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にっぽんの元気人
2020年11月時点の情報を掲載しています。

元捜査一課の警部補が教えるデジタル犯罪から家族を守る方法

スマートフォンやSNSの普及とともに、デジタル犯罪に襲われる危険が増えている。特に狙われやすいの が、ネットでの出会いを通じて安易に他人を信用してしまう子どもや、情報弱者の高齢者たちだ。年々巧 妙化する犯罪に遭わないようにするにはどうすればいいのか。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警 部補で、『あなたのスマホがとにかく危ない 〜元捜査一課が教えるSNS、デジタル犯罪から身を守る方法』 (祥伝社刊)の著者である佐々木成三氏に聞いた。

知らない人から1,000件の「いいね」をもらうより、たった1人でも身近な人からの「いいね」が断然素晴らしい

リテラシー教育は親がしっかり行いたい
BP:佐々木さんの『あなたのスマホがとにかく危ない 〜元捜査一課が教えるSNS、デジタル犯罪から身を守る方法』を読ませていただきました。
 SNSを使った子どもの誘拐、ストーカー、架空請求など、デジタルコミュニケーションの発達とともに、わたしたちの身の回りには、これほど多くの危険が増えているのかと、正直驚かされました。

佐々木成三氏(以下、佐々木氏):
この本は2020年2月に発行したのですが、その後、新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、デジタル犯罪の危険はますます高まっています。
 特に、子どもが狙われやすい環境が広がっていることに、強い危機感を覚えています。
 新型コロナが発生するまでは、親は子どもに「スマートフォンを持つな」と言えました。デジタル犯罪から子どもを守るためには、そもそもデジタルとの接点を持たせないことが確実な対策ですからね。
 ところが、新型コロナで学校に行けなくなり、オンライン授業が行われるようになると、スマホを持たせないわけにはいかなくなってしまった。
 その分、子どもたちがSNSなどに熱中して、誘拐などの危険にさらされる危険が高まっているのです。

BP:スマートフォンやSNSの使い方に関する教育の必要性もますます高まっていると思いますが、学校だけに教育を頼っても大丈夫なのでしょうか。

佐々木氏:
スマホやタブレット端末、PCを正しく使うことは、社会人になってからも大切です。学校がしっかり教育すべきだと思いますが、あやしいサイトを覗いちゃいけないとか、誘いに乗ってはいけないといったリテラシーの部分は、親が教育すべきだと思います。
 例えば、交通ルールや交通マナーは、学校で教わる機会もありますが、それよりも親から言われて学んだことのほうが多いですよね。
 「横断道路を渡るときは、まず左右をよく見て」とか「歩道があるところでは、必ず歩道を歩きなさい」といったことは、子どもを心配する親心から、家庭でしっかり教えるものです。
 デジタル犯罪の危険を教えることも、まったく一緒だと思います。子どもにスマホを持たせるかは親の判断なので、使い方にも責任を持たなければなりません。
 交通ルールを教えるのと同じように、日常会話の中で、さりげなく教えてあげるのがいいのではないでしょうか。

BP:SNSなどのデジタルコミュニケーションは、交通ルールと違って「何が危険なのか?」を十分に理解できていない親も少なくありません。

佐々木氏:
おっしゃるとおりです。
 そこでお勧めしたいのは、子どもと一緒にオンラインゲームなどをやってみることです。
 親子のコミュニケーションが深まるだけでなく、一緒にプレイしているうちに、どこに危険が潜んでいるのかを知ることができます。
 危険の存在や姿かたちに対する認識が不明確だと、親の指導はどうしても抽象的になってしまいます。
 例えば、「知らない人の誘いに乗っちゃいけないよ」と言っても、子どもたちは、オンラインゲームで一緒に遊んでいる人は「知らない人ではない」と思うかもしれません。
 そうした子どもたちの感覚や認識をしっかり理解しておかないと、正しい指導はできないのです。
 子どもの判断は未熟なので、「知っている人」であれば、危険など一切考えず「会ってみたい」と思ってしまいます。ある調査によると、S N Sをしている小学校1 年生から6 年生の女の子のうち、2人に1人の割合で、SNSで知り合った顔も知らない人に「会ってみたい」と思った子と、実際に会ったことがある子がいることがわかりました。とても危険な傾向だと思います。
 親自身がSNSやオンラインゲームの危険性をしっかり認識したうえで、「何が、どう危険なのか」を子どもにもわかりやすいように教えてあげることが大切です。

