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にっぽんの元気人
2009年7月時点の情報を掲載しています。

1990年に神奈川県相模原市の住宅街に1号店をオープンしたブックオフは、創業から19年で国内外に約1,093店舗 (2009年3月31日現在)を展開するまでに急成長を遂げた。 同社では、2年前から佐藤弘志氏を代表取締役社長として、企業改革に取り組んでいる。そこで今回は同社の独特な人材育成法や不況下での中古販売の現状、これからの経営戦略について佐藤氏に話を伺った。


「総合リユース」のトップカンパニーを目指す

中古販売は内需型産業。海外の不況で言い訳はできない。
BP:平成19年6月に社長に就任されてから、丸2年が経ちました。昨年からの景気の影響なども含めて、振り返ってみていかがでしたでしょうか。
佐藤弘志氏(以下佐藤氏):よく、不況だから中古販売は好調でいいですね、と言われますが、そんなことはありません。私たちのビジネスはお売りいただいたものをいかに循環させていくかが事業の主体なので、ちょっと油断するとすぐに形が淀んでしまいます。私が就任してから、これまでの2年間は、まさにその循環のバランスを取り直すための期間だったと思います。

BP:不況だから中古販売が儲かる、とは限らないということですか。
佐藤氏:そうです。中古販売は地域の中で閉じている内需型産業です。アメリカがどうなろうと、為替がどうなろうと関係ありません。仕入も販売も地域が基本なので、誰にも言い訳ができないのです。普通の小売業であれば、必ず川上があるので、売れない理由を仕入れや製造した商品のせいにできます。しかし、私たちのビジネスには川上がまったくないので、商品がなければ仕入担当者の努力不足になりますし、売れなければ売場の者の責任です。誰にも文句を言えないというビジネスは、厳しいものですが、人を育てるという面では、とてもいい環境になります。

BP:先ほど、社長に就任されてからの2年間は、バランスを取り直すための期間だった、とお話をされましたが、どのようにその試練を乗り越えてこられたのでしょうか。
佐藤氏:カリスマ性のあった創業経営者が、ある日突然いなくなる、というのは従業員にとっては未体験のショックでした(※1)。当社は、本当に若い会社で平均年齢は20代です。当時は創業者というカリスマがいて、外から見ると、教授と学生たちのような組織でした。私も12年前に入社して、創業者に育ててもらいました。それが2年前の出来事で社長に就任することになったのです。
 一般的に創業者からの事業継承は大変だと言われています。特に最大のリスクは、創業の理念やそれまで大事にされてきた価値観が、社長の交代によって一気に失われ、社員のモチベーションが下がってしまうことです。そのため、私が社長に選ばれた時に、役員と3つの約束をしました。1つは、会社をつぶさないこと。2つ目がこれまでの成長を止めないこと。そして3つ目が創業理念をぶらさないことでした。私は就任から一貫して、迷った時にはこの3つの基本に立ち返るようにしています。
※1 編集部注:平成19年6月、創業者の坂本孝会 長兼CEOは不正経理問題などで引責辞任、 橋本眞由美社長兼COOは代表権のない取 締役会長に

BP:3つの基本を支えにこの2年間をかじ取りされてきたのですね。
佐藤氏:今にして思えば、就任当初は無理に頑張ろうという意識ばかりが先行して、肩に力が入っていました。その結果、3カ月目に大きな危機に見舞われたのです。就任した6月から8月にかけて、社内に真空というかポワンとした状況ができてしまい、気づいた時には数字が把握できなくなってしまったのです。売上も落ちてバックヤードにあった大量の在庫もいつの間にか捨てられているような状況でした。それまでまったく気づきませんでしたが、しかし、その現実がわかった時に、ようやく幹部たちにもエンジンがかかり、危機をみんなで共有し始めました。


部下の失敗を歓迎する独自の人材育成法とはBP:そこでブックオフが変わり始めたのですね。
佐藤氏:はい。そこから出てきたのは「負けん気」でした。このままでは、自分たちを育ててくれた大好きなブックオフがだめになってしまう。それは悔しい。そういう負けん気が幹部の中に溢れてきたのです。そこから下方修正した期末の数字を達成するために、まさに全社一丸となって数字の目標に向けた努力を始めました。その一つが全体最適化でした。基本的にこれまでのブックオフでは店舗ごとに仕入と販売を行っているだけで、片方で買い過ぎて余っている店があり、もう片方で在庫が足りない店があっても、各店舗の店長はいわば一国一城の主ですから、自らが仕入れたものは他には出しません。そうした固定観念があるので、全体最適化を我々が伝えても、気持ちがついていかない店長が多かったのです。それを変えるために、ブックオフ独自の人材育成で培われてきた組織を活かして、意識改革に取り組んだのです。

