前回、業績管理という視点で、ITをもっと活用する方法やテクノロジーについて解説した。そこで今回は、正確な業績管理のために取り組むべき課題や仕組みについて考えていく。これまで、多くの企業が営業成績や販売実績という形での業績を視覚化し管理しようと取り組んできた。しかし、その成果を発揮できた成功例は、あまり多くない。その大きな理由には、現場と経営層の連携が理想通りに機能していないことだ。 業績管理も管理会計も重要なのは現場のリアルなデータ収集 業績管理の基本は、ビジネスの現場で起きている変化を的確に把握・管理し、次の一手を打てる体制作りにある。単に結果を知るだけであれば、財務会計ソフトなどの売り上げや売掛金などの数字を集計するだけでよい。しかし、そうした管理会計の数字だけでは、著しくグローバル化する現在のビジネスでは、正確な経営判断や次の戦略を立案することが困難になっている。ERP(Enterprise Resource Planning:経営資源計画)に代表される管理会計システムの多くは、ビジネスの現場で動いているリアルな数値データではなく、仕入や販売などの結果が損金や経費などの数字情報として集められる。そのため、その数字の原因や根拠を知るには、財務部門や経営企画部の担当者が、手間をかけてそのデータが発生した現場から情報を収集しExcelで集計する、といった作業を踏まなければならない。しかし、せっかく集めた数字も、収集作業に手間取れば情報としての鮮度が失われてしまう。 こうしたデータ収集の遅れを防ぐために、ERPシステムでは、経費清算などの処理を現場に振り分けたり、他の業務システムと連携して、自動的に売掛金や買掛金などのデータが入力されるようになっている。それでも、「入出金という金額」として集められた情報だけでは、個々の業務に特化した正確な業績を管理することはできない。 ビジネス現場で使う数値指標を見極める重要さ 販売や製造、流通やサービスなどの業種や、あるいは営業や購買、搬送や広報など業務の違いによっても、個々の業績を判断する数値指標には違いがある。例えば、製造業であれば仕入れから製造にいたるまでのあらゆる部品や原材料を管理し、その生産効率や歩留まりを把握し改善していく必要がある。営業であれば、営業成績だけでなく、客単価や平均受注率、リードタイムなど、販売効率を改善するためにチェックするべき指標が数多くある。 こうした業種や業務に特化した数値指標を正しく見極めることが、業績管理における重要な第一歩となる。単にBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールを導入するのではなく、あらかじめ何をデータとして収集しモニタリングするのかをきちんと考えておかなければ、目的とする業績管理は実現できない。言い換えれば、対象となる数値指標がしっかりと把握できていれば、どのようなITツールでも、目標とする数値を管理することが可能になる。 例えば、BI専用のツールではなく、グループウェアの掲示板や電子会議機能を活用しても、現場で動く数値を的確に収集することはできる。集めた数値を自動的に集計したり、他のソフトに転送することを考えると、グループウェアだけでは不可能なケースはあるが、営業部門であれば、SFA(Sales Force Automation)などを活用して、営業成績の管理も実現できる。製造業であれば、生産管理システムから得られる数値を活用したり、流通業であれば貨物情報を活かせることもある。 業績管理のためのシステム構築において重要なポイントは、現場で発生している生のデータを的確にリアルタイムに近い形で、いかに収集するかにある。どんなに立派なシステムを構築しても、現場からリアルなデータが入力されなければ、ITを活かした業績管理は実現できない。 課題は収集データの的確な分析とPDCAサイクルに向けた取り組み 従来の業績管理では、成績を並べてみたり、次年度の予算案や計画立案のために、過去の実績を記録しておく、といった取り組みがされてきた。予算を編成する部門では、過去の実績から推測して、将来の予測を立てる。しかし、往々にして計画というものは、何事も過小に設定してしまいがちになる。また、予算計画だけを優先すると、「計画のための計画」を作るだけに終始し、本来の目的である業績向上や発展に向けた積極的な取り組みが欠落してしまうケースも多々ある。そうならないためには、業務だけではなく、企業全体を通したパフォーマンス(業績)としての数値データを正確に収集・分析し、そこから次の改善や計画につながるアクションへと結びつけていかなければならない。つまり、業績管理にも、製造業で行われているような「PDCAサイクル」が求められるのだ。 管理のための数字ではなく、改善に結びつく有用なデータへと活かすためには、数字の的確な分析だけではなく、その結果から次のアクションへ発展させるためのITの仕組みや組織作りが重要になる。単なる管理や計画のためだけのデータ収集ではなく、集められた情報ができるだけリアルタイムに計測され、指標との正確な差分が表示されることだ。その結果に基づく判断や行動までを一連のプロセスとすることによって、はじめてITによる明確なビジネスへの貢献が可能になる。 その取り組みは、すでに一部の企業では競争力向上のための一環としてはじまっている。つまり、業績は管理するものではなく、モニタし比較検討しなければ、ビジネスにとって何ら意味をもたない。そしてそのためにITツールやソリューションを導入することが、重要な経営課題となる。 ビジネスとITが切っても切れない重要な関係となっている現在にあって、収益改善のために投資するITもあれば、効果や効率のために構築するITもある。そしてこれからは、改善や向上のためにも、ITを活用していくことが、最も重要な取り組みだといえるのだ。