ビジネスとITが切っても切れないような緊密な関係になって、もうかなりの時間が経過してきた。そして今後も、ビジネスの効率化や発展にとって、ITは欠かすことのできない存在であり続ける。しかし、ビジネスに必須のITが、時としてビジネスの負担になっていたり、真の貢献になっていないケースもある。そうしたケースの中で、今回は業績管理という視点で、ITをもっと活用する方法やテクノロジについて考えてみよう。 業績(パフォーマンス)を管理するという発想 これまでのITも、そしてこれからのITも、ビジネスを円滑にするための存在であることに代わりはない。財務会計や販売管理に在庫管理、文書作成や表計算にインターネットなど、現在のビジネスはITがなければ正確な数字の計算や円滑な情報の伝達ができない。多くの人たちが、PCの前でマウスとキーボードを操作して、必要な情報を入手し発信している。しかし、これだけ発展し普及してきたITであっても、どこまでビジネスに貢献しているかとなると、疑問を抱く経営層や管理職も多い。その根底には、営業成績があがらないとか、思うように業務の効率化が図れない、といった悩みだけではなく、ビジネスそのものを改善したり向上させるために、ITが思うように使いこなされていない、という不信感がある。誰もがPCを使うようになり、電子メールやファイル共有などを当たり前に活用するようになっても、ビジネスをマネジメントしている側から見ると、まだまだ必要な情報が十分に得られていないという不足感があるのだ。 例えば、「昨日までの営業1課の売上は?」という営業部長の質問に対して、社内のITは正確に答えを出せるだろうか。もしも、日々的確に売掛金や出荷伝票を販売管理システムに入力している会社であれば、答えはすぐに出るだろう。しかし、そこからさらに一歩踏み込んで、「昨日までの売掛金の回収率は?」とか「第一四半期の営業成績は?」とか「商品Aの在庫の回転率は?」といった業務に密接な成績を求めようとすると、即座に答えを出せる情報システムを備えている企業は激減するだろう。なぜなら、多くの企業が経営の指標として利用できる数字の多くを財務会計システムに登録しているからだ。そのため、会計的な視点であれば、比較的短時間に取り出せるのだが、他の業務システムとの連携や相関関係を求めなければならない数値や指標となると、即座に取り出せる仕組みが存在しないケースが多い。大手企業であっても、経営管理部門や経営企画室などのスタッフが、それぞれの業務システムから計算結果を取り出してきて、Excelなどに転記し再計算している現状もある。つまり、これだけITが普及し発達していても、ビジネスにおける「業績の管理」という面では、まだまだ十分な仕組みや環境が整っていないのだ。 円滑な成長をサポートする 本連載の第1回目(vol.20)でも触れたことがあるが、ビジネスインテリジェンス(BI)というアプリケーションや開発環境は、業績管理の代表といえる。BIは、それ自身が数値を管理したり変換するのではなく、業務で使われているさまざまなアプリケーションから、必要な数字を集めてきて、それを必要とする系列と照合して多角的な数値分析を行う。 一般的な業務ソフトでは、例えば販売管理ソフトにおいては、販売する商品の発注処理や売掛金の管理が主な目的になる。日々、的確に伝票の値を入力していれば、いつでも売掛状況や販売実績を正確に把握できる。しかし、それだけで業績管理に必要な情報のすべてが得られるかといえばNOだ。業績管理の目的は、過去の数字を集計して結果を知ることではない。過去から現在までに起きている事象を分析し判断して、将来の改善や成長につなげることが、真の目的となる。そのためには、何が売れたか売れなかったかを知るだけではなく、「どうして」売れたか否かを調べなければならない。この「どうして」という疑問に対する答えを導き出すためには、単なる伝票の数値の集計だけでは、十分な情報にはならない。仮に、店舗販売であれば「天候」かもしれないし、訪問販売であれば「担当者」かもしれない。他にも、「競合」や「価格」、「評判」や「地域」など、人間が当たり前に考えている第三の事象をデータとして用意し、売上げ実績の数字と組み合わせて分析しなければ、「どうして」の答えは見えてこない。 ITとビジネスを結びつけるキーワードとして目にすることが多くなっている「可視化」や「見える化」というのは、まさにこうした数値の分析によって見出される「どうして」のデータなのだ。 「どうして」を発見・改善し真の業績管理とITの経営貢献へ BIツールの利用事例でよく紹介されている画面に「ダッシュボード」がある。これは、飛行機や自動車のコックピットに見立てた経営者のための「メーター類」のようなもので、業務や経営に関わるさまざまな数値指標を視覚的に表現したもの。例えば、在庫数ならば、適正在庫の場合には「青信号」、少し減ったら「黄色」、そして欠品時には「赤色」で警告する。また、日々の売上推移を折線グラフで表示したり、業績指標をレーダーチャートで見せるなど、会社の経営状況を一目でわかるようにする。 しかし、真の業績管理のためには、コックピットのように表示されるだけではだめで、より的確な警鐘の発信と改善に向けたアクションをとる仕組みと体制作りが必要になる。在庫が減ったら発注を出す、くらいのことは自動化できるだろうが、商品Sの販売実績が対前年比で5%落ちている、というような事態では、ソフトウェアだけで最適な対策を講じることはできない。そうした減少を分析するためには、「どうして」の元となるデータを数多く集めてこなければならない。また、それらを的確に分析し、仮説や推論も立ててデータで検証していくしかない。 もっとも、さらに理想を述べるならば、真の業績管理を行っていれば、5%の減少という結果が出てくる前に減少の予兆が発見できたはずなのだ。在庫の回転率が悪化していたり、返品が増えていたり、地域による売上実績に変動が起きていたなど、業績の変化には必ず予兆がある。それをいかに早く的確に捉えられるかどうかが、ビジネスの競争力であり、それを実現することが業績管理の目的でもある。 次回は、現場主導で業績管理を推進するためのモデルケースについて考えていく。