ビジネス、マナー、小説、恋愛エッセイなど多ジャンルにわたる書籍を890冊も執筆するかたわら、企業向けのコンサルティングやセミナー活動を精力的にこなし、俳優としても活躍する中谷彰宏さん。仕事柄、数多くのビジネスパーソンと接する機会の多い中谷さんは、「ビジネスで成功する人は3つの要素を持っている」と言う。顧客から信頼され、社内からは慕われるビジネスマンになるための自分の磨き方について教えてもらった。
BP:中谷さんが考える「ビジネスで成功する人」の条件とは何でしょうか?
中谷彰宏氏(以下、中谷氏):ビジネスに限らず、恋愛でも、遊びにおいても、「成功する人」は3つの要素を持っています。「非合理性」「行動に意味を求めない」、そして「努力の習慣化」です。
人間は、とかく物事を合理的に処理しようとします。報酬が100万円なら、100万円以上の仕事はしないのが当たり前。要領のいい人なら、80万円ぐらいの仕事で済ませて、20万円儲けてやろうと考えるかもしれません。
これに対して、非合理的な人は、たとえ報酬が100万円でも200万円の仕事をしたりします。
合理的な考えの持ち主から見れば、「なんて無駄なことをしているんだ」と思うかもしれません。でも長い目で見ると、非合理的な人のほうが成功します。「これ以上やったら損をする」と、目先の損得ばかり考える人は、自分を伸ばせるチャンスを自ら捨てているようなものだからです。
何かをやろうとするときに、意味を求めないことも大切です。上司から仕事を押し付けられたときに、「この仕事にどんな意味があるのですか?」と聞いたり、飲みに誘われると「業務命令ですか?」と聞いたりする人がいます。でも、行動に意味を求めようとすると、自分が「無意味だ」と考える行動は一切取らなくなり、チャンスを狭めてしまうことになります。
BP:「努力の習慣化」も成功のための大切な条件だということですが。
中谷氏:ゴルフに例えればわかりやすいかもしれませんね。日ごろからコツコツ練習を重ねるのではなく、コンペの前日だけに一夜漬けで猛特訓しても、いい結果が出るはずはありません。結果を出しているビジネスマンは、人知れずコツコツと努力しているものです。
また、日ごろの努力を怠りがちな人は、何事にもコツを求めたがる傾向があります。そういう人は、営業成績のいい営業マンに「成功するためのコツはありますか?」と聞いたりしますが、たった一つのコツを覚えるだけで成功できるのなら苦労はありません。
大切なのは、手っ取り早く成果を得ようとするのではなく、非合理的で意味のない努力をコツコツと続けること。それがやがて、大きな成果となって自分に返ってくるのです。
「非合理性」「行動に意味を求めない」「努力の習慣化」の3つの要素は、それぞれが結び付いています。この3つを心掛けながら日々のビジネスに取り組めば、必ず成功できるはずです。
BP:本誌読者には営業現場で活躍するビジネスマンも多いのですが、3つの要素を踏まえて営業活動をすると、どのような効果が期待できるのでしょうか?
中谷氏:お客さまの目線で考えてみればわかると思います。
100万円の予算に対して、80万円分の仕事しかしてくれない取引先と、200万円分のサービスを提供してくれる取引先があったら、どちらと長く付き合いたいと思うでしょうか。
また、厳しい経済状況が続く今日においては、お客さまが上司から100万円の仕事を「80万円に値切れ」と命じられることもあるでしょう。でも、日ごろから200万円のサービスを提供していれば、「あの会社は本当に頑張っています。100万円でも安いかもしれません」と上司をいさめてくれる可能性もあります。
さらには、お客さまから別の会社に、「あの会社はお勧めですよ」と紹介してもらえるかもしれません。
100万円の仕事のために200万円分の努力をするのは非合理的な行動ですが、お客さまのため利益のために、目先の損得を考えずに行動することが信頼関係の向上に結び付き、長い目で見れば、売り上げを伸ばしたり、会社を生き延びさせたりする力になるのです。
逆に目先の損得だけで動いてしまうと、お客さまも損得だけで物事を判断するようになってしまいます。予算はどんどん削られ、取引そのものがなくなってしまうかもしれません
BP:「行動に意味を求めない」ことについてはどうでしょうか?
