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にっぽんの元気人
2019年3月時点の情報を掲載しています。

マクロ視点に興味を持つ人ほど中長期的にはビジネスで勝利する
「NEWS ZERO」(日本テレビ系列)のメーンキャスターを12年務めた村尾信尚さん。現在は関西学院大学教授として学生たちを教えるほか、セミナーや講演活動も精力的に行っている。2019年2月6日には、大塚商会の『実践ソリューションフェア2019』で行われたパートナー様限定セミナーにも登壇された。日本と世界の動きをマクロ視点でとらえつつ、ニュースの現場で磨いた肌感覚をもとにさまざまな問題をわかりやすく伝える村尾さんにビジネスにおけるマクロ視点の大切さについて聞いた。

不公平さへの憤りが世の中を不安定にする

伝えるだけの仕事よりも自らが動ける仕事がしたい
BP:大塚商会の『実践ソリューションフェア2019』では、初日に村尾さんのセミナーを開催しました。フェアに参加されたご感想はいかがでしたか?

村尾信尚氏(以下、村尾氏):
今回初めて参加させていただいたのですが、まず来場人数の多さに驚きました。IT関連のプライベーフェアとしては日本最大級の規模だそうですね。
 もう一つ驚いたのは、大塚商会さんが非常に幅広い製品やサービスを提供しておられるということです。
 セミナーにも、大変多くの方にご参加いただき、とてもうれしく思っています。わたしは、大学教授として若い学生たちに講義を行っているほか、企業の皆さまや一般の方々を対象とするセミナー、講演会で年20回ほど話をしています。学生や一般の
方々と、ビジネスに携わっている方々とでは、話を聞く姿勢にも違いを感じますね。 特に企業の皆様は、ただ知識や教養として何かを学ぶのではなく、「明日の営業がどうなるか?」という切羽詰まっ
思いで答えを求めに来られている方々ばかりですから、熱心さには格段の違いがあります。
 講演テーマは『「岐路に立つ日本」〜世界を見る視点〜 』という、どちらかと言えばマクロ視点に立った内容でしたが、普段ミクロレベルでビジネスに取り組んでおられる方々にも熱心に耳を傾けていただけたのは、非常にありがたいことだと思っています。

BP:ミクロの仕事に取り組んでいても、常日頃からマクロの視点で物事を捉える必要がある、というのが村尾さんのお考えだそうですね。

村尾氏:
例えば、格差や気候変動といった大きな問題は、ビジネスに直接結び付くものではないと考える方もおられるようですが、これらの問題によって生じる世の中の変化は、必ずビジネスにも変化をもたらし、新たなチャンスを生み出すものです。
 ですから、マクロの視点に興味を持つビジネスパーソンほど、長期的にはミクロのビジネスでも勝利できるのではないかと思います。

BP:セミナーでは、いろいろと示唆に富んだお話をうかがいましたが、なかでも印象に残ったのは、「世の中が同じレベルの人たちばかりなら情勢不安は生まれないが、格差が広がると情勢不安になる」という言葉でした。

村尾氏:
格差については「足らざるよりも等しからざるを憂う」という言葉があります。どんなに貧しくても、すべての人が貧しければ争いごとは起こらないけれど、ある特定の人が合理的な理由もないのに豊かな暮らしをすると、争いの元になるという意味です。
 わたしたち人間は、不平等や不公平によって格差が広がると、世の中に不満が溜まり、やがて爆発するということを、これまでの歴史の中で何度も経験してきました。
 わたしは2018年9月まで「NEWS ZERO」のキャスターを務めましたが、2011年初めに中東と北アフリカで大規模な民主化運動が広がった「アラブの春」を現地取材したことがあります。
 エジプトでは、約30年にわたって独裁を行ってきたムバラク政権が崩壊しましたが、政権崩壊直後、首都カイロの中心部にあるタハリール広場には大勢の若者が集結し、「Justice(正義)」「Equality(平等)」「Fairness(公正)」と声高に叫びました。
 民主化運動の現場で取材することで、不平等や不公平がいかに混乱を招き、それに反発する動きが世の中を変える大きな力になるのかということをこの目で確かめることができました。
 国際通貨基金(IMF)は、世界が抱える中期的な社会リスクの一つとして「格差の拡大」を挙げていますが、言葉で言われるだけでは、なかなか実感が伴わないのではないかと思います。
 ですからわたしは、キャスターとしてこれまで現場で経験してきた肌感覚をお伝えすることで、できるだけ多くの皆さんと、実感を伴う問題共有をできればと思っています。

企業に求められるSDGsに沿った活動
BP:格差が問題であることはよく理解できますが、一方でビジネスは弱肉強食の世界です。ひと握りの巨大企業が市場を席巻し、ビジネスチャンスに格差が生まれている状況については、どのようにご覧になっていますか?

