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にっぽんの元気人
2013年5月時点の情報を掲載しています。

トップ自らがお客さま第一主義を徹底することが経営を成功させる
国内外に1,300店以上を展開し、「世界最大のカレーレストランのチェーン店」としてギネスブックにも登録された「カレーハウスCoCo壱番屋」。同チェーンを運営する壱番屋の創業者である宗次椏氏は、2002年に53歳で会長を引退するまで、20年連続で増収増益を達成した伝説の経営者だ。「自分には能力がないことを自覚していたので、とことん現場主義にこだわってきた」と語る宗次氏は、トップ自らが現場第一主義、お客さま第一主義に徹し続けることが、経営を成功させるために欠かせない条件であると信じている。


経営者が誰よりも厳しくなければ会社は成長しない
BP:宗次さんはつねづね、経営における現場第一主義、お客さま第一主義の重要性を説いておられます。具体的には、これらをどのように実践していくべきなのでしょうか?

宗次椏氏(以下、宗次氏):
企業が現場第一主義、お客さま第一主義を実践していくには、トップが率先垂範して取り組むことが大切です。背中で教えるのがいちばんいいんじゃないですかね。教えるといっても一朝一夕には分かってもらえないものですが。コツコツと積み上げていったものが姿勢になって、社風になるのです。
 経営者の姿勢や生き方がよくないと、継続的で安定した経営はできないのではないかと思います。会社が大変なときは現場第一、お客さま第一で一生懸命に励むけれど、ちょっとゆとりができるとよそ見をしたくなる。経営をおろそかにして、ゴルフや社交にのめり込んだりするものです。そうではなく、経営者自身がつねに確かな目標を見つめながら、誰よりも厳しく現場第一主義、お客さま第一主義に、取り組むべきではないかと思います。

BP:背中を見せて教えるというのは、会社が大きくなればなるほど難しくなるのではないかと思うのですが。

宗次氏:
幸い壱番屋の場合は、会社が大きくなっても一緒でした。右腕が1人、2人と増えていき、そういう人たちが責任を持ってやってくれました。現場第一、お客さま第一に徹したおかげか、会社が順調に業績目標をクリアして発展したこともよかったのかもしれません。社員全員が「いずれは自分も幹部候補になる」という意欲を持っていましたからね。

BP:宗次さんは壱番屋の社長時代、毎朝お客さまからのアンケートを読むことを日課とされていたようですね。1日1000通ものアンケートを3時間半かけて読んでおられたとか。やはり、お客さまの声に真摯に耳を傾けることが経営の基本なのでしょうか。

宗次氏:それこそが現場第一主義、お客さま第一主義です。明日からの方向性や、いまの問題の解決策といったものは、すべて現場にヒントが詰まっています。ですから、わたしはコンサルタントの先生が開く勉強会などには一度も参加したことがありません。すべて自己流でやってきました。現場にいればお客さまの不満は伝わってきます。例えば、下げられた食器やお帰りになるときの表情を見るだけで満足度が分かります。同じように社員の態度や表情からも、いろいろなことを感じ取ることができます。
 メニューや営業時間など、できるだけ、お客さまが望まれることをやってきました。自分たちの都合だけでは商売はできません。営業時間の延長を望んでいる声が多ければ午前0時まで延長する。ややもすると、延長した時間の費用対効果は赤字になると計算してしまうものですが、それではお客さま本位の考え方にはなれない。最初は大変でも、やり続けることによってまたお客さまが増えていくわけです。半年、1年で結果を出そうとすると、どうしても費用対効果が先になってしまいます。やはりお客さまに喜んでいただくこと、期待に応えることが大事でしょうね。

