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にっぽんの元気人
2010年7月時点の情報を掲載しています。

地球規模で貧しい人たちに安く、おいしいものを提供したい
かつて高級料理とみなされた本格イタリアンを、「気軽な価格で毎日楽しんで食べてもらいたい」との思いから1967年に誕生したサイゼリヤ。いまでは国内820店舗・海外60店舗を誇る人気外食チェーンに成長。“外食不況”の逆風下でも快進撃を続けている。その強さの秘密は、正垣泰彦 代表取締役会長の数値分析に基づく科学的な経営と、「おいしさ」と「安さ」を兼ね備えたメニューへのこだわりにあった。「食を通じて社会貢献をしたい」という正垣氏の経営哲学に迫った。



サイゼリヤの辞書に「売上」はない
BP:景気低迷とともに消費者の外食離れが進み、外食企業同士の激しい値下げ合戦が繰り広げられる中、サイゼリヤは2009年8月期業績が22.2%営業増益と好調です。その理由は何でしょうか?
正垣 泰彦氏(以下、正垣氏):サイゼリヤは1967年の創業以来、「高いものはいいもの」という風潮に疑問を抱き、「本当に値打ちのあるものとは、安くてうまいもの」であると信じて商品を提供してきました。利益を出すためには、売り上げを伸ばすだけでなく、作業システムや組織などの無駄を見直して、経費を下げなければいけません。
 もともとサイゼリヤの辞書に、「売上」という言葉はありません。メニューに値打ちがあると感じれば、お客様は自然とその店に足を向けてくれます。だから売上なんて考えず、自分たちの無駄をできるだけなくして、その分、お客様に値打ちのある商品を提供する。これが創業以来、40年間ずっと変わらないスタンスなんです。
 利益を確保するためには、いかに自分たちの無駄をなくすかということが大切。売上は水ものですが、利益は自分たちでコントロールできるわけですからね。そうした努力の結果として、2ケタ営業増益が実現しているのだと思います。
 宣伝部も置かないし、そもそも宣伝なんてしたことがない。逆に宣伝をすると大変になっちゃう。スタッフは疲れるし、混雑によって「標準の作業」ができなくなり、無駄だらけになる。せっかく無駄を出さないオペレーションを確立してきたのに、それが台無しになってしまう。
 そこで、お客様が増えるたびに店舗の数を増やして分散する戦略を取ってきました。店の数が増えていくのはいいけれど、1店当たりの売上高は一定でなければいけないというのが、わたしたちの考え方。不景気とともにお客様の数が増えていますので、どんどん出店して、1店当たり売上高が上がりすぎないようにしていかなければならないと思っています。


「おいしい」という感覚も数値に置き換えられる
BP:無駄やコストの削減には、具体的にどう取り組んでいるでしょうか?
正垣氏:ひとつは、生産性の向上。一般に外食業界は、1人1時間当たり粗利益がほかの産業の約2分の1と低すぎます。これでは、ほかの産業の半分の給料しか出せない。働いている人たちが不幸になってしまいます。そこで思い付いたのが、店の仕事量を半分以下にすることでした。これなら生産性は、ほかの産業と同じになるはずです。
 そこで、店の調理作業を半分にして、残りの作業はカミッサリー(工場)で吸収することにしました。1カ所でまとめて処理したほうが、数量や品質などのばらつきも防げますからね。

BP:サイゼリヤの店舗には、包丁がないという話を聞いたことがあります。
正垣氏:あっても手を切るだけですからね(笑)。飛行機のファーストクラスだって、鍋も包丁もないけれど、一流ホテル並みの料理が出てくる。包丁がないから手抜きというわけではありません。
 「料理は心を込めてつくらないとおいしくない」と思われがちですが、「おいしい」と「心を込める」の定義をきちんと説明できる人はほとんどいません。思い込みや常識というのは、あやふやなものなのです。そこで、「おいしい」とは何か、「心を込める」とは何かを客観的な数値に置き換えてみたところ、答えは簡単でした。「お客様の数」という数値が増えることが「おいしい」だったのです。
 一見、感覚でしか捉えられないような現象も、すべては法則のもとに成り立っています。ひとつずつ数値化して検証すれば、答えは明確に見えてくるものなのです。


