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にっぽんの元気人
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刑事の「ウソを見抜く力」は会社経営や人材管理に応用できる

警察の元警部で、詐欺、横領、贈収賄事件などを扱う知能・経済犯担当の刑事を約20年経験した森透匡さん。現在は刑事時代に培った知識、スキルをビジネスに役立ててもらう学びの場として「刑事塾」を開講し、全国で年間180回ほどの講演活動も行っている。知能・経済犯を相手に約2,000件もの取り調べを行ってきた森さんはウソを見抜く達人だが、そのスキルは会社経営や人材管理を成功に導くことにも応用できるという。具体的な応用方法について聞いた。


「非言語」による表現の中に本音が潜んでいる
BP:本誌読者の多くは、日々お客さまと商談を行っている営業担当者です。そうした読者の方々が共通する悩みのひとつとして抱えているのは、お客さまに商品やサービスを提案しても、「いいね」とか「面白そうだね」と言ってはもらえるものの、なかなか成約に結び付かないこと。こちらの話に本当に興味を持ってくれているのかどうかを見抜くのはとても難しいのですが、どうすれば相手の本心を探ることができるのでしょうか。

森透匡氏(以下、森氏):
ほしいと思ってもいない商品やサービスを評価するというのは、要するにウソをついているわけです。ですからご質問の趣旨は、どうすれば相手のウソを見抜けるか、ということになりますね。
 わたしは刑事として20年以上犯罪者たちと向き合い、約2,000件もの取り調べを行ってきましたが、その経験を通じて、相手の言動からウソを見抜く方法を学んできました。
 商談相手の本音を探ることにも十分応用できますので、これからお話しすることをぜひ参考にしてみてください。
 相手のウソを見抜く具体的な方法については後ほど詳しく説明しますが、その前に「人と人は、どのようにコミュニケーションを交わすのか」という基本的な部分を押さえておきましょう。
 わたしたちが誰かとコミュニケーションを交わすときには、言葉だけでなく、無意識のうちに言葉以外の手段も用いています。要約すると、「言語」と「非言語」という二つのコミュニケーション手段があるわけです。
 「非言語」による表現とは、身ぶり手ぶりや、表情、顔色など、要するに「言語」以外のすべての表現です。
 わたしたちが相手の話を聞くときには、耳で言葉を聞くだけでなく、相手の表情やしぐさの変化などを五感すべてで感じ取っているのです。
 ここで注目しておきたいのは、「言語」による表現と、「非言語」による表現では、異なるサインが出やすいということです。言葉では「いいね」と言っていても、表情を見ると目に輝きがなかったり、何となく眉をひそめていたりと、まったく逆のサインが出ていることがあります。
 普通の人の場合、言葉ではいくらでもウソをつくことができても、表情やしぐさまで取り繕うのは難しい。
 ですから、相手の言葉だけをうのみにするのではなく、「非言語」による表現の変化を敏感に察知することが非常に大切なのです。

BP:具体的には、どのような「非言語」表現に着目したらいいのでしょうか。

森氏:
英国の動物学者のデズモンド・モリスは、「人間の動作で信用できる順番」として、@自律神経信号、A下肢信号、B体幹(胴体)、C見分けられない手ぶり、D見分けられる手ぶり、E顔の表情、F言語の七つを挙げています。
 @の自律神経信号とは、意思とは無関係に作用する自律神経の働きによって、冷や汗をかいたり、顔色が青ざめたり、手が震えたりする信号(サイン)です。職務質問で「身分証明書はありますか?」と言われて手が震えながら差し出すのは何かやましいことがあると考えられます。
 Aの下肢信号とは、文字通り脚から下の動きです。 わたしが刑事だったころ、街頭で職務質問をするときには、必ず相手の脚の動きに注目していました。人間は追い込まれると、その場から逃げ出したいという恐怖心に駆られます。その結果、無意識のうちに脚が逃げたい方向を向き、斜めになったり、横になったりするのです。
 Bの体幹(胴体)は、興味の度合いを示します。興味があればあるほど人間は上半身が前のめりになります。商談では相手をいかに前のめりにするかを考えて話をした方がいいのです。Cの見分けられない手ぶりは、話ながら無意識に動かす手の動きを言います。
 一方、Dの見分けられる手ぶりはVサインや手を左右に振るバイバイなどなんらかの意味を表わす動きを言います。Eの顔の表情は、自分がどんな顔をしているのかわかるので取り繕うことが可能です。面白くなくても笑うことがありますが顔の表情は信用できないということです。そして最下位はFの言語です。言葉は、意識によっていかようにでも取り繕える。つまり、人間の動作の中で最も信用できないものなのです。

