経済評論家としての活動のかたわら、独自のマーケティングで「効率が10倍アップする新・知的生産術」「勝間和代のビジネス頭を作る7つのフレームワーク力」などビジネス書分野で次々にベストセラーを生み出している勝間和代氏。常に最新のITを使いこなしていることでも知られてる。生産性の高いビジネス力を生み出すコツは、常に目的を意識する「考 え方」にあるという。“勝間流”で不況下でも成長を続ける秘訣を聞いた。
BP:勝間さんがプロデュースした手帳が好評だそうですが、一般の手帳とどんな点が違うのでしょうか。
勝間 和代氏(以下、勝間氏):正月や年度初めに手帳を購入しても、三日坊主で終わったり、3カ月くらいで使用頻度が落ちて使わなくなってしまう人が多いようです。ではどうしたら使い続けることができるのか、という発想で「勝間和代の人生戦略手帳」をプロデュースしました。「仲間と一緒に使ってみれば続くのではないか」との考えで、ユーザの1人目の仲間は私としています。この手帳は、専用のリフィルとカバーを購入して、月額制の登録メンバーになると、毎朝6時に私からのサポートメールが届きます。週明けなら「週間予定は作りましたか?」、月末なら「リフィルは入れ替えましたか」など、その時々に合わせた内容で、飽きずに続けられる工夫をしています。時には宿題も出します。また、毎週金曜の夜にはWe bサービスのツイッターを利用して、ユーザ同士が文房具や手帳の書き方の工夫などについて情報交換を行う機会も設けています。こういったコミュニケーションにより工夫の蓄積や、手帳を使い続けるための張り合いとなる仲間も増えます。
手帳を使いこなすということは、計画をする習慣を身につけ、時間を有効に使うことにつながります。また、実際に手帳に書き出すことで、漠然とした夢のようなものを、具体的な目標として捉えることもできます。例えば、資格試験を受けたいという願望から、勉強時間を作るというような変化が期待できます。
BP:ユーザにはどのような方がいらっしゃいますか。また、手帳はどのように使うと効果がありますか。
勝間氏:20代から40代の方が多く、男女比は半々ぐらいです。私の本の読者は女性が多いように思われていますが、実は男性も多いです。手帳の登録メンバーについては、自分自身でしっかりとした目標をもっている方よりも、何か迷いがある人、グレーゾーンにいる方が、何かのきっかけにしたいと使い始めているようです。
最近、朝のメールで「自分の失敗を振り返る」という課題を出しました。失敗を振り返り、何故その失敗は起きたのか、行動を変える必要があるのか、書き出してみて分かることがあるはずです。
手帳をスケジューラと考える人も多いようですが、スケジュール管理にはP Cの方が便利です。私は、手帳は「日付の入ったメモ」だと考えています。その日、気付いたこと、これからしたいこと、会った人について、読んでみたい本、しなければいけないこと、してはいけないこと等、書き出しながら頭の中を整理します。「人生戦略手帳」のリフィルは、その日はどんな日なのかを書く欄や、ミッションステートメントを書く欄などにもこだわりを持って作りました。手帳を通じて自分との対話を行うことは、常に目標を持って行動するという考え方のトレーニングになります。スケジュールを書き写すだけなら、iPhoneを手帳に挟んでおいても十分ですよ。
BP:iPhoneはよく使われるのですか。
勝間氏:ツイッターをやるようになって、周囲から「iPhoneにした方が良い」とすすめる声の大合唱が起きて、使うようになりました。ツイッターの他にも、Gメールを見たり、写真を撮ったりといろいろ使っています。
BP:ツイッターを始めたきっかけは?