自分たちに適した食材は自分の手でつくるしかない
BP:無駄を省き、「おいしい」を追求する取り組みの一環として、食材の仕入方法を見直されたそうですね。
正垣氏:従来、食材は商社や問屋から仕入れるのが外食業界の常識でした。自分たちで世界中の産地から仕入れるのは大変ですからね。でもこの仕組みでは、いくら頑張っても利益が出ない。
 そこで、全部の食材は無理にしても、少なくとも自分たちの得意な商品は、生産から商社、問屋、運送業までを自分たちでやろうと考えたんです。実現すれば、従業員にもっと楽をさせて、給料ももっと払えるんじゃないかと。
 2000年以降、日本とオーストラリアに食材工場をつくりました。四季が異なる北半球と南半球に工場があれば、「おいしい」と思ってもらえる商品が365日いつでも供給できますからね。
 その結果、今まで他社から仕入れてきた食材は、自分たちがお客様に提供するのに全然適していなかったということがわかりました。商社などから供給を受けていた食材は、大きさも見た目も、スーパーが家庭向けに売りやすい食材ばかりだったんです。サイゼリヤに適した食材を手に入れるには、自分たちでつくるしかない。そう考えて、お客様がいちばんおいしいと思うものを、種や肥料、牧草も含めて、全部最初からつくることにしました。「外食業」から「製造直販業」へと転換を図ったのです。
 新しい物流インフラをつくり、流通の仕組みも変えました。今後も固定概念に縛られることなく、画期的な挑戦に取り組んでいきたいと思っています。
 例えばレタスなども、普通の小さな丸玉じゃなく、1メートル四方の四角のものをつくったほうが運びやすい。常識外れと思われるかもしれませんが、決して不可能ではありません。
 今、アブダビの砂漠で野菜を栽培するプロジェクトにも取り組んでいます。少ない水でも大量の野菜が栽培できる技術を開発するためです。世界中の誰もが、安く、おいしいものが食べられるというのが会社の目標であり、わたしたちの考える社会貢献です。
 もちろん、サイゼリヤ1社だけの力では限界がありますから、このやり方を業界全体に広め、フードサービスの産業化を図るとともに、社会貢献の輪を大きく広げていきたいですね。

BP:本誌読者であるIT業界の方々が社会貢献に取り組むとすれば、どのような方法が考えられるでしょうか。
正垣氏:
そもそもビジネスとは、世の中の役に立つためにやることだと考えています。役に立った結果として、お客様が増えることもあるかもしれませんが、それはあくまで二の次です。
 サイゼリヤは、「人のために、正しく、仲良く」という企業理念を掲げています。これはあらゆる業界に通用する普遍的な社会貢献の理念かもしれません。
 問題は、理念をどこまで実践できるかという徹底度です。どんなに「人のために、正しく、仲良く」と思っても、徹底度は0.1%ぐらいで、残り99.9%は「自分のため」になってしまっている人もいます。そんな人でも「自分は徹底している」と思うはずです。
 わたし自身も含めてですが、60%以上徹底することは人間として不可能じゃないかと思う。「人のため」とは言っても、40%は「自分のため」になっちゃう。その徹底度を少しずつでも上げていくことが会社としての目的だと思っているんです。これはあくまで目的であって、その先にあるわたしたちの目標は、地球規模で誰にでも安くて、おいしいものを食べてもらいたいということです。


今の時代の値打ちは価格と品質と便利さ
BP:サイゼリヤでは、生産性向上や業務合理化のために、ITをどのように活用しておられるのでしょうか。
正垣氏:
特に活用しているのは人事評価です。従業員1人ひとりの「評価」と
「作業」、「報酬」、「教育」に関する数値は四位一体でなければなりません。従業員が実際に行っている「作業」の情報を数値化して、それが他の3つの数値とつねに一緒になるように標準化を図るためにITを活用しています。
 「評価」、「作業」、「報酬」、「教育」の4つがイコールで示されれば、従業員は自分に何が足りないのかがわかります。何を身に付ければ上に上がることができて、報酬も増えるのかを明確に把握することができるわけです。
 サイゼリヤの店が100店舗まで増えたころ、店に行かなくても、そこの料理長は何が得意で、何が下手なのかを知ることができるようにするために、この人事評価システムを構築しました。
 会社の経営についても、すべて数値をもとに分析しています。世の中の変化に対応していくために、客数や商品の出方、設備、投資効率などを数値化して、変化のさまを浮き彫りにしたい。そのためにITを活用しています。数値に基づいて新しい仮説を立て、プランを実行、検証し、改善するという、いわゆるPDCAサイクルに基づいた経営には、ITの活用が不可欠です。
 POSレジなどから仮説に必要なデータを自由に取り出し、加工できる。ITによって、それまで見えなかった部分がどんどん数値化されて、経営の精度が上がってきました。

BP:最後に、I T不況の中で活路を模索している本誌読者の方々にメッセージをお願いします。
正垣氏:
お客様に喜んでいただいて、また来てもらえるようにするためには、値打ちを提供することが大事です。
 今の時代の値打ちというのは、価格と品質と便利さだと思います。どんなに商品やサービスがよくても、便利さがなければ売れません。
 まずは、お問い合わせやご相談があれば、いつでもお客様のところに行ける、あるいはいつでも気軽に来ていただけるような便利さを工夫してみてはどうでしょうか。

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正垣 泰彦 氏
Y a s u h i k o S h o u g a k i

◎ P r o f i l e
1946年兵庫県出身。株式会社サイゼリヤ 代表取締役会長。東京理科大学在学中に千葉県にてサイゼリヤの前身となる喫茶店を譲り受ける。1973年、低価格路線のイタリア料理専門店として法人化。チェーン展開を開始し、2000年に東証1部上場。2010年6月現在、国内820店舗・海外60店舗を擁する。


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【にっぽんの元気人】

・株式会社ペリエ 和田 裕美 氏 【Vol.50】

・経済評論家 勝間 和代氏 【Vol.49】

・株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵氏 【Vol.47】

・ワタミ株式会社
代表取締役会長・CEO 渡邉 美樹 氏 【Vol.46】




 
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