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2008年3月時点の情報を掲載しています。
HD DVDとBlu-Rayによる次世代光ディスク戦争は、意外なほど早期にBlu-Rayの勝利に終わった。争いが必要以上に長引かなかったことは、関係者にとっても、潜在的ユーザーにとっても幸いなことに違いない。
とりあえずHD DVDには勝利した格好のBlu-Rayだが、これで次世代メディアの座は約束されたのかというと、決してそうではない。Blu-Rayにとって当面かつ最大の敵は、HD DVDではなく現行のDVDであるからだ。すでに普及し、安価なDVDをBlu-Rayが置き換えられるかどうかは、まだハッキリしていない。かつて、LDとVHDが第一次映像ディスク戦争を戦った時、LDは勝ち残ったものの、王者VHSを倒すことはできず、マニア向けのニッチメディアにとどまった。Blu-Rayが第二のLDになる可能性もなくはない。
さらにBlu-Rayを脅かすのは、インターネットを通じて配信されるビデオだ。YouTubeやニコニコ動画といった動画投稿サイトが世界的な大ヒットとなっているのは多くの方がご存じだろう。すでにYouTubeに動画を簡単にアップロードできるデジタルカメラが出現したほか、ニコニコ動画モバイルがiモードの公式サービスになるなど、広がりを見せ始めている。米国ではAmazonやiTunesなど、高画質な映画の有償販売やレンタルがスタートしており、これに対応した民生用再生機器も登場し始めた。音楽がCDに代表されるパッケージ販売から、iTunesや着うたフルのような配信サービスにシフトしつつある今、それよりデータ量が多いとはいえ、映画に代表される動画コンテンツの供給がいつまでパッケージ販売を主流とするのか、はなはだ不透明な状況にある。
Blu-Rayにとって動画のネット配信がやっかいなのは、まったく異なるエコシステムの上に成り立っているからだ。これまで動画コンテンツの販売は、VHSテープからDVDへと切り替わってきた。これがBlu-Rayになろうとも、動画コンテンツ販売のエコシステムは変わらない。映画会社を頂点に、パッケージ制作会社、卸、小売店、レンタル事業者などで構成されるエコシステムは維持され、単に乗り物がDVDからBlu-Rayになるだけの話だ。
しかし動画コンテンツ販売の中心がネット配信になると、流通関連を中心に大幅な変更を余儀なくされる。音楽販売にAppleのような「異業種」が参入し、大成功を収めたような出来事が、動画の世界でも起こるかもしれない。DVDからBlu-Rayへのシフトは、同じエコシステムの中での変化に過ぎず、社会的、経済的な影響は限定的だ。しかし、動画コンテンツ販売の重心が、DVDからネット配信へシフトすることがあれば、それはエコシステム間の遷移であり、より大きな社会的影響を持つ。
そのような観点から見た時、次世代光ディスクがHD DVDとBlu-Rayの2陣営に分かれ、「身内の戦い」に2年を費やしてしまったことがマイナスに思えてならない。この2年間でコンテンツのダウンロード販売は大きく普及し、それを一時保存するためのフラッシュメモリのバイト単価はどんどん下がっている。次世代光ディスク戦争の真の勝者は、漁夫の利を得たネット配信なのかもしれない。
元麻布春男
IT系雑誌やインターネットのコラムなどで広く活躍するフリーライター。
執筆歴は15年以上におよぶ。1960年生まれ。
【IT Trend Watch】
・第1回 SaaS化の隠された思惑 【Vol.36】
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