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2017年11月時点の情報を掲載しています。
2016年のノーベル化学賞の対象であり、コンピュータメモリの性能を革命的に向上させる可能性を持ち、さらには現在の医療のあり方を根本的に変えてしまうかもしれない。そんなポテンシャルを秘めるナノマシン=分子マシンとは一体?
今年4月にフランス・トゥールーズで世界初の“ナノカー”によるレースが開催されたというニュースを覚えている方も多いはずだ。ナノカーとは、1ナノメートル(nm)サイズの“車”で、いわゆるナノマシンの一種。1nmは100万分の1ミリで、細菌やウィルスよりも小さいといえば、その大きさが想像できるだろうか。このサイズになると肉眼はもちろん、光学顕微鏡でも捕捉できず、切削加工による方法では製造は不可能。ナノマシンはモーターや歯車ではなく、特定の分子構造が外部からの刺激などに反応し機械的な動きを実現する。そのため、ナノマシンは分子マシンとも呼ばれる。
レースは日本など各国の研究チームによる6台がエントリーし、マシンへの影響が少ない金表面の全長1 0 0 n mのコースをどれだけ早く走り切るかが競われた。ちなみに100n mは髪の毛の太さの1000分の1に相当する距離だ。レースは、研究者が電子顕微鏡で位置を把握し、電気的な刺激を与えてマシンを進める形で行われた。
日本から出場したのは、つくばの物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の研究者によるチーム。マシンは炭素原子50個、水素原子34個、酸素原子4個で構成され、その大きさは幅2.1nm、長さ0.93nm。棒の両端にハサミがついたような形状で、ハサミの刃を細かく開け閉めすることで進むのがその基本的な仕組みである。優勝したのは1000nmを29時間で走り切ったオーストリア・米国の2大学の連合チームで、残念なことに日本チームは主催者が用意した電子顕微鏡の動きをコントロールするコンピュータのトラブルによりリタイアしている。
光学顕微鏡でも捕捉できない“車”を科学者が不眠不休で走らせる姿には、どことなくユーモアが漂う。その一方で、この技術が何に役立つのかという疑問を持った人も多いだろう。ユーモラスな姿とは裏腹に、ナノマシンは昨年のノーベル化学賞の対象にもなった今最も注目されるテクノロジーの一つである。
三名の受賞者の一人である、J.フレーザー・ストッダートが開発した分子エレベーターはその可能性の一端を伝える。分子エレベーターは、0.7nmの上下動をコントロールするマシンで、その振幅を0と1に割り振ることで、コンピュータメモリに応用が可能。現在のシリコンチップによるメモリよりはるかに高密度に情報が収納できるため、その実用化はコンピュータの革命的な発展につながるとも見られている。
ナノマシンの可能性はそれだけではない。最も期待されているのが医療への貢献である。血液中をナノマシンが巡り、がんなどの異変を発見したら即座に治療を行う。そんな映画『ミクロの決死圏』さながらの未来もそれほど遠いことではないと考えられているのだ。
抗ガン剤を詰めたナノカプセルによるガン治療はすでに臨床段階に入っているが、そのポイントはサイズにある。人間に備わる免疫機構は、体内に侵入した異物を発見し、それを破壊する。しかし100nmレベルのウィルスに免疫機構は有効に働かない。小さすぎて、網の目をすり抜けてしまうからだ。つまりナノレベルのマシンであれば、体内でも自由に活動できるわけだ。
実用の第一段階として考えられるのは、抗がん剤を運ぶナノマシンを光の照射などによってがん細胞に効率的に送り込む技術や、がん細胞内に侵入後形を変えて細胞を破壊するマシン。体内に入ったナノマシンが自動で検診し、体外に情報を持ち帰るような仕組みもやがては実現するだろう。治療の自動化を可能にするナノマシンは、膨らみ続ける医療費削減という観点からも注目されている。では、医療に革命をもたらす可能性を秘めるナノマシンは、人類をどこに導こうとしているのか。その答えもさほど遠からぬ未来には得られるはずだ。
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