勝間氏:前から登録はしていたのですが、昨年の7月ごろ米国に行ったときに、流行しているのを目の当たりにして。日本ではまだブレイクしていないけれど、これはやった方が良いと思って、“つぶやき”を開始しました。自分のブログとツイッターをリンクするようになって、フォロワーが増えてきました。
私は、1997年ごろからニフティサーブのフォーラムを利用してパソコンで情報収集を行っており、ツールが変わっただけでツイッターも本質的には変わりません。ツイッターは情報収集と整理に最適で、無料のフォーカス・グループ・インタビュー(マーケティング・リサーチ時に行う顧客グループインタビュー)のようなものだと感じています。
今朝も「脚立が欲しい」とつぶやいたら、脚立についてのいろいろな情報が集まり、おかげさまでいいものが見つかりました。私は、新しいものを購入したり、取り入れたりするときには、必ずリスクと費用対効果を考えるのですが、ツイッターはこういう点でも役に立ちますね。
BP:ツイッターをビジネスに生かすとしたら、どのような活用法があるでしょうか。
勝間氏:営業担当なら、扱っている商品のユーザや、商品に関係する技術者をフォローしてみるということが考えられます。しかし、ただ使えば良いというものではありません。大切なのは、何のためにツイッターを使うのか、ツイッターで何を得たいのかという目的をはっきりと意識することです。
“つぶやき”にも上手なものとそうでないものがあると考えています。140文字しか投稿できないツイッターでは、自分が今、何をしているかを短文で表すために「○○なう」(なう=Now:今○○中)という表現をよく使うのですが、「ご飯なう」だけでは、自分に閉じているだけの情報です。確かに、自分がいつ何をしたかを記録しておくのも悪くはないですが、それなら非公開にしておくべきで、情報を発信する以上、そこには読み手がいることを意識した方が良いです。私も、自分の著作や講演では「読み手の立場に立つ」ことを意識しています。
例えば、先ほどの「ご飯なう」の後に、店やレシピに関する情報をつけることで読み手に役立つものになります。ビジネスで使う場合には「ツイッターを使うことで顧客を何%増やす」とか、いま勉強している内容についての情報を探すとか、“つぶやき”にも目的が必要です。
BP:では、個人ではなく、企業が新しいITシステムを導入しようとする時に、必要なことはどんなことでしょうか。
勝間氏:ITコンサルタントとしての経験から言うと、特に中小企業の場合、I Tに期待することは「売上が上がるか」「コストが下がるか」の2点だけです。最初から高度なシステムを導入するのではなく、まずはメール、ファイルの共有など簡単なところから始めてみたらどうでしょうか。ペーパーレス化を推進するには、PDFの使い方を見直してみるとか。
営業の分野を見直すなら、営業日報の公開と、名刺のデータの共有だけで、かなりの問題が解決できます。新しいシステムを入れて、一生懸命入力しても、全社員にオープンにされなければ意味がありません。もちろん、I Tの進歩で、情報の共有が簡単にできるようになったという側面はありますが、使うのはあくまでも人間ですから。
最新のハードウェアや、複雑なシステムを導入する前に、何のためにITを使うのかということを考えなければいけません。費用対効果、リスクを検討するのはもちろんですが、結局は「目的」なんです。
また、企業が成長するためには、努力して成績を上げた社員を正当に評価するシステムも不可欠です。既存の顧客からの100万円と、新規顧客の10万円についてどう評価するか。個々の時間の管理などについてもバランスを見るべきです。社員が自分を磨きたくなるような報酬体系が必要ですね。
BP:不況が長引いています。厳しい経済状況下で伸びるのはどんな企業でしょうか。
勝間氏:中小企業の場合、下請けでなければ、不況の方が受注しやすいんですよ。各企業がコストを見直すために発注先を見直しますから、新規の開拓がしやすいのです。市場全体の影響を受けるような大企業は不況の影響を直に受けますが、優秀な製品を作っている中小企業は伸びるチャンスといえます。新しい付加価値を生み出せる企業には、不況は関係ありません。一方で、どんなに良いものを作っていても、これまで下請け中心で、特に新規顧客開拓の必要がなかったところはより厳しい状況になっています。
私は、日本企業は作る力はあるのですが、それに加えてもっと売る方に力を傾けるべきだとよく話しています。ここで重要なのが営業力です。日本の中小企業のレベルを考えると、良いものを作ることができて当たり前というところがあります。お客様が何を欲しがっているか、何のためにその商品を作っているのか、その商品は何のために役立つのか。基本の考え方はどんなことでも同じです。「何のためか」、特にエンドユーザの「何に役立つのか」という目的を常に意識することが顧客志向なんです。
目的がはっきりしたら、自分たちの技術力や商品について、ITを使って発信するのもいいかもしれません。
BP:情報発信には、それこそツイッターも有効ですか?
勝間氏:ツイッターはまだユーザも少ないですが、ダイレクトに反応があるので、アンテナショップのように使うと良いでしょう。そこで良い反応があれば、大規模な展開へと進むことができます。
大切なのは、商品についてトータルな印象を形作っていくことです。お腹がすいている人なら、どんなものでもおいしく食べられます。しかし、今の顧客は、舌が肥えて美味しいものしか欲しくない人のような状態です。たとえ、味が良くても見栄えが悪くては食べてもらえないかもしれません。“おいしいよ”とアピールする方法も大切です。そのためには、例えば受注用サイトに力を入れるのもおすすめです。
BP:個人や企業は目的意識をしっかり持てば不況に立ち向かうことができますね。それでは、日本全体の経済状況の展望はどうでしょうか。
勝間氏:国全体のレベルでも不況を克服するためにやるべきことは、民間と同じです。必要なところに投資し、不必要なところにお金を使わない。それだけです。行政機関でも経済効果の予測が行われてきましたが、民間のものと比べると精度が低いと言わざるを得ません。しかし最近、一般国民の意識の高まりもあって、行政にもPDCAサイクルの考え方が取り入れられるようになってきたように感じます。
今後、行政にも民間のような厳しさが身について、「目的」が明確な経済政策が実施されるようになったときこそ、本質的に経済が復活するのではないでしょうか。
私自身は、まずは金融政策としてインフレターゲットを実施して、デフレ克服を第一にしてもらいたいと考えています。
BP:最後に、読者に対して不況を生き抜くためのメッセージをお願いします。
勝間氏:お金を生み出すところに投資してください。会社の中で、成長の可能性を持ったところは何かを、正確に把握することが大切です。不況は見方を変えれば、流動性が高まっている時といえます。アタッカーが勝てる時代です。
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