次世代の高速移動通信方式「5G」。日本国内でも正式サービス開始が発表され、本格的に「4G」からの移行が始まるとされている。「超高速大容量」「超大量接続」「超低遅延」という特長を持つ5Gは、先行する実証実験で法人需要の掘り起こしや拡大が期待されている。そこで5Gについて、詳細に解説すると共に、5Gが普及すると何ができるのか? パートナー様のビジネスチャンスはどこにあるのかを探ってみたい。 |
昔懐かしいアナログ携帯電話から始まる移動通信システムの歴史は、パーソナルなコミュニケーションの進化の歴史と言い換えることもできる。だがスマートフォンやPCだけでなく、あらゆる端末の接続を前提とする5Gは、移動通信システムが担ってきた役割を大きく変えようとしている。まずはその特長について、整理しておこう。
第五世代移動通信システム(5G)の提供が、いよいよ日本でも来春スタートする。この5Gの特長は、「超高速大容量」「超大量接続」「超低遅延」という三つのキーワードに集約できる。中でも5Gが注目される第一の理由が、2時間程度の映画がわずか数秒でダウンロードできるという通信速度にある。「超高速大容量」が意味するものは、誰にも分かりやすいはずだ。オフィスワーカーの働き方への影響を考える上でまず注目したいのも、速さという側面にある。
5Gの理論値は下り20Gbps。実はこれは次世代Wi-Fi規格であるWi-Fi6の理論値9.6Gbpsを大きく上回る。
ちなみに総務省は、5Gの実効速度は下り5Gbps、上り2.5Gbps程度になると想定している。今日の一般的な光回線サービスの実効速度が1Gbps以下であることを考えれば、その驚くべき速さが理解できるはずだ。
具体的な効果をイメージする上でも興味深い実証実験が、2019年1月にIT企業のサテライトオフィス進出で知られる徳島県神山町を舞台として行われている。
「動くサテライトオフィス」と名付けられたこの実験でNTTドコモのパートナーを務めたのは、東京に本社を置くデジタルコンテンツ制作会社。従来の本社・サテライトオフィス間の遠隔会議と変わらぬ環境を社用車からの会議参加者にも提供することを目的としたこの実験では、会議室の360度カメラの4K映像と社用車の参加者が装着するヘッドマウントディスプレイが5G通信環境においてスムーズに連携することが実証された。
現在、2020年の東京五輪を見据えた公衆無線LAN整備が急ピッチで進んでいる。それと並行して進む5Gネットワーク整備は、今後オフィスワーカーの働き方を大きく変えていくことは間違いない。
ところで、これまでI T系リセラーと回線系リセラーの間には、一定の住み分けが図られてきた。サービスと回線のどちらが欠けても成り立たない5Gサービスの登場は、そうした住み分けにも影響を及ぼすことが想定される。エンドユーザー様との取引を維持し、新たな商機を得る上でも今から5Gの仕組みやメリットに注目したいところだ。では、5Gはオフィスワーカーの働き方をどのように変え、そしてどのような商機を生むのか。まずはその概要を
押さえておこう。
5Gは、理論値とはいえこれほどの速さを可能にするのか。その答えは、これまで移動通信に使われることがなかった6GHz以上の帯域を活用する点にある。
通信速度を向上する上で、通信に利用する帯域幅の拡大は大きな意味を持つ。太い水道管であれば一定時間により多くの水が送れるのと同じように、広い帯域を用意すればより多くの情報が送れるようになるわけだ。だが移動通信による利用に適していることから「プラチナバンド」とも呼ばれる800MHz前後や、4Gでも使われる2〜3GHzの帯域はすでに飽和状態にあり、新たに広い帯域幅を確保するのは困難な状況にある。
こうした状況を受け、5Gにおいて注目されたのは、これまで移動通信で使われることがなかった6GHz以上の高周波の利用だった。ただし、移動通信における高周波の利用には大きな課題があった。電波は一般に、波長が短くなるにつれ直進性が強まるという性質を持つ。そのため高周波は、建物の影などに電波が回り込みにくく、死角が増えるという大きな問題を持っているのだ。
