前号の特集では、サーバ統合について取り上げた。そこで、今号の特集ではストレージ統合について取り上げる。企業内ネットワークに分散配置されていたサーバを統合すれば、必然的にストレージ統合の需要が生じる。各々のサーバにダイレクトに接続され、分散していたストレージを統合しなければ、サーバ統合の真のメリットを享受することはできないからだ。統合したストレージは、増え続けるデータに柔軟に対応し、優れた運用管理性をもたらすが、ストレージの統合提案にあたっては、注意すべきポイントがある。
特集ではストレージ統合の基礎知識、ストレージ統合でもたらされるさまざまなメリットと構築提案のポイントなどをまとめる。パートナーの皆様はこれらを参考に、お客様に最適なストレージ統合を提案していただきたい。 |
前号の特集では、サーバ統合のさまざまな手法やメリットについて解説した。ここで再度まとめておくと、サーバ統合とは、企業内ネットワークに分散配置されていたサーバを物理的、あるいは論理的に統合することであり、近年ではブレードサーバと仮想化ソフトウェアを用いて、複数配置されていたサーバを物理的に統合する手法が一般的になっている。
サーバ統合がもたらすメリットは、第一にTCO(総保有コスト)の削減であり、第二に運用管理性や可用性、セキュリティレベルの向上という点にある。
サーバ統合を考えるにあたってもう1つ忘れてはならない問題が、統合するサーバのデータをどうするのかという問題だ。企業内ネットワークに分散配置された従来のサーバには各々ディスクが接続され、サーバアプリケーションのデータも各々のディスクに分散しているはずだ。サーバ統合するのであれば、これらの分散したデータも統合し一元管理したいという要求が当然出てくる。データを統合するためには、データを格納するストレージ装置を統合しなければならない。このように、サーバ統合とストレージの統合は不可分一体であり、サーバとともにストレージも統合しなければメリットは享受できない。
ストレージ統合とは、企業内ネットワークに複数配置されているサーバに、ダイレクトに接続されていたストレージ装置(DAS)を、物理的あるいは論理的に統合し、データの一元管理を実現することだ。
ストレージを統合した場合のメリットは、データの一元管理が可能となるほか、ディスク容量の効率的な運用が可能になる。たとえば分散配置された4台のサーバのローカルディスクに、それぞれ100GBの空き容量がある場合、合計で400GBもの空き容量があることになる(図1)。ストレージの統合はこうしたディスクリソースの無駄を省き、ディスク容量の効率的な運用を可能にする。増え続けるデータ容量に対応するためにも、必要に応じて各々のサーバに割り当てるディスク容量を調節し、最適化できることはTCO削減の面から大きなメリットだ。
また、ストレージ統合では、システムやデータのバックアップも容易になる。それぞれのシステムやデータのバックアップを、分散したストレージのままで作成するのでは非常に手間がかかる。しかし、統合されたストレージであれば容易にバックアップをとることができる。同様に、ストレージを冗長化する場合においても管理工数が増加し、ディスクリソースの最適化という観点から望ましくない。しかし、統合したストレージなら無駄なく効率よくディスクやボリュームを冗長化し、可用性を高めることができる。
さらに、最近ではストレージの仮想化技術によって、高度な運用も可能になっている。従来のストレージシステムではネットワーク化しても、サーバごとに割り当てるボリュームをストレージシステムをまたいで作成することはできなかった。しかし、仮想ボリュームの仕組みを使えば、そうした高度な運用も可能になる。具体的には仮想ボリュームという仕組みによって、異機種混在の複数のストレージシステム間で、1つの大きなストレージプールを作成して運用することが可能になる。
このように、ストレージ統合がもたらすメリットは広範囲にわたる。
ところで最近ではネットワークインターフェイスを持ち、企業内ネットワークに接続して、手軽にファイル共有を実現するストレージ装置(NAS)も多くの企業で利用されている。
確かに手軽にファイル共有を実現するためには、NASの導入は有効な手段だ。しかし基幹系や情報系など、さまざまなサーバアプリケーションのデータをNASに格納するより、ストレージ専用のネットワークによってサーバと接続するネットワーク型のストレージ装置(SAN)に格納するのが、一般的な手法となっている。では、NASとSANの決定的な違いとは何だろうか。これがストレージ統合を考える上での第一のポイントだ(図2)。