真実かどうかを疑い、確かめる心構えを持たせる
BP:子どもたちが危険にさらされている一方で、高齢者を対象にした特殊詐欺などのデジタル犯罪も後を絶ちません。なぜ、こうした犯罪は一向に減らないのでしょうか。

佐々木氏:
現在、高齢者などを狙った特殊詐欺は年間315億円ほど発生しており、ご指摘のように件数は減るどころか、年々増え続けています。
 その理由は、犯罪の手口がどんどん巧妙化しているからです。
 例えば、かつては息子を装った犯罪者が高齢者にお金を要求する「オレオレ詐欺」が流行しましたが、その手口に関する報道が広がると、次には警察官や税務署の職員などを装った犯行が増えました。お金の受け取り方も、被害者の自宅を直接訪ねる方法から、ゆうパックによる郵送、ATMによる振り込みへと変化し、最近ではキャッシュカードと暗証番号を受け取るという方法に変化しています。
 ひと口に特殊詐欺と言っても、その手口はどんどん変化しています。
 高齢者の多くは、普段接する情報がテレビや新聞、雑誌などに限られているので、どうしても最新の動向に疎くなってしまいます。オレオレ詐欺のような昔からの手口には気付いても、最近の手口に関する情報はないので、結局だまされてしまうのです。

BP:どう対処すればいいのでしょうか。

佐々木氏:な
るべく多くの情報に接する機会を、意識的に設けたほうがいいと思いますね。高齢者の方々はインターネットに接する機会は少ないと思いますが、最近ではスマートフォンを持つ人も増えているので、なるべく最新ニュースをチェックすることをお勧めします。時事関連の情報が豊富な雑誌を読むのもいいでしょう。
 また、新しい手口の犯罪に関する情報は、ご近所付き合いの中で広がりやすいものです。地域コミュニティに積極的に参加することも、情報をアップデートするのに役立つはずです。

BP:今の子どもたちは、物心がついたときからスマホやタブレット端末に触れている「デジタルネイティブ世代」です。情報に敏感な彼らが大人になる時代には、高齢者を狙った犯罪も減っていくと思われますか。

佐々木氏:
残念ながら、むしろ犯罪が増えるのではないかと危惧しています。
 なぜなら、情報はたくさん入手できても、それが「正しい情報なのかどうか?」という判断がつかない大人が増える可能性があるからです。
 今は、何かを知りたいと思ったらSNSやインターネットで簡単に情報が取れる時代です。答えがパッと出るので、ついそれが真実だと思ってしまう。しかし、実際にネットで流れている情報には、誤ったものや不確かなものが多く含まれています。正しいと思っていた情報が、実はまったく反対であったということも珍しくありません。
 現在の親世代のように、子どものころに携帯電話やインターネットがなく、情報を取るのに苦労したアナログ世代は、乏しい情報源から、なるべく正しい情報を得ようとしたものです。わたしが刑事時代に教え込まれた、情報の“ウラを取る”という作業です。
 デジタルネイティブの子どもたちは、その作業をすることなく、受け取った情報をストレートに受け止めてしまうので、どうしても騙されやすくなってしまいます。
 犯罪者にとっては、騙しやすい人が増えるわけですから、むしろ今よりも特殊詐欺やデジタル犯罪の危険は高まるのではないでしょうか。真実なのかどうかを疑い、確かめるという心構えを持たせるが大切だと思います。

1,000人の「いいね」より身近な人の「いいね」を
BP:ほかに、親世代がデジタルネイティブの子どもたちのために教えてあげてほしいことはありますか?