5Gは、障害物の裏側にも回り込みやすい3〜4G H zの電波で制御情報を伝送し、広い帯域を確保できる高周波側でユーザーデータのやりとりを行うという方法でこの問題を解決している。具体的な運用方法は各国で違いがあるが、日本の場合、初期投資コスト圧縮という観点から、既存の4G基地局が制御情報の伝送を担い、新たに設置する5G基地局がユーザーデータの伝送を担う形になる。具体的には、4G基地局がカバーするマクロセルを5G基地局によるスモールセルが細かくカバーしていくことになる。
日本の場合、5G基地局には28GHz帯の電波が割り当てられることになるが、その電波が届く範囲は数百メートル程度といわれる。今後通信キャリア各社にとり、5G基地局整備が大きな課題になることは間違いない。スムーズな普及に向け、全国の自治体が管理する約20万基の信号機を5G基地局として利用することが予定されている。
アナログ携帯電話に対応する第1世代の移動通信システムが登場した当時、その用途は通話に限られていた。その後、ほぼ10年ごとに繰り返されてきた移動通信システムの世代交代の歴史は、メール(2G)、ブラウジング(3G)、高精細動画の送受信(LTE/4G)というコミュニケーション機能の進化に対応した高速化・大容量化の歴史でもある。
そこに新たに加わった「超大量接続」「超低遅延」というキーワードは、移動通信システムが新たに担うべき役割を示している。
5Gでは、1km2あたり100万台の機器の接続が可能だ。この数字が意味するものを具体的にイメージするのは難しいが、自室の100個程度のデバイスが同時にネットワークに接続できる環境が提供されることになるという。
ここからもうかがえる通り、5Gはコミュニケーションに関する機能の進化への対応に留まらない役割を担うことが期待されている。その一つがIoTの通信インフラとしての役割で、その実現には、多数のアンテナ端子を制御し、志向性を持つビーム(ビームフォーミング)を生む超多素子アンテナ(Massive MIMO)と呼ばれる新技術が大きな役割を果たしている。
また5Gの遅延は1ミリ秒程度で、4Gの1/10に留まる。それが今日注目される自動運転の実現や重機・建設機械の遠隔操作、さらには遠隔医療の進化に大きな役割を果たすことされている。ただしそれらの効果は、5Gサービスの提供開始により利用者が即座に得られるという性格のものではない。本格的な5G普及は、通信キャリアとバーティカル産業を中心としたパートナー企業の連携を通して進むと考えられている点も注目すべきポイントの一つだ。
5G提供開始に向けたスケジュールを確認しておこう。2019年4月、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのキャリア4社に対し、5G電波の割り当てが行われた。これにより5Gサービス提供に向けた動きが本格化し、NTTドコモは今秋のラグビーワールドカップ会場におけるプレサービスの提供を表明している。具体的には、スタジアムやライブビューイング会場において、視聴者が画面アングルを自由に選択できるマルチアングル視聴サービスの提供を計画している。視聴は専用デバイスによって行われ、その貸し出しも行われる。同様に、KDDI、ソフトバンクも今秋にはプレサービスを開始する見込みだ。
本サービス開始時期は、KDDI、ソフトバンクは2020年3月、NTTドコモは2020年春、楽天モバイルは2020年6月をアナウンスしているが、その本格普及は2025年前後になるとも言われている。
なお5Gの免許交付では、「5G基盤整備率」という新たな概念が取り入れられている。これは全国をカバーする10q四方のメッシュ内の5G基地局の有無に基づきカバー率を判断するもの。それによると5年後の目標として各社が掲げるのは、NTTドコモ97%、KDDI93.2%、ソフトバンク64%、楽天56.1%という数字だった。そこからはNTTドコモ、KDDIによる全国一律の展開、ソフトバンク、楽天による都市部及びパートナーのサービス展開地域に特化したサービス提供という5Gへの取り組みの違いが見えてくる。
続き、「巻頭特集「5G(第5世代移動通信システム)」をキャッチアップ 見えてきた「5G」の商機を探る」は 本誌を御覧ください
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