市場創造型コンサルティング会社イー・ウーマンや国際コミュニケーションのコンサルティング会社ユニカルインターナショナルの社長を務めるかたわら、手帳ブームの草分けといわれる「アクションプランナー」手帳を開発、テレビコメンテーターとしても活躍する佐々木かをりさん。豊富な国際経験と女性ならではの視点をもとに、ビジネス界にさまざまな提言を行っている佐々木さんに、仕事の成果を高めるためのコミュニケーション術と時間管理術について聞いた。
BP:佐々木さんは著書『必ず結果を出す人の伝える技術』の中で、「伝え方」「話し方」次第で仕事の成果は大きく変わると書かれています。一般に営業ンの訪問先における話し方には、どのような問題があるとお感じになられますか?
佐々木かをり氏(以下、佐々木氏):商売は、相手が買いたいと思うものを売ってはじめて成立するものですが、成績が思うように上がらない営業マンの方の中は、相手が何を求めているのかをあまり考えず、ただ売ることだけに没頭してしまう方も多いようです。
そういう方は、相手が誰であろうと、今日の相手の気分がどうであろうと関係なく、いつも同じように商品の説明をしてしまいがちです。大切なのは、相手の方が求めているものをしっかりと聞き取って、そのニーズに合った商品説明や提案をすることです。
BP:相手が求めるものを読み取るために、心掛けるべきことは何でしょうか?
佐々木氏:「話すこと」以上に「聞くこと」に集中するのが基本でしょうね。私が経営するイー・ウーマンという会社では、人前で話す力を高めるための「講演者総合養成講座」を提供しています。受講される方々の中には、最初のうちは自分の伝えたい話を一方的に話すだけで、聞き手のことをまったく気にしない方もいらっしゃいます。用意した原稿を丸暗記して一方的に伝えるだけとか。どんなに素晴らしい内容の話であっても、これでは聴衆の心には残りません。本当に話が上手な方は、聴衆が何を聞きたいと思ってやって来るのかを事前に考えておくだけでなく、講演がスタートしてからも、内容は理解できているのか、心は動いているのか、といった聴衆の様子を探りながら、自分の伝えたいことが伝わりやすいように、話の流れをつくり上げていきます。
ちなみに私は、時間管理をテーマに講演をする機会も多いのですが、トップクラスの営業マンの方々が集まる講演会であれば、その方々の課題だろう事例を取り上げ、時間管理をしっかりとすれば、どのように問題が解決し、もっと売り上げを伸ばすことができるのかという角度らお話しをします。一方で、中高生や小学生に時間管理の大切さを教えるときは、塾や習い事でどんなに忙しくても、時間管理をきちんとすれば、本を読んだ、ゲームを楽しんだりする時間が増えて楽しくなるよ、という子どもたちの目線に立った講義をします。
時間管理に対する私の哲学や具体的な方法といった訴えたいテーマは変わりませんが、取り上げる事例や話し方、話すテンポ、時間配分といったことは聞く相手によって変えていきます。相手の反応をその都度感じながら、話の流れや内容を少しずつ調整していくと、伝わりやすくなるものです。
営業トークも同じです。単に商品情報を伝えるだけでなく、いかにお客さまの立場に立った説明の仕方ができるかということが大切です。
サーバや複合機を売る場合でも、経営者の方に製品の魅力を伝えるのと、総務部長さんに伝えるのとでは、おのずと訴えるべきポイントが違ってくるのではないでしょうか。
聞き手が興味を持ってくれるように、話の組み立て方に工夫を凝らすことも大事です。話すテーマや聞く相手によっても組み立て方や展開の仕方は異なると思いますが、営業トークの場合、ミステリー小説のように最後まで種明かしをしないのではなく、まず結論を最初に持ってき
て、相手を話に引き込んでから、詳し内容を説明するほうが有効かもしれませんね。
BP:『必ず結果を出す人の伝える技術』の中では、会話におけるノンバーバル(言葉以外の要素)の重要性についても解説しておられますね。
佐々木氏:日本人は内面の切磋琢磨に美徳を感じる一方で、欧米人と比べると、外見をおろそかにしがちな側面があるように感じます。真面目さや勤勉さを強調することには一生懸命なのに、今日は取引先との厳しい交渉になるから勇ましい服を着ていこうとか、逆に柔らかめのトーンの服装にしようとか、相手や状況に応じて見た目やジェスチャーを変えようと工夫する人はあまり多くないのではないでしょうか。
服装などの見た目も、自分を伝えるための重要な要素です。目に見えるものというのは、とても情報量が多いですよね。同じ話をしていても、スーツ姿のときと花柄のTシャツ姿のときでは相手の印象も違ってきます。服装だけでなく、姿勢や髪型、顔の筋肉の使い方、ボディランゲージ、使っているノートやペンなど、外見のあらゆることを意識したほうがいいのではないかと思います。声の大きさや高さ、しゃべる速さ、間の取り方なども、相手に合わせて使い分けてみてください。
ノンバーバルを磨くレッスンとして、毎日鏡を見ることを心掛けてみてはどうでしょうか。私が周りの人によく言うのは「あなたが鏡で自分を見るのは1日1回だけど、周りの人は1日中あなたの姿を見ているのよ」ということです。私の場合、パソコンに真剣に向かっていると恐い顔になっていたり、顔の力が抜けていたりすることもあるので、机の上に鏡を置いて、常に自分の表情をチェックしています。まずは鏡を見る習慣をつけて、気付いたところから直してみるのがいいかもしれませんね。
