2016年4月から、いよいよ始まった電力小売の全面自由化。電力自由化で新たに約8兆円という市場が開放された。大手企業のみならず、中小企業や異業種、そしてITベンダーにも参入のチャンスが拡がっている。 これまで家庭や商店向けの電気は、地域の電力会社(東京電力、関西電力等)だけが販売していた。2016年4月1日以降は、電気の小売業への参入が全面自由化されることにより、消費者が電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった。そしてこの電力自由化が大きなビジネスチャンスだと言われている。巨大なマーケットの門戸が一気に開かれたからだ。低圧部門(一般家庭、小規模事業者)の電力小売だけで約8兆円であり、既に自由化されている特別高圧・高圧部門(工場、商業施設など)も含めると約15兆円に上る。その上、電力の需要がなくなることはなく、一度契約すれば長期に渡って売上を見込むことができる分野だ。 電力小売には現在までに279事業者(2016年4月7日時点)が登録しており、今後も増えていくことが予想される。参入事業者が増えることで競争が活性化し、様々な料金メニュー・サービスが期待されている。例えば電気とガス、電気と携帯電話などの組み合わせによるセット割引やポイントサービス、さらには家庭の省エネ診断サービスなどだ。 新規参入の戦略は2つある。ひとつは「創意工夫で徹底的に電気料金を下げる」こと。電力会社からのまとめ買いで安く電力を調達し、工場の余剰電力なども活用して電力を安価に販売する。そうやって得た資金を使って、太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーの発電設備を整備することも可能だ。しかし競争は激しく、新規参入会社が電力単体で採算を上げることは並大抵のことではない。 そこで「自社のコアビジネスに電力小売事業を組み込んで、価格競争に陥りにくい付加価値サービスを創造する」という第2の戦略が考えられる。例えば、自治体やクレジットカード会社、ケーブルテレビ会社など、一般家庭の口座情報を持つ事業者が既存商品と一緒に電力も売るケースや、ドラックストア、コンビニ、家電量販店、カーディーラーなど、一般家庭に直接販売する事業者がコア商品とセットで電力を売るというケースがある。同時契約であれば割引やクーポンを発行するなど、インセンティブを付ける戦略も考えられるだろう。その他にも、HEMS※の電力使用データを使った高齢者見守りやホームセキュリティ、家電メンテナンスなどのサービスで市場参入することもできる。そうした事業者にビジネスアイデアを提供するコンサルも成り立つ。可能性は無限にあり、企業規模を問わずビジネスチャンスが生まれている。 ユニークな具体例を挙げると、地方の複数の中小スーパーと提携して、スーパーの顧客向けに電力を小売する会社がある。スーパーの買い物に使えるポイントが電力料金に応じて付与される。スーパーにとっては代理店手数料をもらえると同時に、ポイントによって顧客を囲い込めるというメリットがある。 こうした新電力参入の拡がりは、ITベンダーにとっても大きなチャンスだ。現行制度では事業者は供給先の需要にあわせて、電力供給量を30分単位で一致させなければならない。供給先の電力の使い方や、天候・時間による需要の変化を正確に見極めることが事業収益を左右するため、需給管理が大切だ。これに加え、顧客情報の管理、多様なメニューに合わせた料金計算や請求書発行、スマートメーターの情報収集・管理、顧客ポータルやコールセンターまで、事業者の参入を手助けするITプラットフォームサービスの市場はますます活性化していくだろう。そのIT投資規模は1,000億円とも言われている。電力自由化は始まったばかりだ。軌道に乗るまで様子見をしている事業者は多い。そこにビジネスチャンスが拡がっている。