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にっぽんの元気人
2009年5月時点の情報を掲載しています。

米国の金融破綻から始まった 世界同時不況の波は日本にもおよび、 急激な景気収縮により、一気に国内の 景況感が悪化したのは昨年11月。 2009年が明けてすでに 半年を経過しようという現在、 世界は、日本はどうなっているのか。 トンネルの出口はもうすぐなのか。 どこに反撃の糸口があるのか。 各界の最前線で活躍する オピニオンリーダー『にっぽんの元気人』に われわれの業界復活のヒントをたずねた。


もう景気の底は打った。被害者意識から脱して、今こそ守りから攻めへ。


景気は ほぼ底打ちに近い
 BP:ズバリ今の日本の景気をどう判断されていますか
 田原総一朗氏(以下田原氏):非常に大雑把に言えば、私は現在の日本の景気はほぼ底打ちに近いと思っています。株価が下がることはあっても、例えばトヨタにしてもパナソニックにしても在庫調整はほぼ終わっています。トヨタも5月から増産体制に入るわけですから。
 今回の不況に関して日本はやや油断していたところがあります。去年の夏まではみんな景気が良かったと思いますが、本当は一昨年の夏から景気が悪くなることは予想ができたはずです。しかし、それを予測していた経営者が少なかった。
 そこで、昨年秋にいきなり不況が来たということで、少々狼狽したところがあると思います。しかも、この不況で企業の業績が悪くなってきた。普通は、企業の業績が悪くなるということは、経営者が経営に失敗した場合に悪くなる。でも、今回はどの経営者も経営のやり方を失敗したという自覚がありません。
 経営に失敗したわけじゃないのにドーンと業績悪化になってしまいました。だから経営者が自分の責任よりも前に被害者意識を持ってしまった。被害者意識になると、攻めじゃなくて守りになってしまう。だからともかく経費節減、経費節減といろんなものを落としていこうと守りになってしまいました。日本は「空気の社会」「空気の国」と言いますから、みんなが不況だ、不況だと口にするので、どんどん不況になったと言えると思います。

 BP:不況の発信源でもある米国の現況についてはどう見られていますか。
 田原氏:去年の暮れにアメリカを訪問した際に向こうのエコノミストや経営者に会いました。彼らは「この事態をどう乗り切るか」「私はこうしたい」とみんな前向きでした。ところが、日本に帰ってきたら、みんな大変だ、大変だと言っていました。ここが違うなと感じました。
 それから私はおそらくアメリカはこれから強烈にITを打ち出してくると思う。ITのバブルが弾けて、それからアメリカは金融にいって金融のバブルが弾けた。バブルが弾けて、アメリカがダメだと言われるが私はダメとは思わない。アメリカが新しい時代に打ち出すのは必ずニューテクノロジーです。例えば1929年に世界大恐慌からアメリカが立ち直ったのは、フォードの「T型フォード」でした。まさに車が大衆車になった新しいテクノロジーですよ。ですからアメリカは復興に向けて必ず新しいテクノロジーを打ち上げてきます。その中心になるのが私はITだと思います。


中小企業が進むべき 方向とは?  BP:国内の企業の大半が中小企業ですが、この不況脱出に当たって今の企業全体に不足していることはどんなことでしょうか。
 田原氏:
日本の大企業で有名な企業はほとんど組み立て屋さんです。自動車にしても電機にしてもそうです。これは、今世界の流れと逆とまで言いませんが、ちょっと流れから外れているのではないでしょうか。
 例えば液晶です。日本は液晶だけをとことん追求すればいいのにテレビまで作ってしまう。これによって他のテレビメーカーが全部ライバルになってしまった。もし液晶という部品に徹していれば日本のマーケットを独占できたでしょうし、世界のマーケットも攻められたでしょう。
 どうも日本は組み立て会社が親会社で、中心であり、部品がその周辺メーカーだという感覚があって、私はここが違うと思う。部品がなかったら組み立てなんてできないんだから、そこの価値観をこれから変えていかないと日本は世界の流れと共存できないという気がします。

