NECが2013年12月に発表した新しい通信技術が「DTNマルチキャスト配信」だ。この技術は、モバイル端末同士が自立したネットワークを形成することで、混雑した通信環境下で威力を発揮する。通信速度の低下を引き起こすこと無く、大容量のデータをやりとりすることが可能なこの技術は、どのようなビジネスシーンで役立つのだろうか。 ■データの欠落を防ぎつつ高速通信可能 「UDP」というプロトコルを使用する従来のマルチキャスト配信は、通信速度を優先しながら複数の端末にデータを送信しているため、データがロストしても、アプリケーションで検知しない限りわからない。そのため、重要なデータ送信には不向きだった。今回、NECが開発した技術は、データロストが発生しないので、重要なデータ送信にも適している。さらに、「DTN(Delay Tolerant Network)」と呼ばれる、元々は、LTE回線や、無線LANのアクセスポイントが利用できない環境化、例えば自然環境における動物の行動調査などで利用されてきた技術が組込まれている。 DTNは、複数の端末同士が通信可能になるまで、自端末内にデータをため込んでおき、通信可能になったら、一斉送信する。データを受け取った端末は、また違う端末に近づいたら、データを一斉送信する、というのを繰り返す。このようにして、データを複数端末に送信するネットワークを構成する。「DTNマルチキャスト」は、複数端末同士で通信を行うDTNと、新しくNECが開発したデータロストが発生しないマルチキャスト技術を組み合わせた技術なのだ。大規模イベント会場を想像して欲しい。たくさんの端末が一気に通信しようとする環境下では、ネットワークの衝突(コリジョン)が発生する。その結果、端末の通信速度が著しく低下する事態が発生する。NECは、この課題を克服するために、通信可能な端末にインストールするアプリケーションで、衝突の制御を行っている。データ送信タイミングを数10ms〜数100msのオーダーで遅延制御することで、データの同時送信を回避する機能を組込んだ。ゆえに、データ送信の衝突が回避され、通信速度の低下が防げるのだ。 ■どんなシーンで役立つか? では、どのようなシーンで役立つだろうか。ここでは、次の3つのシーンを挙げてみた。 @災害時の情報配信 モバイル端末同士が、自律的に通信できれば、被災地域の情報や、政府の支援情報が、遮断されることなく逐次届けられるようになる。 A大規模イベントでの資料配付 イベント会場では、通信環境が整っていない場合が多い。イベント来場者に対して、DTNマルチキャストによる資料の配付を行えば、役立つはずだ。また、時間通り出席できなかった来場者に対しても、資料配付を後から確実に行うことも可能だ。 B外回り営業時の情報共有 例えば、DTNマルチキャスト通信でのみ使えるポータルサイトを整備し、営業担当者同士が近づくことで、来訪先の顧客情報を送信する。本社近くに、基幹システムと連動する端末を設置して置き、ここで営業担当者のDTNマルチキャストネットワークと情報のやりとりができれば、セキュアな情報共有が可能になる。 DTNマルチキャストを実用化した製品や、サービスはまだ登場していない。また、端末が常にデータを送受信し続けた場合、モバイル端末の電池消耗が激しくなる懸念もある。それらの課題はあるものの、社会のインフラを再構成し、ネットワークがつながらない場所でも、通信が可能になる期待もある。特に広告用途としての可能性を感じるが、アプリをインストールなど端末側でのアクションが必要となり、消費者メリットが重要となってくる。