BP:佐々木さんは時間管理について、独自の哲学をお持ちですが、経営者や営業マンが上手に時間管理をするためのアドバイスをお願いします。
佐々木氏:手帳の使い方には大きく分け
て3つあります。一つは、「何時に誰と会う」「何時からミーティング」というように手帳に「約束」を書き込む方法です。ほとんどの人がこの方法を利用していますが、これは約束を管理するだけで、時間を管理することはできません。2番目に多いのは手帳をメモ帳として使う方法。予定や思いついたことを余白にどんどん書き込むのですが、やはり時間管理はできません。
3つ目は、私が開発した「アクションプランナー」という手帳を利用する方法です。これは「自分を予約するための手帳」で、約束の有無だけでなく、自分が持っている時間まで見ることができます。時間管理をするには、この手帳がベストだと思っています。
「アクションプランナー」のフォーマットは見開きが1週間分で、月曜日から日曜日まで、それぞれ朝6時から夜23時30分まで30分刻みのスケジュールを記入できます。つまり、日ごとだけでなく、時間ごとの自分の動きが見渡せるのです。
普通の手帳だと、1日分の狭いスペースに3〜4件の予定を書き込むだけで、その日のスケジュールがぎっしり埋まっているように感じてしまいます。でもこの手帳なら、予定と予定との合間に、思った以上に余白の時間があることが視覚的に把握できます。
「今週中に企画書をまとめなければいけない」と思っていても、空いている時間が見えないと、無駄に時間を浪費した揚げ句に間に合わなくなることがあるものですが、この手帳を開いて空き時間を見つければ、「この時間を使ってまとめてしまおう」といったように、時間を上手に使えるわけです。自分が使えるすべての時間が見えるので、余白が残っていれば追加の仕事を受けるし、なければ受けない、というシンプルな発想もできるようになります。
「どうしても保護者会に行かなければならない」といったプライベートな予定が入ったときでも、この手帳があれば、前後の空き時間に仕事を振り分けることが可能になります。
「この手帳を使うようになって売り上げが2倍に伸びた」という営業マンや、「充実した毎日が送れて気持ちがハッピーになれた」という方も大勢いらっしゃいます。無意識のうちに過ぎていた時間が見えるようになり、自分の意識で使えるようになるというのは、人の心を幸せにする効果があります。
例えば、朝寝坊をすると「せっかくの時間がもったいない」と罪悪感にかられますが、前もって「この日は何もしないで、だらだらしよう」と予約を入れておけば、どんなに寝坊をしても、予約どおりの行動ができたので、一日中ハッピーな気分でいられるはずです。期待と行動が一致するということが、人間の精神衛生にとって、非常にいいことなのです。
精神状態がよくなると、人は幸福を感じます。幸福を感じればやる気が出て、人にやさしくしようとするし、目標を高くしようとします。すべての社員がハッピーな状態になれば、企業の生産性はものすごく上がります。
時間管理の目的は、ただ単に仕事を効率よく詰め込むことではなく、予定に行動を合わせることによってハッピーな気持ちをつくり、より前向きな思考や行動を取ることによって、生産性も上がるという、いいサイクルをつくることにあるわけです。
この哲学を抜きにしてスケジュール管理だけをしようとしても、物事はうまくいきませんし、人生も変わらないけれど、自分をハッピーにしていこうという発想のもとで手帳を使うと、すべてがうまく回り始めると思います。
BP:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。
佐々木氏:私たちの会社は企業コンサルティングや商品開発のお手伝いなどをしていますが、そのときに重要なキーワードの一つとしているのがダイバーシティ(多様性)です。
多様性というのは、さまざまな視点で物事を考える力です。今、日本という国や日本の企業が抱えている課題の多くは、日本経済が戦後60年の間、ある一定の価値観だけによって、ものすごいスピードでつくられてきたことに起因しているのではないでしょうか。スピードを上げるためには、みんなが価値観を共有し、一枚岩となって突き進むことが必要だったのだろうと思いますが、今日の世界はグローバル化が進み、日本人も海外のさまざまな国に旅をしたり、いろいろなライフスタイルを楽しむようになり、人々の価値観や物事の判断、消費の行動といったものが多様化しています。
そうした時代における経営は、一つの価値観だけで「こうやるぞ」と決めるのではなく、多様な消費者ニーズや株主ニーズに対応できるような経営にしなければ、会社として立ち遅れてしまうかもしれません。ですから、ダイバーシティというのは非常に重要なキーワードだと思っています。
いままでの価値観を捨てる必要はありませんが、それ以外の多様な価値観も受け入れられるようにしてみてはどうでしょう。売り方や売り先など、ちょっと視点を変えるだけで、日本の持っている優れた技術やサービスは、まだまだ売れると思います。
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