Amazonに代表されるネット販売型の書店に対して、書籍の値引きと無料配送を禁じる法律。フランス上院で2014年6月26日に可決され、大統領の署名を経て同年7月に施行された。ねらいは実店舗を持つ国内の中小書店の保護だ。 Amazonは、書籍・雑誌のネット販売と電子書籍(Kindle)で急成長を遂げたインターネット企業である。2012年の売上高(連結)は約611億ドル(約7兆3320億円)、世界11か国でビジネスを展開中だ。書籍以外の商品のネット販売やクラウドサービスでも、世界有数の存在である。 これだけの大型企業がインターネットを活用してグローバルにサービスを提供するとなると、各国・地域に根付いた既存ビジネスとの間で軋轢が生じることは避けられない。小売業界が強いヨーロッパではアメリカ発のネット系企業に対する警戒感が特に強く、グローバルなネット販売を規制するためのさまざまな法律や制度が作られてきた。反アマゾン法の直接の条文は「値引きと無料配送の禁止」となっているが、その真のねらいがこれまでの“反グローバル”規制の延長線上にあることは間違いない。 そもそも、文化大国を自認するフランスは、小規模経営の書店を大手チェーンから守るために書籍の値引きを5%までに制限する書籍再販法(ラング法)を1981年に制定。Amazonなどのネット販売書店にもこの規制は適用され、定価の5%までの値引きは許されていた。 しかし、大量販売でビジネスの効率を高められるネット販売書店にとって、5%という値引き許容幅はあまりにも小さい。そこで、「重たい本を持って帰らなくて済む」ことを実店舗に対する差別化要素として打ち出すことにした。配送料をゼロにすれば、値引き率が同じでもネット販売書店のほうが消費者にとって魅力的になるからである。フランス議会はこの状況を「ラング法の精神に反する不当な値引き行為」と判断。実店舗の書店を保護するために、実店舗以外での値引きと無料配送の両方を禁止する条文をラング法に追加したのである。 これに対抗して、Amazonは2014年7月から書籍の配送料を1ユーロセント(0.01ユーロ、約1円47銭)に引き下げ。消費者にとっての魅力は多少薄れたものの、“無限”の在庫と短期納品という強みを武器にネット販売書店のビジネスを続けている。 大型のネット販売書店VS実店舗を持つ中小規模書店という対立の構図は日本でも生まれているが、反アマゾン法のように強烈な法律を制定しようとする動きは今のところない。書籍・雑誌の値引きは再販法で値引きが禁止されているものの、無料配送はAmazonを含む多くのネット販売書店が実施中。しわ寄せをかぶる配送業者の側も、ビジネスプロセスの改善や配送システムの効率化によってネット販売書店からの値下げ要求に応えている状況だ。 むしろ、現在の焦点となっているのはAmazonの電子書籍(Kindle本)に消費税が適用されていないという問題である。Kindle本はアメリカにあるサーバーから日本の消費者に直接に配信されるので、Amazonは日本の国内法に基づく消費税を納める義務を負っていないのである。 そこで、日本の書籍販売業者は「海外事業者に公平な課税適用を求める」との運動を推進。議員への働きかけを強めた結果、与党が策定する2015年度の税制改正大綱に「インターネットを通じて海外から日本に配信される音楽や電子書籍に対して消費税を課税する」制度が盛り込まれる見通しとなった。 国境を越えたビジネスと国内業者/税務当局との対立は、これまでにも幾度となく繰り返されてきた。租税回避地(タックスヘイブン)の問題は各国政府の協力と国内法の整備によってある程度解消されたが、代わって、低税率の国に本社を移して国内の事業会社をその子会社とする「海外移転」(インバージョン)がアメリカなどで増加中。経済のグローバル化には光の部分も陰の部分も存在するのである。