見つめ直し、地域に根差したビジネスに取り組んでみてはどうでしょうか。
 もちろん、“供給側”の論理ではなく、“需要側”に思いを致しながらビジネスに取り組むことが大事です。

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嘉悦大学ビジネス創造学部 教授 
株式会社政策工房 代表取締役会長
高橋 洋一氏
TAKAHASHI YOUICHI

◎ P r o f i l e
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現・財務省)入省。理財局資金企画室長、内閣府参事官、総務大臣補佐官、内閣参事官などを歴任。2007年に財務省が隠す国民の富「霞ケ関埋蔵金」を公表。『さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)で山本七
平賞受賞。






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