 BP:アメリカのオバマ大統領が推進するクリーンエネルギーでも太陽電池やスチールに部品供給としての日本のチャンスは大きいようですね。
 田原氏:太陽電池もスチールも日本が強い分野ですからね。部品はある意味これから非常に活躍することになります。
 もう一つの大きな認識の転換は、これまで日本の企業は付加価値が高いものを作ろうと一生懸命取り組んできました。簡単に作れるものなら中国や韓国やあるいはアジアの国々が作ってしまう、だから日本はそういう国に追いつかれないために、付加価値の高いものを作ろうとしてきました。ところが、この認識を転換しなくちゃいけない。
 今世界の中で、車やテレビやさまざまな商品をたくさん消費するのは新興国です。特にアジアの国々や南米です。新興国は日本でいえば50年代の末から60年代の初めなんです。日本でその頃ならば、買える車は小型です。トヨタで言えばカローラクラスですよ。いまインドで20万円台の車が大売れに売れているという話もあります。だから、いわゆるボリュームゾーンが大きく変わっているのです。
 いかに安いものを作るのか。日本は安いものなら中国や韓国やインドに負けるんじゃないかと心配しますね。だけど質が高いのに価格も安ければ売れますよね。これからは、そういうちょっと難しいニーズに応じなければならない。これには今日本の企業が規模の大小を問わず、どこも非常に頭をいためている。でも逆にそこが新しいチャンスになります。


アジアの内需で 活性化を図る  BP:日本の将来についてお聞きします。これから少子高齢化が進み、経済も落ち込むと心配する声が多いようですが。
 田原氏:
日本はこれから少子化で人口減少社会になります。人口減少社会になると、経済は振るわなくなります。マーケットが小さくなるわけですから。じゃあ日本の将来は暗いのかというと、私は暗くないと思っています。
 誤解を恐れずに言えば、これからは国内の内需を日本の内需と考えるのではなく、アジアの内需を日本の内需と考えるべきだと思う。
 これまでの世界経済はアメリカの一極集中で進んできました。特に冷戦が終わってからはアメリカの一極でした。ところが2008年の金融破綻、大不況が起きました。そんな中でもアメリカは強いとは思いますが、一極という形からじわじわと多極になっていくだろうと。それを予測していたように、ヨーロッパはユーロという通貨を作っていた。つまり、ヨーロッパはドルに対抗できる二極目を作ろうとしています。では世界は二極になるのかというと、私はさらに増えて第三極が出て来ると思っています。第三極は何かというとアジアです。私は10年以内にアジアが世界の中心的マーケットになると思います。人口も圧倒的に多いですし。そのために、日本はアジアの国々との関係を深めて、アジアのために尽くしていくという形をとらなければならない。
 私は日本の将来の内需は、アジアの内需と考えるべきだと思っているのです。そうすれば夢や希望はいくらでも広がっていくと私はそう考えています。


パワーポリティックスから ワードポリティックスへ
 BP:大塚商会の今年のスローガンは「ITでオフィスを元気にし、お客様の信頼に応える」です。ITに関して田原さんはどうお考えですか?
 田原氏:
ITの時代は80年代から始まりました。80年代の初めにパソコンが登場し、オフィス革命を起こしました。パソコンの発達によって、具体的には87、88年頃からアメリカが、コンピュータと通信の「スーパーハイウェイ構想」をクリントン内閣で打ち出しましたね。だから80年代初頭から始まって80年代後半になってIT時代がドーンと来る。90年代はまさにIT時代でした。90年の終わりにインテルの業績が非常に悪くなり、株価が落ちて日本でもアメリカでもITバブルが弾けた。そこからアメリカは金融屋になっていく。そういう歴史がありますから、私にとってITというと古い、というイメージがありましたが、これからは80年代のITとは異なる21世紀のITとはこれなんだというビジョンを打ち出す必要があると思います。
 いまはワードの時代だと言われている。「ワードポリティックス」という言葉もあります。例えば「パワーポリティックス(権力政治)」に対して、「ワードポリティックス」と。つまり“言葉”なんですよ。国民をあるいは消費者をうならせる言葉、これが時代を作っていく。21世紀のIT。大塚商会にとってこのネーミング作りが大事だと思う。そこが勝負だと思っています。期待しています。

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田原 総一朗
Souichirou Tahara

◎ P r o f i l e
1934年、滋賀県出身。60年、岩波映画製作 所入社、64年、テレビ東京(当時は東京12チ ャンネル)に開局とともに入社。77年に独立し、 87年から「朝まで生テレビ!」、89年から「サンデ ープロジェクト」のキャスターを務める。新しいス タイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたと して、98年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸 賞)を受賞。現在、早稲田大学特命教授として 大学院で講義をするほか、次世代のリーダーを 育てる「大隈塾」塾頭も務める。



 
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