中谷氏:営業活動に意味を求めようとすると、買ってくれそうもないお客さんは敬遠するようになります。「予算がなさそうだ」とか「会社の規模が小さい」とか「相手の担当者が若すぎる」とか、自分勝手な判断によって行動の幅を狭めてしまうのです。
「権限のない若手の担当者よりも、偉い人にアプローチしたい」と考えるのは、若手の担当者もやがて偉くなり、偉い人はいずれ退職するという長期的な視点が欠けている証拠です。行動に意味を求めようとするのは、短期的な利益や効率ばかりに目を奪われているからでしょう。
自分の目線だけでしか物事を考えないと、行動に意味を求めるようになってしまいます。つねに相手の立場で考えることが大切なのです。
努力の習慣化についても同じことが言えます。自分が何かを売りたいときだけに連絡をしてくる営業マンがいますよね。期末なのに売り上げが目標に達していないとか、上司に発破を掛けられたとか。そういう人が営業成績を上げることは、まず無理でしょうね。
恋愛と同じです。モテない男性は、会いたいときだけ女性に連絡するけれど、モテる男性は、たいした用事がなくても頻繁に電話をしたり、メールを送ったりしているものです。コンスタントに成績を上げている営業マンは、とくに売るものがなくても、つね日ごろからお客さまのところに顔を出しています。そうした日々の小さな努力の積み重ねが、お客さまとの信頼関係を築き、結果として営業成績も付いてくるわけです。
大切なのは、「お客さまにとって何がプラスなのか?」を考えること。自分の営業成績を上げることよりも、お客さまにどうしたら喜んでもらえるかを考えながら、それを実現するために地道に日々行動することです。
BP:3つの要素は、お客さまとの関係だけでなく、社内の上司と部下との関係にも当てはまりそうですね。
中谷氏:たとえば、組織をまとめるリーダーは合理的な考えの持ち主でなければならないと思うかもしれませんが、そうではありません。傑出したリーダーは、むしろ非合理的なのです。
アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は、公の場で自社製品の具体的な説明を行ったことは一切ありません。細かい説明は製品担当者にまかせて、自分が語ったのは「世界を変える」という志だけです。
坂本龍馬の人気が高いのも、具体的なことは何ひとつ言っていないからだと思います。ただ「日本を変えたい」という強い志だけで行動したことが多くの人の胸を打つのでしょう。
志とは非合理的なものです。物事を合理的に進めようとすると、「損をすることはなるべく避けよう」と思って行動の幅が狭くなってしまうものですが、非合理的な人は「成功するかどうかわからないけれど、何となく面白そうだからチャレンジしてみよう」と考える。結果として、とてつもなく大きなことを成し遂げたりするものなのです。
リーダーとして大切なのは、損得勘定を超えた高い志を持つこと。そして結果に惑わされないことです。人は結果に付いてくるのではなく、志の高さに付いてくるのです。
行動に意味を求めないことも、リーダーがプロジェクトを成功させるための重要な条件でしょうね。意味を求めると、行動にいろいろな条件を付けようとするので、どうしてもフットワークが悪くなってしまいます。何事もすぐに行動した者の勝ちです。先に動いたほうが、チャンスに結び付く可能性は高いわけですから。
BP:志を持つうえでのポイントがあれば教えていただけますか?
中谷氏:志を持つというのは、人々を引き寄せる旗を揚げることです。どうせ揚げるのなら、「他人ではなく自分が揚げる」「なるべくでかい旗を揚げる」「馬鹿じゃないかと思われるような旗を揚げる」、そして「揚げた旗は降ろさない」の4つを目指してはどうでしょうか。
成功するというのは、突き詰めれば仕事や人生を面白くすることだと思います。面白さをとことん追求するなら、自分が動くべきですし、失敗を恐れず大きなことにチャレンジしたほうがいいのではないでしょうか。
リーダーとなる人は、自信を持つ必要はありませんが、覚悟を持たなければなりません。
自信だけで何かに取り組もうとすると、目標どおりに行かなくなったときに挫折してしまいます。でも、「失敗してもいいや」という覚悟を持っている人なら、うまく行かなくても結果を面白がることができて、次々と新しいプロジェクトに挑戦できるはずです。
BP:話題をがらりと変えますが、中谷さんは大学時代、「1カ月に100本の映画を観る」という目標を掲げて、4年間で約4000本もの映画をご覧になられたり、ビジネス、マナー、小説、恋愛エッセイなど多ジャンルにわたる書籍をこれまでに890冊以上も執筆されたりしています。コンサルティングやセミナー活動でお忙しい中、これほどの仕事をこなす生産性の高さは、どうすれば身に付けられるのでしょうか。
中谷氏:仕事や生活のあらゆる場面で、つねに「どうすれば生産性を上げられるのか」を考えながら行動することでしょうね。映画やスポーツを観るときでも、「面白かった」「面白くなかった」と結果だけを堪能するのでは時間がもったいない。サッカーの試合であれば、90分の間に、選手たちの戦い方、キャプテンや監督の動き方、さらにはチーム運営やスタジアムにおけるサービスの変化、客層の変化など、さまざまな情報を入手することができるわけです。「このチームに営業に行くとすれば、こんな提案ができそうだな」といったアイデアも生まれるかもしれません。
BP:長引く不況とともにIT業界も厳しい状況が続いています。こうした時代を生き抜くためのアドバイスをお願いします。
中谷氏:「IT業界は厳しい」という認識がもっと広まったほうがいいかもしれませんね(笑)。一般に、市場が2割縮小すると企業は3割撤退すると言われ、その分1社当たりの売り上げは増えます。生き残ることができれば、チャンスはあるということです。
ただし、景気が悪いときには、伸びる会社と伸びない会社で大きな差が出るものです。厳しい時代だからこそ、「非合理性」「行動に意味を求めない」「努力の習慣化」の3つの要素を踏まえながら、長期的な視点でお客さまとの関係づくりに取り組むことが大切ではないでしょうか。短期的な損得勘定だけで商売をしていたら、予算カットなどを理由に値引きされたり、取引そのものを終了されたりしてしまうこともあるわけですからね。
|