村尾氏:
ビジネスの世界においても、ルールに基づいて公平な競争を行っているかどうかということが大切です。
 ルールに則った競争の中で、企業間に大きな差が付いてしまうのは致し方のないことだと思います。
 しかし、差があまりにも広がって、特定の企業が市場に与える影響力が大きくなると、世の中やわたしたちに、さまざまな不利益がもたらされる可能性が高まります。
 これは、国がある程度抑え込まなければなりませんし、企業がもたらす不利益や不公平については、わたしたち自身も毅然と「ノー」と言えるようになることが重要だと思います。
 わたしは大学の講義やセミナーなどで、「社会を変えるには、2つの“券”を使うことが必要」だと言っています。
 一つは「投票用紙」。つまり、選挙で世の中をよくしてくれる政党や政治家を選ぶための券です。
 もう一つは「日銀券」。つまりお金です。言うまでもなく、お金は生きるためや人生を楽しむために必要なものを買うための券ですが、「投票用紙」と同じように、何かを“選ぶこと”にも使えるのです。
 その何かとは、「企業」です。
 わたしたちは、買い物という形で日銀券を企業に渡します。日銀券をたくさんもらった企業は、結果的に売り上げが伸びて栄えます。つまり、わたしたちの消費行動は、そのまま企業に対する応援活動となるわけです。
 皆さんがどんな企業を応援するのかによって、これからの世の中は大きく変わっていきます。
 言い換えれば、日銀券を使った投票行動によって、わたしたち自身が世の中を変えていくことができるのです。

BP:ビジネスに携わる者としては、今後の投票行動が気になるとことです。これからは、どんな企業が日銀券を投票されるようになるのでしょうか。

村尾氏:
一つの動きとして注目したいのがESG投資です。Eは「環境」(Environment)、Sは「社会」(Social)、Gは「ガバナンス」(Governance)の略で、それぞれに責任を持った取り組みを行っている企業に投資することをESG投資と言います。
 近年はダイバーシティ(多様性)が企業経営の大きな課題の一つとなっていますが、女性の管理職が多く、外国人材も積極的に活用しているような企業は、投資家としても応援したくなるはず。これはESGのS(社会性のある取り組み)に当たります。
 また、社外取締役を多く任命して、経営に透明性を持たせるといった取り組みは、G(ガバナンス向上)に当たるでしょう。企業活動を通じて世の中をよりよくしていく。それを投資家が応援するという好循環が生まれるのです。
 このESG 投資の背景にあるのは、「SDGs:Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)です。
 SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための開発目標のことで、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」など、17の目標で構成されています。
 世界中の国・地域や民間企業が手を取り合って、これらの目標を2030年までに達成しようという取り組みです。
 わたしたちが今後、日銀券を使って企業に投票するに当たっては、SDGsの達成にしっかり取り組んでいるかどうかということが基準の一つになるのではないしょうか。
 SDGsには、「海の豊かさを守ろう」という目標も含まれていますが、米大手コーヒーチェーンのスターバックスは、飲み物とともに提供していたプラスチックストローを廃止すると発表しました。使用された後、海に大量投棄されて海洋汚染の元になっていたからです。
 そうした環境にやさしい活動を実践していることを消費者が「いいね」と評価してくれれば、スターバックスに投票される日銀券は増え、ますます栄えるはずです。ただ、安くておいしいコーヒーを提供するだけでは、消費者は付いてきてくれません。
 大塚商会さんも、南米で植林事業を展開し、育てた木でコピー用紙をつくる活動を行っているそうですね。そうした地球環境にやさしい取り組みは、消費者から高く評価されるのではないかと思います。

いまやっていることを一生懸命にやる
BP:少子・高齢化や、それに伴う人口減少など、日本には、未来について悲観的にならざるを得ないような課題が山積しています。村尾さんはどうご覧になっていますか?

村尾氏:
わたしも非常に心配しています。「NEWS ZERO」のキャスターをするまでは、大蔵省(現財務省)で国の予算を作る主計局主計官、国債の発行をつかさどる理財局国債課長などを務めたので、財政の危うさについてはよく理解しているからです。
 格差や少子・高齢化、人口減少などの課題は年々深刻化しているのに、世界一の借金国であるがゆえに十分な対応ができない。これが日本の抱える大きな問題です。
 けれども、明るい材料がまったくないわけではありません。
 A(I 人工知能)やIoT(モノのインターネット)といったテクノロジーの進歩によって、減少する労働力を機械が補ってくれる環境が整備されてきていることです。
 よく「AIが普及すると、人間の仕事が奪われる」と言われますが、同じようなことは蒸気機関が発明され、生産力が著しく伸びた18世紀の産業革命のときにも言われました。
 その後、人間の仕事がなくならなかったのは言うまでもありませんし、ましてや日本は人口がどんどん減っているのですから、テクノロジーの活用を積極的に推し進めるべきだと思います。
 そのために、大塚商会さんのようなITソリューションプロバイダーにはぜひ頑張っていただきたいですね。

BP:最後に本誌読者にひと言メッセージをお願いします。

村尾氏:
「NEWS ZERO」のキャスターとして12年間、さまざまな方にインタビューしましたが、ノーベル賞受賞者などの成功者に通じるのは、「セレンディピティ:Serendipity(」偶然の発見)を大事にしていることです。
 世紀の発見や発明は、一朝一夕にできるものではありません。何千回、何万回という失敗を繰り返すなかで、たまたま見つけ出せるものなのです。
 そこに至るまでの気の遠くなるような努力の積み重ねと、それによって、たまたま巡り合った発見に気付くセンスを身に着けることが、成功をもたらす力になるのです。
 とにかく、いまやっていることを一生懸命にやること。それが成功への道だと思います。

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関西学院大学 教授
NEWS ZERO 元メーンキャスター
村尾 信尚氏
Nobutaka Murao

◎ P r o f i l e
1955年岐阜県高山市生まれ。78年一橋大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。外務省在ニューヨーク日本国総領事館副領事、三重県総務部長、大蔵省主計局主計官、財務省理財局国債課長、環境省総合環境政策局総務課長などを経て、2002年退官。03年10月より関西学院大学教授。06年10月〜18年9月「NEWS ZERO」(日本テレビ系列)メーンキャスターを務める。中央省庁・在外公館・地方自治体勤務やNPO活動等での豊富な経験を踏まえ、幅広いネットワークを形成しながら、政策提言・教育研究・情報発信を行う。






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