BP:意識でコントロールできる動作よりも、むしろ無意識に表れる動作に着目しなければならないわけですね。

森氏
:言葉なんて当てにならない、何らかのウソが含まれているということは、いまさら説明しなくても、誰もが体験の中で感じ取っているはずです。
 そもそも刑事は、ウソをついて罪を逃れようとする容疑者たちと向き合っているのですから、最初から言葉は当てにしていません。
 取り調べや職務質問のときには、話をしながら相手の動作に目を配らせ、その変化から「ちょっとおかしいな」とか、「何か隠しているんじゃないか」と疑いをかけるのです。
 もちろん、刑事の仕事と営業活動などのビジネスはまったく異なるものですが、営業担当の方々も、商談相手の言葉だけでなく、動作の変化を探ることによって、相手の本音を探り、それに応じた柔軟な提案ができるようになるのではないでしょうか。

見抜いたウソをもとに経営や管理を見直す
BP:森さんの著書『元刑事が教えるウソと心理の見抜き方』(明日香出版社)には、より実践的なウソの見抜き方について書かれています。いくつか教えていただけますか。

森氏:
人間がウソをつくときのサインは、 主にしぐさと話し方に出ます。著書では、その中から代表的なしぐさのサイン10種類と、話し方のサイン19種類を体系化しました(別表参照)。
 例えば、話し方では「質問を繰り返す」「逆ギレする」などが、ウソを隠そうとする典型的なサインです。
 夜遅く帰宅して、奥さんから「遅かったわね。どこで飲んできたの?」と聞かれたときに、「えっ、どこで飲んできたかって?」と質問を繰り返すのは、何かやましいことがあるからかもしれません。何もなければ「ああ、銀座だよ」と普通に答えるはずです。
 また、遅く帰ったことを奥さんにとがめられ、「何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ!」と逆ギレするのも、聞かれたくない理由があるからではないかと思われます。
 一方、しぐさについては、会話をしている間に顔を触ったり、ネクタイを締め直したりすることが、ウソを取り繕うためのしぐさである疑いがあります。
 顔を触るというのは、「ウソを言っているので口を塞がないといけない」と思うのですが、口を塞ぐと話すことができないので顎や鼻など口の付近に手がいってしまうという無意識のしぐさです。
 また、ネクタイを締め直すというのは、問い詰められたときに、動揺を落ち着かせようとするためのしぐさである可能性があります。
 同様に、会話をしながら無意識のうちにボタンを掛け直す、テーブルの上に置かれているものを整理整頓するといった動作を行ったときも、ウソを取り繕おうとしていることが疑われます。
 これらの話し方やしぐさのサインのうち、二つ以上が出たらウソをついている可能性が高いと言えるでしょう。