佐々木氏:
「将来なりたい職業」の一つとして、ユーチューバーを挙げる子どもが増えていますよね。「ネット上でたさんの人に評価され、認められたい」という気持ちが強くなっているからだと思います。
 SNSでも「いいね」をたくさん付けてもらうことに喜びを感じる子どもが少なくありません。しかし、それを最優先して、他人に迷惑をかけるような行為を平気で行い、SNSや動画サイトにアップロードする若者が増えているのがとても気になっています。
 「いいね」のためなら、どんなことをしてもいいという自分勝手な考え方になり、それが周りにどんな迷惑を掛けるのかということに、思いが至らなくなってしまうのです。
 親の世代の方々には、知らない人から1,000件の「いいね」をもらうより、たった1人でも身近な人から「いいね」と言ってもらえるほうが断然素晴らしいのだということを、ぜひ教えてあげでいただきたいですね。
 身近な人との触れ合いの大切さを知れば、喜ばれることとは、自分勝手に振る舞うことではないということが理解できるようになるはずです。

BP:具体的には、どのように教育すればいいのでしょうか。

佐々木氏:
悪いことをしたら叱るというのは当然ですが、悪いところは見つけやすいので、つい怒ってばかりになってしまいます。
 むしろ、よい行いをしたら、積極的にほめてあげるのがいいと思います。
 わたしは小学生のころ、少年野球のチームに入っていたのですが、メンバーの中ではわたし1人が1学年下で、守備もバッティングもさほどうまくなかったのに、教えてくれる先生方や先輩たちが、とにかくほめてくれました。
 誰でも取れるようなライトフライをキャッチしただけでも「すごい」「よくやった」とほめちぎってくれるので、とても自信がついたことをいまでも覚えています。
 身の回りの人たちによる心のこもった「いいね」が、この人たちのためにもっと喜ばれることをしようという気持ちにつながり、周りに迷惑をかけてはいけないという思いや、何事にも果敢に挑もうとするチャレンジ精神を生むのだと思います。

BP:なるほど。

佐々木氏:
その際に大切なのは、そのときの状況や感情に左右されることなく、常に客観的なスタンスでほめてあげるようにすることです。
 少年野球なら、10対0で負けそうなときにヒットを1本打っても、あまりほめられませんが、1対1で競っているときに1本のヒットを打つと大喜びされるはずですよね。
 できるなら、10対0の場面でも同じほめ方をしてあげるのが理想だと思います。どんなに些細なことでもいいので、いいところを見つけたら、とにかくほめてあげるようにしてみてください。それが自信につながり、子どもの成長も促してくれるはずです。
 コミュニケーションのデジタル化によって家族や身の回りの人との触れ合いが希薄になっている時代だからこそ、こうした体験は欠かせないと思います。

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元刑事・コメンテーター
佐々木 成三氏
SASAKI NARUMI

◎ P r o f i l e
元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班の班長として、デジタルフォレンジック(デジタル証拠)の押収解析を専門とし、埼玉県警察における重要事件(捜査本部)において、携帯電話の精査、各種ログの解析を行なっていた。埼玉県警察本部刑事部捜査第一課において巡査部長5年、警部補5年の計10年間を勤務。これまで数多くの捜査本部に従事して、被疑者の逮捕、被疑者の取り調べ、捜査関係者からの情報収集、被害者対策、遺族担当を従事し、数多くの実績をあげてきた。現在は、一般社団法人スクールポリス理事として、テレビコメンテーター、ドラマ監修、講演会など幅広く活動中。「あなたのスマホがとにかく危ない」「刑事力コミュニケーション20の術」「捜査一課式防犯BOOK」など著書多数。






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