BP:ブックオフ独自の人材育成とは一体どういうものでしょうか。
佐藤氏:ブックオフの社員教育は、新入社員の育成担当者を選抜するところから始まります。というのも、多くの新入社員にとって最初につく上司によって社会人としての人生が決まるのではないでしょうか。そして、社会人にとっての最大の不幸は、配属となった先に心から尊敬できる先輩が一人もいないことだと思います。そのため、当社では、育成担当を決めるのに、すごく時間をかけて選びます。そして、当社では「失敗こそが最大の教育」だと考えています。だから、失敗した新入社員には、教育担当になった先輩が“手をたたいて”喜んであげるのです。

BP:実際にどんな失敗をするのでしょ うか。
佐藤氏:例えば、帳票の書き間違えの ようなミスは、失敗のうちに入りません。それよりも大切なことは、店舗を預かる者として、パートやアルバイトの方々の気持ちを一つにできるかです。私たちのお店は、パートやアルバイトの方々に支えられています。その人たちに反発されたり、時には集団で辞められてしまうようなことが、大きな失敗になります。しかし、その失敗こそが新入社員にとっては大切な経験なのです。だから、社員が店長になって「アルバイトとの関係が上手くいってない」などの報告を教育担当者にすると、彼らは怒るよりもむしろ喜ぶのです。そして、「いい失敗をしたね」と温かい言葉をかけます。そういう言葉をかけられるのは、その担当者自身が、新入社員の頃に同じような経験をしてきたからです。そして、失敗をした社員は、そこではじめて「この先輩に対して恥ずかしい仕事はできない」と思い、成長するのです。そうした先輩と後輩の関係を当社ではよく「親子」と呼んでいます。その関係が社内に脈々とつながっていて、その系図の頂点にいるのが、会長である橋本眞由美なのです。彼女はパートからたたき上げで社長になった人間です。今の社員はみんな彼女の背中を見て育ってきました。2年前に全社的な意識改革に取り組んだ時にも、橋本が号令を発してくれたからこそ店舗やエリアというこだわりを捨て、会社の存続のために社員が一丸となれたのです。


5年後、10年後も必要とされる未来のインフラを目指してBP:ブックオフの経営ではITはどのように活用されているのでしょうか
佐藤氏:
中古販売でのIT活用といえば、アイテムの単品管理をデータベース化する作業があげられます。しかし、中古本はアイテム数が多いため、データベース化するよりは、次々と販売していった方が経営的な効率は図れます。そのため、本に関しての単品管理は行っていません。しかし、最近ではDVDやゲームソフトの扱いも増えており、こちらは単価も高いことから単品POSの導入を推進しています。もっとも管理する項目や作業が増えてしまうと、現場の店長に負担になる面も多いので、どのような按配でITを役立てていくかは、まさに今プロジェクトを立ち上げて、次世代POSの開発に取り組んでいるところです。私たちの場合は、経営側の目線ではなく、常に現場を大切に考え、利用する店長の目線でITの活用を考えています。

BP:ブックオフが掲げている「捨てない人のインフラを作るカンパニー」とはどういう事業活動でしょうか。
佐藤氏:会社の成長とは何か、と考えていくと、5年後10年後の未来で、世の中に必要とされている事業を行っているかどうかではないでしょうか。世の中に必要とされることと、自分たちのやっていることにズレがないかを経営者は見極めなければならないと思います。
 こうした考えから、私たちは、「モノを捨てたくない人のためのインフラを提供する総合リユースのトップカンパニーを目指す」という目標を掲げました。モノを捨てない理由は人それぞれです。もったいないという価値観や、生活防衛のために少しでもお金に変えたいとか、いろいろな動機があります。しかし、一つ確実なことは、これから先の未来では、かつてのバブル期のような、たくさん買ってどんどん捨てて、それがカッコいいというような時代は再び来ないでしょう。むしろ反対に、モノを大切にする人たちが増えていくと予測しています。そうした人たちの価値観の受け皿として、地域の方にとって当たり前のように存在し、みなさんのインフラとなるために、これから事業活動を続けていきたいと思います。

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佐藤弘志氏
Sato Hir o s h i

◎ P r o f i l e
1970年、神奈川県出身。1995年、東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻修士課程修了。同年4月、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。1997年、ブックオフコーポレーション株式会社入社、2003年、ブックオフメディア株式会社代表取締役、2007年、ブックオフコーポレーション株式会社執行役員企業戦略担当、同年6月に代表取締役社長に就任。




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【にっぽんの元気人】

・もう景気の底は打った。被害者意識から脱して、今こそ守りから攻めへ。 【Vol.44】


 
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