BP:たとえウソを暴いたとしても、あからさまにそれを非難すると家族関係や人間関係が壊れてしまいますね。

森氏:
おっしゃるとおりです。刑事であれば、突き詰めたウソをもとに事実を徹底追及していくことになりますが、もちろん生活やビジネスではそういうわけにはいきません。
 ウソを見抜いたうえで、ひとまずは自分の腹に収め、なぜそんなウソをついたのか、ひょっとしたらウソをつかざるを得ない何らかの問題や悩みを抱えているのではないか、という思いを巡らせることが、良好な人間関係を築いていくためには重要だと言えます。
 会社における上司と部下の関係で考えてみましょう。
 営業成績の振るわない部下がいて、上司が「ちゃんと得意先を回っているのか?」と疑ったとします。
 実際のところ、部下はろくに得意先を回っていないのにウソの報告をし、上司がそれを見抜いたとしても、「本当に行ったのか!」と怒鳴りつけてしまったら、たちまち部下との関係が悪くなってしまいます。
 「こいつはウソをついているな」と思ったとしても、ひとまずは腹に収め、管理や指導の仕方を見直していくというアプローチが大切だと言えます。

対話の積み重ねこそが信頼関係づくりの基本
BP:近年、人手不足がますます深刻化していますが、社内の人間関係が悪いと、ますます人材の確保や定着が困難となりそうですね。

森氏:
部下のウソを見抜ける力を養えば、離職率を下げることだって可能だと思います。
 仕事がつらくて悩んでいる社員が、上司の前では無理に「頑張ります!」と言っているケースもあります。
 これも自分や会社にウソをついているわけで、本当は「辞めたい」というサインを出しているのです。
 日々のコミュニケーションの中で、「あ、いま何か表情が曇ったな」といったささいな表情や動作にしっかりと気付いてあげることが大切です。部下に対する観察力や洞察力を上げると、いい管理ができるようになるのです。
 わたしは刑事として培ったウソを見抜くスキルを広く伝えるため、全国で年間180回ほどの講演会を行っていますが、ビジネス関係の方、特に中小企業の経営者の方々が大勢いらっしゃいます。中小企業ほど人材の確保に悩んでいますし、営業活動においても、お客さまの本音を探り、適切な提案によって1件でも多くの成約を取りたいと考えておられるようです。
 ぜひ刑事のスキルを会社経営や部下の管理に活用して、ビジネスを成功に導いていただきたいと願っています。

BP:刑事の仕事では、本音を引き出すために容疑者との信頼関係を築くことも大切だそうですね。ビジネスにおけるお客さまとの信頼構築に結び付くヒントがあれば教えてください。

森氏:
刑事もののテレビドラマでは、取り調べでいきなり「お前がやったんだろう!」などと問い詰める場面がありますが、実際にはそんなことはありません(笑)。「取り調べを担当する森です。よろしくお願いします」といったようになるべく丁寧に接し、世間話や互いの身の上話などを交えながらコツコツと対話を積み上げていきます。
 お互いをさらけ出し合うことで心の垣根を少しずつ取り払い、信頼関係を築いていくのです。
 当たり前のことですし、地道ではありますが、結局は何度も対話を重ねることが、「腹を割って話し合える関係」になるための唯一の方法なのです。
 ビジネスにおいても、お客さまのもとにどれだけ足しげく通い、対話を重ねるかが重要なのではないでしょうか。
 その中で、ウソを見抜く技術を使ってお客さまの本心を探り、本当に必要としている商品やサービスを提案できれば、営業担当者の成績アップや会社の業績アップに必ず結び付くと確信しています。

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刑事塾 塾長/株式会社クリアウッド 代表取締役
森 透匡氏
YUKIMASA MORI

◎ P r o f i l e
1966年 長崎県生まれ。警察の元警部。詐欺、横領、贈収賄事件等を扱う知能・経済犯担当の刑事を約20年経験。東日本大震災を契機に独立し、刑事時代に現場で培ったコミュニケーションスキルをビジネスで役立ててもらうために「刑事塾」という学びの場を開講。「ウソや人間心理の見抜き方」を主なテーマに大手企業、経営者団体など毎年全国180カ所以上で講演・セミナー・企業研修を行い、これまで6万人以上が聴講、「究極の心理学だ!」、「おもしろい!」と人気を博している。TBS「ビビット」、日本テレビ「月曜から夜ふかし」、読売新聞、日経新聞などメディアへの出演、掲載も多数。






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