コンピューターに知能を持たせる「人工知能」は、1950年代から検討されてきた技術である。現在では、マーケティングやサプライチェーン管理などの領域でも活躍中。会話プログラムとして発達した「人工無脳」は、似て非なるものであ。証方式として、もっと簡単で、高いセキュリティの運用を実現するかもしれない。 果たして、機械は知能を持てるのか。この問いは、コンピューターが実用化されたときからコンピューター科学やハードSFの世界で幾度となくテーマとされてきた。何を「知能」とするかによって答は変わるが、ソフトウェアによってなんらかの推論ができれば「知能アリ」とする立場に立てば、知能を有するコンピューター、すなわち「人工知能」(AI: Artificial Intelligence)は1960年代にはすでに存在していた。 AIソフトウェアの草分けとして広く知られているものとしては、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョゼフ・ワイゼンバウムが1965年に開発した、質問に回答するソフトウェア「ELISA」である。ELISAに含まれるDOCTORというプログラムは対話による精神療法を模した入力/出力になっている。 初期のAIソフトウェアに対話形式のものが多いのは、イギリスの数学者/コンピューター科学者のアラン・チューリングが提唱した“機械が知能を持つかどうか”の判定法「チューリング・テスト」を意識したためとみられる。チューリングは人間が文字端末でチャット(chat)のような対話をしている場面を想定して、相手が本物の人かコンピューターかを判定できない域に達していれば、そのコンピューターには知能があるとみなしてよい、とした。前出のDOCTORを始めとする自動応答ソフトウェアは、「人工無脳」(Chatterbot)と呼ばれている。 AIは、すでに実用化されている。コンピューターゲームの世界では三目並べ(tic-tac-toe)、オセロ、チェス、将棋、囲碁などのコンピューター対戦モードにAIの手法が使われているし、自然言語処理(NLP: Natural Language Processing)の分野では日本語入力ソフトウェア「NEC AIかな漢字変換」(NEC)や顧客の声分析ソフトウェア「VoC分析AIサーバ」(メタデータ株式会社)といった商品も登場した。 AIが活躍しているもう一つの領域は、統計解析である。合計や平均といった基礎統計量は四則演算のみの電卓でも時間をかければ算出できるが、大量データで構成される母集団から傾向や法則を導き出すには機械学習(ML:Machine Learning)などのAI手法が欠かせない。 AI手法による解析は、マーケティングやサプライチェーン管理(SCM)の世界でも広く使われている。対消費者(B2C)のマーケティングでは、Web検索エンジンに入力されたキーワードを基に類縁領域の広告を表示する「リスティング広告」や、ある商品をeコマースで購入した消費者に対して「XXを買われたお客さまの64%はYYもお求めになっています」と勧誘する「レコメンド」などが、AI手法を活用している典型的な例だ。 SCMでは、販売数量を予測して製造数量や配送方法を最適化する目的で線形計画法(LP: Linear Programming)などの数学的手法が以前から使われてきた。AIにはその予測をより正確なものとする役割が期待されており、米Amazonが考案した“顧客の発注数量を予測して商品を事前配送する技術”のような具体的成果もすでに生まれている。 一方、人工無脳が話題となるのは、ネガティブな場面に多い。ある種の会員制交流Webサイトでサクラの役を人工無脳型の自動応答アプリケーションが務めていたとする報道や、掲示板でチャットを行っていたら、相手が実はBotだったという事例が報告されている。画面の向こうにいるのは、人間なのか、ただのソフトウェアなのか? ネット世界での真贋の見極めは、今後ますます難しくなりそうだ。