BP:それが大切と分かっていても、どうしても業績への影響を恐れてしまう経営者が多いのではないかと思います。

宗次氏:
壱番屋の場合、中長期的な目標よりも、日々の改善にとことんこだわることを徹底してきました。もちろん会社ですから、売上高や経常利益などの目標は掲げますが、それよりもいい店をつくることに励んできたのです。
 こだわっても中々うまくゆかないものですから、こだわらなければサービスはどんどん崩れていきますよね。
 職位の高い人ほど徹底してこだわり続けること。それがサービス業にとって大事なんじゃないかと思いますね。


商品力は49まで50以上は人間力がモノを言う
BP:部下の方々は、かなり叱咤激励されたのですか。

宗次氏:
しましたね。「そこまで怒ることはないでしょう」と言われることもたびたびでした。やはりお客さまの期待に応えたいので甘くはできませんし、問題に気付いたら指摘せざるを得ません。店舗でも、その場でスーパーバイザーやオーナーを呼び付けたりして。お客さまから褒められても、「いや、あまり褒めないください」と言ったり。サービスの質に「これでいい」というゴールはないですからね。そうした積み重ねのおかげで、振り返って見れば業績が右肩上がりに伸び
ていったわけで、最初から会社を大きくしようと考えていたわけではないのです。
 よく「どうすれば現場の士気が上がりますか?」と尋ねられるのですが、業績をよくすれば、誰でも一生懸命やるのではないでしょうか。
 経営者にとっては、経営がうまくいくことがいちばん面白いのではないかといます。ゴルフや友人との付き合いよりも、毎期増収増益を達成することのほうが経営者には幸せです。
 その結果、社員にも昇給をしてあげられるわけですから。
 スポーツ選手や音楽家の方々とのお付き合いが多いのですが、子どものころから天才、秀才と言われてきたアスリートやミュージシャンでも、人知れず、陰ではものすごく頑張っています。それでも満足な収入を得られない人も多い。それに比べると、多くの経営者は楽をしすぎだと思います。ひたむきに努力をすれば、成功できる確率がいちばん高いのが社長だと思います。

BP:宗次さんを経営にのめり込ませたものとは何でしょうか?

宗次氏:
やはりお客さまを満足させたいという気持ち、喜んでいただいて評判が口コミで広がっていくことへの手応え。それでだんだん業容が大きくなってくると、ますます期待に応え続けないわけにはいかなくなりますよね。
 脱サラをして最初に始めたのは不動産業でしたが、このときは本当にいい加減でした。25歳で喫茶店をオープンしてから180度人生が変わりました。変えてくれたのは接客業というサービスの魅力ですね。名古屋の場末で、コーヒーが1杯150円の小さな喫茶店を始めたのですが、地元では当たり前のモーニングサービスは一切しませんでした。商品をディスカウントして集客するのではなく、心のこもったサービスを提供する。これができなければ、商売を継続することはできません。
 カレーハウスCoCo壱番屋(以下ココイチ)を始めたときもそうです。そもそも喫茶店のメニューとして始めたカレーが好評だったことが専門店を出すきっかけとなったのですが、サービスに自信がなければ、どんなに評判がよくても場末のカレー専門店を始めることはなかったでしょう。なんの勝算もなく、どこにでもありそうなカレー専門店をオープンと聞けば、100人中100人が反対しますよね。それを一切相談もしないで、自分のサービスに対する信念だけでスタートしたのですから散々苦労はしました。その後、日商売上が6万円に届いて、何店か出店して、というように少しずつ大きくなっていった。周りの声よりも、自分の信念に重きを置いていたわけです。他人に迷惑を掛けず、自力で切り開きたいという考えが強いんですね。
 喫茶店時代、モーニングを出すことに抵抗したのは、商品のサービスだけお客さまに喜んでいただくのはどうかと思ったからです。資金を貸してくれる銀行からも、豆の卸商からも、「モーニングを出していない店はないから絶対に駄目だ」と言われたのですが、「モノではなく、心からのサービスを提供して、笑顔であふれる店にしたい」と抵抗したのです。
 名古屋の喫茶店では、飲み物に軽いおつまみがサービスで付きますが、それも30円いただいていました。いまでもココイチは、カレーの付け合わせのラッキョウに30円いただいていますが、これも過去の常識では考えられなかったことですよね。大事なのは、モノではなく、ソフトの部分だと思っています。商品力はどこまでいっても100のうち49まで。50以上の評価は人間力だと信じています。
 お客さまにいつも「ありがとうございます」と感謝をする。それでだんだん信用を得て、応援してくださる人も増えていったのです。

