近年では類を見ないほど、IT投資に関する課題が山積している。例えば、Windows 7の延長サポート終了、Windows Server 2008/R2のサポート終了といったハードウェアとOSをリプレースすべき課題。消費税増税、軽減税率の導入という税制度変更の課題。そして、2020年の東京オリンピック/パラリンピックを控えたセキュリティ対策の課題。また、自然災害におけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策など、パートナー様が提案すべきテーマが集中している。これらの課題を解決するため方策として、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)が注目されている。なぜ注目されるのか?いまさら聞けない基礎情報をふまえ、メリットや将来に向けたビジネスの可能性について総力を挙げて特集する。 |
にわかに注目されるVDI。その第一の特長は、業務に必要なアプリケーションやデータにデバイスや場所を問わず、セキュアにアクセスできる点にある。VDIセールスを考えていく前に、まずはそのメリットと基本的な知識を押さえておきたい。
V D I(Virtual Desktop Infrastructure:デスクトップ仮想化)への注目が急速に高まっている。その理由としてまず挙げられるのが、デバイスや場所を問わず、いつ、どこからでも業務に必要なデータやアプリケーションにアクセスできるという特長だ。「デジタルワークスペース」とも呼ばれる、この特長を生かした提案としてまず挙げられるのが、多様な働き方を実現するソリューションであることは間違いない。
これまでも端末にデータが残らず、デバイスの盗難や紛失による情報漏えいを回避できることから、持ち出しPCやテレワーク用PCの運用にVDIは注目されてきた。クラウドにデスクトップ環境を用意し、接続するだけで即座に業務が開始できるDaaS(Desktop as a Service)の登場による導入ハードルの低下もあり、働き方改革という観点からのVDIへの関心は今後さらに強まることが予想される。
VDI提案において注目したいもう一つの方向性が、BCP対策である。振り返ると、2018年は大阪府北部地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など、自然災害が続く一年だった。さらに今年8月にも九州北部を記録的な豪雨が襲い、市街地が泥水に覆われるなど大きな被害を招いた。繰り返される自然災害は、BCPの重要性が再注目されることにもつながっている。
自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した際、企業リソースの被害を最小限に留め、中核事業の継続、早期復旧を可能にするBCPにおける対策は多岐に及ぶ。それらをITの観点から見ると、大きく二つの対策に絞り込むことができる。一つは業務に必要なデータやアプリケーションの保全、そしてもう一つが、有事の際のコミュニケーション網の確保である。
前者の重要性は言うまでもないはずだが、後者も交通機関のマヒで出社が困難になった際の事業継続に大きな役割を果たす。
例えば、朝の通勤時間帯に発生した大阪府北部地震では、交通機関がマヒする中、徒歩で出勤するサラリーマンの姿が
目立ったが、交通機関の混乱が終日続いたことでその行動は多くの帰宅困難者が生まれることにつながった。その際にBCPの一環としてテレワーク、モバイルワークの仕組みを導入していたいくつかの企業は、こうした混乱から従業員を守ることに成功し、企業評価を高めている。
2011年3月の東日本大震災を機に注目されたBCPだが、実は中小企業の多くでは策定が進んでいないのが実情だ。多少古いデータになるが、中小企業庁委託による2015年12月時点の調査では、BCP策定済みの中小企業は15.5%に留まり、64.4%は未策定だった。
BCPにおいて考慮すべき要素は多い。だが中小企業の場合、保全したデータにアクセスできれば事業が継続・復旧できるというケースも少なくない。それだけにVDIを軸にしたBCP提案は大きな意味を持つはずだ。
また働き方改革を鍵にした提案では、東京オリンピックも重要なキーワードの一つである。オリンピック期間中の交通機関の混雑緩和を重要なポイントとして位置付ける政府は、東京都とも連携し、今年7月22日から9月6日までの約1カ月間を「テレワークデイズ2019」に設定した。都内企業に対し、モバイル・サテライトオフィスによるテレワークの実施を呼び掛け、東京都は、中堅中小企業を対象にテレワーク導入支援策を打ち出している。
