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にっぽんの元気人
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吉本興業の元マネージャーが教える「笑い」で人を元気にする方法

伝説の天才漫才師、横山やすしさんのマネージャーを務め、ナインティナインや雨上がり決死隊などのデビューをプロデュースした元吉本興業マネージャーの大谷由里子さん。現在は人材活性プロデューサーとして、人を元気にする講演活動などで活躍している。「笑い」の世界に長くかかわってきた大谷さんは、「他人を笑顔にすることが、自分の元気にもつながる」という。マネージャーから企業経営者へ。これまでの人生で積み上げた大谷さん流の“元気術”について語っていただいた。


“やっさん”との仕事が人脈づくりに役立つ
BP:大谷さんは、吉本興業で“伝説の漫才師”として知られる横山やすしさんなどのマネージャーを務められた経験をお持ちですね。当時のエピソードを少しお聞かせください。

大谷由里子氏(以下、大谷氏):
大学を卒業して間もない小娘が、いきなり大御所中の大御所であるやすしさんのマネージャーを任されたのですから、最初はもう、本当に緊張しました(笑)。
 でも当時の吉本では、それが当たり前の新人育成法だったんです。
 売れているタレントさんは顔が広いので、その人に付けば、新人でもどんどん人脈が広がっていきます。お笑いの営業は、テレビ局やレコード会社の偉い人たちになるべく顔を覚えてもらって、お声をかけてもらえるようになることが第一ですから。
 押しも押されもせぬ吉本の看板芸人だった“やっさん”(横山さんの愛称)のマネージャーを仰せつかったことは、本当にラッキーだったと思っています。
 とはいえ、破天荒な“やっさん”をマネージするのは本当に大変でした。
 いまの若い人は知らないと思いますが、横山さんは、タクシー運転手と口論の挙げ句、暴力沙汰になったり、酔っぱらったままテレビに出演して共演者ともめたりといった、数多くの伝説を残しています。テレビ収録の時間に遅れるのも日常茶飯事で、わたしだけでなく、テレビ局の人たちも毎日ひやひやしていました(笑)。
 でも、そういう人だったからこそ、「どうやったら時間どおりに来てもらえるか」とか「もめずに収録を終わらせられるか」ということをテレビ局の人たちと考え、無事に番組を作るという、芸能事務所とテレビ局の壁を越えたチームワークが生まれたのです。
 おかげでテレビ局の方々との関係はますます緊密になり、その後、新しい芸人を売り込むときには、ずいぶん助けてもらいました。
 横山やすしという希代の漫才師を支える仕事を任された経験は、わたしの一生の財産になりました。

BP:売れっ子漫才師は、24時間365日働きづめだと聞きますが、マネージャーの仕事も相当激務だったのではないでしょうか?

大谷氏:
いまで は考えられないし、ありえないことですが、入社してから最初の3年間はまったく休みなしでした。
 しかも、3年間で30年分の仕事をしたのではないかと思うほど、じゃんじゃん降ってくる仕事と向き合いました。
 今振り返っても、一番体力や気力があって、感性も豊かな20代のうちに死ぬほど仕事に打ち込めたことは、とても得難い経験だったと思っています。
 いまは「働き方改革」で、時短がどんどん進んでいるので、あのころのような働き方はできなくなっていますね。
 もちろん、長く働けばいいというものではありませんが、それでも「がむしゃらに働く」という経験を若いうちに積んでおくことは、人生の大きな礎になるのではないかと思います。
 「働き方改革」によって増えたプライベートの時間を無駄にせず、勉強や交流会への参加といった自分磨きのために使っている人もいます。
 しっかり自己の研鑽に取り組んでいる人と、浮いた時間をだらだらと過ごしている人とでは、その後の人生に大きな開きが出るように感じます。

BP:大谷さんが、若いころから「がむしゃら」に働いてきた活動の源泉は何だったのでしょうか?

大谷氏:
「楽しさ」に尽きると思います。何かを手掛けることによって、自分が作りたいと思うものがどんどん出来上がっていくのはとても楽しいです。
 吉本時代には、会社を踏み台にして「どんどん新しいことに挑戦してやろう」と思っていました。
 25歳で吉本を結婚退職し、2年間専業主婦をしていたのですが、挑戦する楽しさが忘れられなくて、27歳のときに自分で企画会社を立ち上げます。
 ちょうど、ナインティナインや雨上がり決死隊が吉本の新人として売れ出す前のタイミング。彼らを中心に新人グループをまとめた「吉本印天然素材」というユニットが結成されました。
 吉本時代の先輩から「彼らの売り出しを手伝ってほしい」というオファーがあり、わたしたちの企画会社がそれをやらせていただくことになりました。

BP:1990年代の初めですね。「吉本印天然素材」はものすごい人気だったのでよく覚えています。さぞかし、現場は大忙しだったのではないでしょうか。

大谷氏:
それはもう死ぬ思いでした(笑)。やんちゃな若手芸人たちに言うことを聞かせるのも大変でしたし、その一方で、次から次へと舞い込んでくる出演のオファーをこなしていかなければなりません。
 わたしと友人の専業主婦2人で始めた企画会社だったのですが、とても人手が足りないので、スタッフをどんどん採用しました。
 ところが、経営を学んだことがないので、人を育てることができず、せっかく入ってくれたスタッフが次々と辞めてしまったんです。
 このままではいけないと思って、「人材はどう育てるべきか?」ということを一から勉強し直すことにしました。
 マネジメントや人材育成について教えてくれるスクールに通い、そこで現在わたしがライフワークとしている「コーチング」(個人の成長や企業の発展を後押しする指導術)に出会ったのです。

