2011年冬以降、P Cメーカー各社が注力しているのが、U l t r a b o o kと呼ばれる薄型軽量ノートP Cだ。Ultrabookのコンセプトはインテルが提唱したものであり、2011年6月に台湾で開催されたCOMPUTEXの基調講演において、初めてその構想が明かされた。その講演の中で、インテルの主席副社長ショーン・マローニ氏は、UltrabookとはノートPCを再定義するものだとし、具体的には、「非常に薄い」「長時間のバッテリー駆動」「高速なレスポンス」「高いセキュリティ」「高次元のビジュアル体験」という要素を満たすものだと語った。さらに同氏は、「Ultrabookは既存のノートPCを置き換えていき、2012年末にはコンシューマ市場の40%がUltrabookになる」と述べた。筆者は、そこまで急速にUltrabookの普及が進むとは考えていないが、第1世代Ultrabookは、2011年末から2012年初冬にかけて各社から出揃い、コンシューマ向けモバイル市場ではすでに一定の地位を占めている。第1世代Ultrabookは、13.3インチ液晶と128GB SSDを搭載し、厚さは21mm以下、重量は1.5kg程度の製品が主流である。実売価格は8万〜14万円程度と、従来のモバイルノートに比べて、より手頃な価格を実現しているもことも魅力だ。
しかし、現在の第1世代Ultrabookは、Ultrabook構想の第一歩に過ぎない。Ultrabookは、ホップ・ステップ・ジャンプの3段階で進化していく予定であり、今年夏にはステップにあたる第2世代Ultrabookが登場する。現在の第1世代Ultrabookは、CPUとして第2世代Core iシリーズを搭載しているが、第2世代Ultrabookでは、22nmプロセスルールで製造される第3世代Core iシリーズが搭載される。第3世代Core iシリーズは、コードネームIvy Bridgeと呼ばれるCPUであり、内蔵GPUの性能が大きく向上する。第2世代Ultarbookでは、さらに筐体が薄くなり、速度も高速になるほか、セキュリティ機能が強化される。また、より解像度の高い液晶を搭載した製品や、Windows 8の登場を見据えタッチパネルを搭載した製品も登場しそうだ。2012年1月に開催されたCESでは、数社が第2世代Ultrabookの試作機を展示していたが、その中でも注目すべき製品が、レノボの「ThinkPad T430u」だ。レノボはすでに第1世代Ultrabook「IdeaPad U300s」を販売しているが、IdeaPad U300sがコンシューマ向けブランドであるIdeaPadを冠しているのに対し、ThinkPad T430uは、ビジネス向けプレミアムノートブランドであるThinkPadを冠している。その名前からわかるように、Think P a dT430uは同社初のビジネス向けUltrabookであり、14インチ液晶を搭載するほか、NVIDIA製GPUも搭載可能だ。発売は2012年後半とされており、CPUはもちろん第3世代Core iシリーズとなる。第2世代Ultrabookではセキュリティ機能も強化されるため、ビジネス向けモバイル市場でも、本格的に普及が始まることが予想される。当初のインテルの構想では、Ultrabookの価格は999ドル以下をターゲットとするとされていたが、実際はそれより高い製品が多い。インテルは2011年8月に、3億ドルのUltrabook基金を創設し、Ultrabook向けにより小さく薄い部品を作り、広く業界に提供しようと考えているパーツベンダーなどに資金を提供している。こうした試みにより、Ultrabookの価格が今後下がることが期待される。インテルは、今後もUltrabookを強く推進していくことを表明しており、Centrino以来の大規模なマーケティング活動を行っていく。今年後半から来年にかけて、Ultrabookがビジネス向けモバイル市場の黒船となり、モバイル市場を変革していく可能性は高い。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。