安価に導入することができ手軽にファイル共有を実現するNASは、便利なストレージ装置だ。しかし、NASへのアクセスはファイルI/Oであり、NASという装置は基本的にネットワーク上のファイルサーバでしかない。つまり、複数のクライアントPC間でファイル共有を実現するだけならNASで問題ないのだが、さまざまなサーバアプリケーションのデータを格納するとなると、事情は異なってくる。ファイルI/OでアクセスしなければならないNASは、サーバ側のファイルシステムやアプリケーションに依存するため、NASに搭載されたファイルシステムや通信プロトコルをサポートしていない場合にはアクセスができない。
そこで、ストレージ統合にはSANと呼ばれるネットワーク型のストレージ装置が用いられる。SANへのアクセスはブロックI/Oであり、サーバ側のファイルシステムやアプリケーションに依存しない。基幹系や情報系などのサーバアプリケーションは、ミドルウェアとしてリレーショナルデータベースを利用することが多いが、リレーショナルデータベースは通常ファイルシステムを介さず、ブロックI/Oによってディスクにアクセスする。そのため基幹系、情報系などのサーバアプリケーションのデータを格納するのに適しているのだ。またサーバとSANとの接続には、専用の高速ネットワークを用いるため、転送速度も通常の企業内ネットワークより高速だ。
こうしたNASとSANの接続の違いを踏まえて、ストレージシステム導入について考えていく。
インターフェイスとしてFC(ファイバーチャネル)を用いるSANをFC-SAN、iSCSIを用いるSANをIP-SANと呼ぶことがあるが、これまでSANにおいてはストレージ専用の高速ネットワークを用いるFC-SANが一般的であった。FCの転送速度は1Gbps、2Gbps、4Gbpsと高速化してきている。また10Gbpsの転送速度を持つ規格も策定されており、徐々に対応する製品が登場している。しかし10Gbpsのインターフェイス規格は、1/2/4Gbpsのインターフェイス規格と下位互換性がなく、今のところ広く普及していない。
一方、1/2/4GbpsのFCであってもFC専用の高価なHBA(ホストバスアダプタ)やスイッチが必要で、これらの専用ハードウェアの初期導入コストがFCSAN普及の大きなネックとなっていた。加えてSANやFCの規格に精通した技術者はそれほど多くないため、サポートやメンテナンスまで含めたTCOの観点から、FCはコストがかかりハードルが高いとされてきた。
そこで、最近注目を集めているのがiSCSI方式だ。iSCSIは通常の社内ネットワークに用いられているのと同じ、イーサネットのアダプタやスイッチを用いる。iSCSIの転送方式は、TCP/IPのパケットにデータとSCSIのコマンドを組み込んで転送する。現在主流になっている転送速度は100Mbpsまたは1Gbpsだが、近い将来に10Gbpsが主流になることが確実視されている。
このiSCSI方式の最大のメリットは、初期導入コストとサポートやメンテナンスまで含めたTCOにおいて、大きなコストがかからず導入ハードルが低い点だ。転送速度10Gbpsのイーサネット(10Gイーサネット)製品も、すでに価格が低下傾向にあるため普及の兆しを見せている。また、Windows、商用UNIX、Linuxなどの主なサーバ向けOSは、iSCSIイニシエーターを内蔵しておりiSCSIへの対応を済ませている。従ってサーバ側にソフトウェアを追加する必要もない。またiSCSIは一般的な通信プロトコルとして多くの技術者が扱い慣れているので、サポートやメンテナンスまで含めたTCOの観点からもコストがかからない。
このような理由から今後SANのインターフェイスの主流は、FCからiSCSIに移っていくと考えられる。これからSAN製品を導入する場合、インターフェイスとしてiSCSIを用いるIP-SAN製品を選択肢として検討したい。
販売店の皆様は、サーバ統合と併せてSAN製品の導入によるストレージ統合を、お客様に積極的に提案していただきたい。代表的なSAN製品は、サーバベンダ、およびストレージ専業ベンダから販売されている。SAN製品での主なサーバベンダとしては、日本ヒューレット・パッカード、日本アイ・ビー・エム、日立製作所などが、またSAN製品のストレージ専業ベンダとしては、ネットアップ(NetApp)、EMCジャパンなどが挙げられる。
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■図1 ストレージの全体最適化-?ストレージ統合?-
■図2 NASとSANの接続形態の違い
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