今回は、働き方改革とBCPという二つの観点から、VDI提案を考えていきたい。その前にまずは、VDIの概要を簡単に押さえておこう。
VDIを一口に言うと、クライアントのデスクトップ環境をサーバーの仮想マシンによって運用する仕組みである。同様の仕組みにシンクライアントがあるが、双方の違いが分かりにくいという声も少なくない。
シンクライアントとは、VDIが登場するはるか以前から存在する、クライアント側の処理を最小限に留め、多くの処理をサーバー側で行うシステムを総称する言葉。広い意味では、VDIもシンクライアントの一方法に位置付けることができる。
シンクライアントには、ネットワークブート型と画面転送型という二つのタイプがある。ネットワークブート型とは、OSやアプリケーションを収納したイメージファイルをサーバーに用意し、そのつど、ネットワーク経由でクライアントにイメージファイルをダウンロードして起動する方法である。処理はクライアントのCPU、メモリーで行うため、ネットワーク環境を問わず、ストレスのない操作感が確保できる点がその特長で、今日でもカリキュラムに応じて多様なOSを用意する必要がある教育現場などで広く活用されている。
ネットワーク環境の改善に伴い、普及が進んだのが、あらゆる処理をサーバーで行い、クライアントに画面情報を提供する画面転送型と呼ばれる仕組みだ。その仕組みは大きく三つに分けられる。まずはクライアントごとに一つの物理サーバーを割り当てるHDI(Hosted Desktop Infrastructure)と呼ばれる方法だ。かつて、高密度のブレードサーバーを割り振ったことから「ブレード方式」とも呼ばれたが、現在はVDIとして使用しない場合はクラスタリングでリソースを統合するなどより弾力的に運用できる仕組みが一般化し、行政機関などで普及が進んでいる。
次がクライアントOSを仮想化せず、サーバー上に仮想化されたアプリケーションを複数のユーザーが共有するSBC(Server Based Computing)方式。いわゆるリモートデスクトップ方式で、サーバーのCPUやメモリーリソースを共有するため、導入コストを抑えることが可能だが、個別デスクトップ構成ができないという制約もある。
最後が、今回のテーマであるVDIだ。1クライアントに一つの仮想マシンが対応するため、アプリケーションのインストールやカスタマイズを各ユーザーが行うことが可能になる。
VDIは、仮想マシンの割り当て方法と作成方法の組み合わせを通し、多様なニーズに対応できる点もぜひ押さえておきたい。
割り当て方法には、仮想マシンとユーザーが紐づけられた「専用割り当て方式」と仮想マシンとユーザーが紐づかない「流動割り当て方式」がある。前者の場合、従来のクライアントPC同様、必要に応じてユーザーがアプリケーションをインストールするような使い方も可能。後者はリソースを最小限に留められる点が第一のメリットといえる。割り当て方法は併用が可能であるため、経営層や専門職は専用割り当て方式、事務スタッフは流動割り当て方式など、業務に応じて企業内で使い分けることが一般的だ。
仮想マシン作成方法には、マスターイメージの複製をすべての仮想マシンに配付する「フルクローン方式」と、マスターイメージをレプリカマシンとして定義し、ユーザーごとの設定や変更を差分のみ各仮想マシンが持つ「リンククローン方式」がある。後者はストレージ消費量を大幅に抑えられるというメリットがある。
VDI導入は、オンプレミスとクラウドが選択できる。サービス事業者が提供するクラウド型VDIはDaaS(Desktop as a Service)と呼ばれ、アクセスするだけで業務に必要なデスクトップ環境が簡単に得られることが魅力だ。
冒頭でも触れたとおり、VDIはスマートフォンからPCまで多様なデバイスが利用可能だ。HDDを持たないシンクライアント端末を利用することで、よりセキュアな運用が可能になる。また画面情報を表示するディスプレイと操作を行うキーボードで構成されるゼロクライアント端末も注目されている。
VDI導入において課題になるのは、サイジングに関する問題だ。VDI導入事例では、アクセスが集中する始業時などに遅延が目立つと指摘する声も多い。提案では、アクセスの集中まで視野に入れたサイジングが大切になるだろう。また、VDIへの移行では、ファイルサーバーへのアクセスやプリント出力の遅延発生を指摘する声も少なくない。VDI提案では、ネットワーク全体の見直しも不可欠な項目になる。
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