指示を出すのではなく「何がしたいのか?」と聞く
BP:人を育てるためには、何が大切だということを学んだのでしょうか。

大谷氏:
最も大切なのは、こちらか ら「あれせい、これせい」と指示を出すのではなく、「あなたは何がやりたいの?」「それをやるためには、どうすればいいと思う?」と質問を投げ掛けてあげることです。
 企画会社で「吉本印天然素材」のマネジメントをしていたときは、タレントたちばかりに目が向いていたので、スタッフのことを顧みる余裕がほとんどありませんでした。
 しかも、どんどん舞い込む仕事に対応するため、つい「あれをやれ」「これをやれ」と上から指示を出すばかりになっていました。言われたとおりに物事をこなすだけなので、人は育ちませんし、面白くないからスタッフはどんどん辞めて行きました。
 指示ではなく、質問が大切なのだということを知って、目からうろこが落ちる思いがしました。
 これはスクールに通って教わったことですが、よくよく考えたら吉本興業では先輩たちが当たり前に行っていたことだと気づかされたのです。

BP:といいますと?

大谷氏:
思い返してみると、吉本興業の先輩マネージャーたちは、担当するタレントに「どんな仕事がしたい?」「テレビか? それともライブか?」「どんな芸人になりたいんだ?」と熱心に聞いていました。
 彼らの希望に沿って「だったら、このテレビ局に営業に行こう」とか「あのプロデューサーに会ってみよう」と動いていたのです。
 タレントのやりたいことや向き不向きは、タレント自身にしかわかりません。マネージャーの仕事は、彼らの希望や思いをしっかり聞き出し、才能を存分に引き出してあげることなのです。
 質問こそが人材育成の本質なのだということに、改めて気づかされました。

BP:大谷さんは現在、自らがさまざまなセミナーや研修、講演などで講師をするかたわら、講師になりたい人を育成する取り組みも行っています。なぜ、講師を育てたいと思ったのでしょうか。

大谷氏:
人には、いろんな生き方や考え方、価値観があります。
 一人でも多くの人が講師になって自分の話をすれば、それがほかの人々の考え方や価値観を広げることにつながると思ったからです。
 現在、志縁塾という会社で講師の育成を行っているほか、毎年「全国・講師オーディション」というイベントを開催しています。
 「全国・講師オーディション」では、有名・無名を問わず、自分の体験や考えを誰かに聞いてほしいという人を募り、動画サイトで発表してもらいます。一方、登録費1,000円でサポーター会員を募集し、面白いと思った発表を選んで投票してもらいます。
 サポーター会員の投票による予選、サポーター会員および審査員投票による本選を経て、グランプリが決定される仕組みです。

他人を元気にすると自分も元気になれる
BP:講師になりたいという人には、どんな方がいらっしゃるのでしょうか。

大谷氏:
プロの講師を目指す方だけでなく、社員とのコミュニケーションを深めるために「話し方」を学びたいという中小企業の経営者や管理職の方々も多いですね。
 人に何かを伝えるためには、スキルを磨くのはもちろんですが、「自分の言葉」で語り掛けることが大切です。
 中小企業の経営者であれば、なぜその会社を立ち上げようと思ったのか、どんな苦労をしてきたのか、いまどんな思いで会社を経営しているのか、といったことを、ありのまま、感じるままに伝えるのがいいと思います。
 食べ物で体がつくられるように、人は聞いた言葉で心が作られ、話した言葉で未来が作られます。
 うそ偽りのない心からの言葉は、取り繕った言葉と違って、人を引きつける力があるものです。
 また、自分の言葉でちゃんと話すと、その言葉はブレない信念や哲学となって、未来への道しるべとなるのです。
 ですから、わたしは「言葉は哲学です」と常に言っています。

BP:「笑い」の世界に長く携わってこられた大谷さんですが、相手の心に伝わる話し方にも「笑い」の要素は必要だと思いますか?

大谷氏:
人を笑顔にするということは、元気にさせるということ。「笑い」には人を活性化させる力があります。
 その意味で、話の中に「笑い」の要素を取り入れることは大切ですね。
 芸人のような話術がなくても、相手を笑顔にさせることはできます。
 相手が誰かを褒めるときによく使っている言葉を聞いて、その言葉をそのまま相手に投げ掛けてあげるのです。よく使っている言葉は、自分に投げ掛けられるとうれしい言葉なのですから。

BP:最後に本誌読者にメッセージをお願いします。

大谷氏:
他人を元気にすると、自分も元気になるものです。
 その一方で、自分が元気じゃないと他人は元気にできません。
 今日の自分が元気かどうかを知るためには、他人と比べるのではなく、昨日の自分と比べてみてください。
 今日の自分は昨日の自分よりも光っているか? 動いているか? 喜んでいるか? ということを日々、自問自答してみましょう。
 人を育てるには「質問力」が大切だという話をしましたが、自分自身への質問も常に忘れないことです。

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有限会社志縁塾 代表取締役 /人材活性プロデューサー /(元 吉本興業プロデューサー)
大谷由里子 氏

◎ P r o f i l e
1963年、奈良県生まれ。京都ノートルダム女子大学を卒業後、吉本興業に入社。横山やすし氏のマネージャーを務め、宮川大助・花子など芸人を次々と売り出した伝説の女マネージャー。2003年、研修会社の志縁塾を設立。「笑い」を用いた人材育成法は、NHKスペシャルや日本経済新聞に取り上げられた。2016年、法政大学大学院・政策創造研究科修了。講師塾を主宰。






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