BP:ココイチのお店では、お客さまへの感謝の気持ちを込めて、毎朝ご近所を掃除しているそうですね。

宗次氏:
地域に愛される店、必要とされる店をつくることが大切ですね。店主自らが掃除を一生懸命やっている店を見ると、「この店大丈夫かな?」なんて絶対に思わないですよね。掃除をしていると、それを見た人は心を開いてくださいますから。地域の人も、通り掛かった人も安心して「ああ、いつもありがとうございます。ご苦労さまです」といろんな言葉を掛けてくれますよね。


自分は二の次にしてお客さまの信頼に応える
BP:2002年に53歳という若さで壱番屋の会長職を引退されていますね。きっかけは何だったのでしょうか。

宗次氏:
できればあと2年ぐらい、1,000店舗を達成してから、それを花道にして辞めようかとも考えていました。ところが、現在の社長(浜島俊哉氏)に「社長になる自信が付いたら、いつでも言ってくれ」と余計なことを言ってしまったら、わずか半年後に「やらせてください」と(笑)。でも、嬉しかったですよね。引退してから「財団でもつくろうか」と考え、持っていた壱番屋の株を売って、そのお金を社会貢献に使わせていただくことにしたのです。結局、財団ではなくNPOにしたのですが、奨学金の提供や福祉の助成、音楽ホールの運営などを行っています。
 社会貢献の仕事に携わることになったわけですが、現場第一主義、お客さま第一主義を重視する経営者マインドはまったく変わっていません。
 自分の欲求を満たすだけでなく、事業にかかわるすべての人に喜んでいただきたいですからね。
 講演などで全国を飛び回っていますが、いまでも名古屋にいるときは音楽ホールでお客さまのお出迎えとお見送りをしています。お客さまの声に耳を傾けて、ホールの環境やサービス、プログラムの内容などについて日々改善を図っています。他人任せにはできませんね。もしそういう気になったら、仕事を辞めるべきだと思っています。

BP:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。

宗次氏:
お客さま第一主義の大切さは、あらゆるサービス業に共通していると思います。いまは24時間頑張っておられる会社も多いわけですから、事務機器やIT機器などが夜中に故障してもすぐに駆けつけるとか、お客さまが困っておられるのなら、一つひとつ手を差し延べてあげることが大事ではないかと思います。最初は大変ですけど、そこから信頼が生まれるのですから。
 お客さまだけでなく周囲の人すべての期待に応えることが大切で、自分のことは二の次にすべきです。そういう生き方をしていると、人も企業もだんだん伸びていくのではないでしょうか。

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宗次 椏氏
Tokuji Munetsugu

◎ P r o f i l e
1948年、石川県生まれ。生後間もなく孤児院に預けられ、3歳の時に宗次家に養子に入る。愛知県立小牧高校卒業後、株式会社八洲で数年間実務を経験し、大和ハウス工業に移籍。同社に3年在籍したのち、不動産仲介業を経て、64年に喫茶店「バッカス」を、65年には、二号店として「浮野亭」をオープンさせる。そして、68年、「カレーハウスCoCo壱番屋」の一号店をオープン。フランチャイズシステムを確立し、日本だけでなく海外にも出店。2004年12月には1000店舗を達成する。その後、2002年5月に会長職を退き、ココイチ創業者として、特定非営利活動法人イエロー・エンジェルを設立し、さまざまな慈善活動にも取り組む。






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