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2006年9月時点の情報を掲載しています。
大手企業を中心に、業績の回復および過去最高益を更新するなど、まだら模様ではあるものの、景気の活況感が戻ってきた傾向がある。しかし、一方で勝ち組負け組という明暗が取り沙汰され、格差社会などの流行語も聞かれている。個人や社会的な傾向はともかくとして、企業における競争の優劣や収益力の違いについて考えると、この2,3年の違いは、やはりITの活用力に多くの理由があるように思われる。そして、その差をさらに開こうとするかのように、いま中堅企業でもERP(統合基幹業務システム)導入の好機が訪れている。
業務に合わせたITかルールに合わせた業務革新か
振り返ってみると、日本にERPの導入ブームが巻き起こったのは、2000年問題の前後の年だ。2000年問題を解決するために、ERPを一気に導入してしまうか、2000年問題が一段落してからERP導入に踏み切るか、前後2年ほどの違いはあったものの、大手企業を中心としたERP導入の波は、1999年から2001年の間に吹き荒れた。その当時は、Windows 2000などが登場して、やっとクライアントPCにもシステムの安定性が出てきた頃でもあった。経営の革新や計画性のある経営資源の活用を目的として、多くの大手企業がERPを導入した。
しかし、当時のERPはメインフレームよりは安いとはいえ、数億円から数十億円という投資を必要としていたために、一部の大手企業を除いては、なかなか導入に踏み切れるものではなかった。特に、ERP導入には価格だけではなくシステムそのものにも、高いハードルがあった。それは、業務をERPソフトの規定するルールに合わせる必要があったからだ。それに対して、メインフレーム時代に開発された業務システムの多くは、現場の業務に合わせた処理内容になっていた。メインフレームやオフコンを主流としていたITは、「合理化」が最大の目的だったために、人手の作業をいかに軽減するかが、導入における評価のポイントだった。これに対して、ERP導入における経営判断は、手作りで業務に即して作ってきた古いITシステムを使い続けるか、ERPというパッケージ導入で国際標準となる業務ルールを全社規模で推進し革新を行うか、を求めているのだ。
ERP活用の目的が「見える化」へと進化してきた
なぜERPを導入したいのか。その目的が、かつての合理化や連結決算に便利だから、という理由を超えて、経営資源の「見える化」に注目する傾向も強くなっている。現在は、いかに市場のニーズを迅速に取り入れて、最適な生産や流通、販売計画を実践できるかが企業競争の優劣を左右する。その業務の現状を経営者がいかに的確に把握できるかが、意思決定力を大きく左右する。そのためには、企業の今の姿が見えなければ、どんなに優秀な経営者でも優れた能力を発揮できない。しかも、この経営資源の「見える化」を実現するためには、業務に合わせて今まで独自に構築したシステムや連携性の低いアーキテクチャでは「無理だ」ということが明らかになってきたのだ。
こうなると、経営的な判断としてのERP導入が、その会社の命運を左右することになってくる。業務に合っているかどうかではなく、これから先の企業の発展に貢献できるITを採用しなければ、市場や取引先からどんどん取り残されてしまうのだ。
トップの強い決断力と現場の協力このふたつがERP導入成功の鍵
ERP導入を成功させるためには、ふたつの大きな力が必要になる。経営者の意思決定力と現場の協力だ。
ERPの最終的な目的は、経営に貢献することにある。単なる決算処理の合理化だけでは、経営を革新するまでにはいたらない。現状を超えるだけの力がなければ、投資するだけの価値がないのだ。そしてもうひとつ、ERPで集計するデータは、現場の協力なくしては成り立たない。どんなに優れたITを構築したとしても、最終的には現場で入力されるデータがすべてになる。今日の正確な情報を把握するためには、昨日までの現場のデータが正確に入力されていなければならない。つまり、現場で正確なデータが定期的に入力されなければ、システムには魂が吹き込まれないのだ。
多くのERP導入における失敗事例では、この現場の協力を無視したシステム構築に原因がある。ERPパッケージに合わせた業務のやり方に現場が協力しないと、必要とするデータが集まらない。かといって、現場の意見を尊重し過ぎると、いつまでたっても汎用的なERPパッケージの導入を推進できない。あるいは、アドオンのようなERPパッケージの追加機能ばかり増えてしまって、開発コストと運用コストの両方から、投資対効果を圧迫してしまうこともある。
現場と経営層とIT部門の協調が理想的なERP導入を実現する
それでは、理想的なERP導入の姿とは、どのようなものになるのだろうか。まず重要なポイントは、それぞれの部門が反発するのではなく、協調することにある。業務の現場と経営層、そして両者を結ぶIT部門が、互いに協力し合ってゴールを目指す導入プロジェクトを実現するのだ。
汎用パッケージの導入によって、業務フローが変わることも現場に納得してもらう必要がある。また、経営層が求めるデータや指標を得るためには、どのような仕組みが必要になるか、そのために取り組むべき課題を明確にすることが、IT部門にも求められる。それは、システムの開発や改修だけではなく、現場への教育や啓蒙といった活動を伴うこともある。そして、こうした取り組みを円滑に推進していくために、経営者は現場やIT部門に対して明確な理念やメッセージを提示していく必要がある。それはなにも、技術的な内容である必要はない。たとえば、「在庫率の半減」とか「納期をあと一週間は短縮する」といった具体的な経営目標で十分だ。そのために、現場とITは何をするべきなのか、その取り組みの答えとしてERPという手段が導き出されれば、その導入は成功する。
勝ち残るために、もはや合理化だけでは不十分なのだ。ビジネスの「見える化」のためのITと、その見えた「変化」に対する次の一手が打てるITを備えることが、あらゆる企業に求められている。今、中堅企業向けのERPが、数多く登場している。その中で、自社に合った製品を見つけられるかどうかは、製品の機能だけではなく、経営目標を受け止めて答えが出せるシステムかどうかの判断が、重要な鍵を握っている。
田中 亘氏
筆者のプロフィール/筆者は、IT業界で20年を超えるキャリアがあり、ライターになる前はソフトの企画・開発や販売の経験を持つ。現在はIT系の雑誌をはじめ、産業系の新聞などでも技術解説などを執筆している。得意とするジャンルは、PCを中心にネットワークや通信などIT全般に渡る。2004年以降、ITという枠を超えて、デジタル家電や携帯電話関連の執筆も増えてきた。
■経営資源の「見える化」のためのIT
【コラム】「業務改革・改善のためのIT活用とは」
・第8回 オープンソースシステムに求められる統合化の波 【Vol.27】
・第7回 セキュリティとコンプライアンスに向けた取り組みの第一歩とは 【Vol.26】
・第6回 業務の効率化と透明性を実現するワークフローが理想 【Vol.25】
・第5回 古くて新しいセキュリティ対策はマネジメントにある 【Vol.24】
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