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にっぽんの元気人
2013年7月時点の情報を掲載しています。

なぜP&Gは「社員能力No.1企業」になることが できたのか?
パンパース、アリエール、SK-Uなど数多くのブランドを展開し、日用品の世界最大手として知られるP&G。強さの源泉はビジネス誌『フォーチュン』から「社員能力No.1企業」(2008年)に選ばれるほど優れた1人ひとりの社員の力にある。その圧倒的な社員能力の秘密を最新刊『1年で成果を出す P&G式10の習慣』で紹介したのが、株式会社DELICE 代表取締役社長でブランド価値プロデューサーの杉浦里多氏。P&G社員時代に学んだ、新入社員でも1年で成果が出せるようになる自己研鑽法や、マーケティングを成功させるためのヒントについて聞いた。


シンプルな習慣を共有すれば社員全員が一定の成果を出せる
BP:杉浦さんはP&Gに転職した当初、日本の会社とは違う考え方や仕事の進め方に驚かれたそうですね。

杉浦里多氏(以下、杉浦氏):
よく「入社15分後の衝撃」ということでお話をさせていただいています(笑)。入社初日というのに、誰も受付まで迎えに来てくれないし、オフィスに行っても誰も声を掛けてくれない。そこでまずカルチャーショックを覚えました。それで、やっと見つけた顔見知りの人に、「すみません、ちょっとおうかがいしてもよろしいですか?」と丁寧に声を掛けたところ、振り返りざまに「話の目的は何ですか? 何分必要ですか?」と言われたことに本当に驚いてしまいました。「話の目的って、“ちょっとおうかがいしたい”というのは目的ではないのだろうか?」とか、「何分って、“ちょっと”と言えば2〜3分ぐらいでしょう?」と思ってしまいました。
 その日のうちに、早速ミーティングが何本も入っていたのですが、どの会議も必ず、「会議の目的は○○、時間は○分間。こういう順番で、これを決めます」というように始まりました。
 会議時間は長くて1時間程度ですが、その1時間で確実に物事が決まっていきます。途中で脇道に脱線することもなく、ものすごく生産的な話し合いが1時間の中で行われる。会議で発言する人々の様子を見て、次に思ったのは金太郎飴でした。みんな同じような言葉を使って、同じような思考で物事を進めている。素直に「すごいな」と思いましたし、それでどんどん結果が出ていくことを目の当たりにしました。
 金太郎飴というのはネガティブな表現かもしれませんが、言い換えれば、「考え方」や「行動」の標準化、習慣化ができているのですね。
 誰にでもできるシンプルな習慣があって、それをみんなでやっていくと、全員がある一定以上の成果を出せるようになるのだと気づかされました。

BP:そうした習慣は、いかにしてP&Gに根付いていったのでしょうか?

杉浦氏:
P&Gのマネジメントには、2つの重要な課題が与えられています。一つはビジネスの成果を出すこと、もう一つは組織の成長を促すこと。この2つがマネジメントに対する重要な評価項目でもあるのです。2つに取り組むための能力として期待されるのは、戦略性とリーダーシップです。そのリーダーシップの要件の一つに、個々の優れた考え方や成功体験などを「システム化していく」というものがあります。P&Gの175年に及ぶ長い歴史の中で、管理職になったら、まずは“そこを考えろ”ということが徹底されてきたわけです。
 システム化は、そこで働く人たちが仕事の成果を出しやすくするためのもの、そしてチームの成果を最大化するためのものですね。
 そうして磨き抜かれた型を、わたしなりに集約したのが、この本で紹介した10の習慣です。


会議は自己マネジメント力を磨くうえで絶好の場
BP:同じような習慣化の取り組みは、日本の企業も実践できるでしょうか?

杉浦氏:
個人のマネジメント力を上げるための習慣づけなどは、すぐにでも実践できるはずです。
 日本の会社は「社員のマネジメント力を上げる」という発想が希薄なのかもしれません。マネジメントは管理職がやる、管理職になってからやると思っているようですが、新入社員からマネジメントは行うべきです。ちなみに、マネジメント力とは運営力です。自身の成果を出すために、目的を明確にし、そのために何に集中して行うべきか、ということを時間管理と共にしっかりやるだけで、パフォーマンスがぐんとあがると思います。それができればチームのマネジメントにも応用できます。
 それが、年次が上がるにつれてチームや組織のマネジメントになるだけで、まずは新入社員のときから自己マネジメントを学ぶべきだと思います。
 自己マネジメント力を磨いても、その力をいきなりプロジェクトチームのマネジメントに応用するのは難しいと思いますが、効果的にチームマネジメントに応用する方法は、会議の活用です。例えば会議の出席者全員に明確な目的を共有させて、1時間の会議で確実に成果を出させるといった訓練を積んでいくと、チームマネジメント力は少しずつ身に付いていきます。
 会議をマネジメントしていくうえで大切なことは、目的意識の徹底、進行時間の管理、重要課題、議論の優先順位、決裁者のニーズ・・・。
 参加者ごとや部署ごとの思惑もあるので、それをまとめるには、顧客志向の視点で、戦略的に物事を考えなければならないと思います。
 「会社の目的を達成するために」参加者全員が会議で合意されたことにコミットメント高く取り組むこと、つまり会議後のアクションが本当の目的なので、参加者の意識をそろえることも重要になってきます。そうしたさまざまな要素を管理できるという意味で、会議はマネジメント力を身に付けるのに絶好の機会ですよね。
 また、会議の良い所は、上手い会議のマネジメント法を他の参加者が「型」としてマネ&実践しやすいので、伝播も速くなり、組織全体の力をアップさせることにも結び付きます。

BP:杉浦さんは企業に対してコンサルティングや研修を行っておられますが、研修では具体的にどのようなことを指導なさっているのですか?

杉浦氏:
とくに顧客志向に関する研修を多くやらせていただいています。研修によって実際にビジネスの成果が表れたというお客さまもいらっしゃいます。例えば、それまでまったく未経験だった新規事業を立ち上げて、半年で商品化し大手百貨店に商品を置いた企業もあります。
 古い体質の会社だと、トップの意見がとても強くて、部下があまり声を上げないような文化があったり、考えても無駄だと社員が諦めたりしているようなケースも多いですよね。
 そんな会社の一つで、若手社員向けに「新しい商品を考えてみよう」というマーケティング研修をやってみたことがあります。
 あるときその会社が、これまで手掛けたことがない、まったく新しい商品を出すことになったのですが、上層部の方々には経験もノウハウもありませんでした。
 そこで、研修に出てくださった若手の方々が、習ったとおりにすべてのマーケティング計画を立て、関係する上層部の方々に一斉に提案したというのです。その会社では、部下が上司に積極的に提案するといったことは過去になかったようで、副社長さんが涙ながらに喜んでくださいました。
 『1年で成果を出す P&G式10の習慣』には、顧客志向の発想やコミュニケーション力を高めるための実例もいろいろと書いていますが、いちばん伝えたかったのは「考え方」のフレームづくりをすることです。なぜなら、考え方のフレームやプロセスが分かれば、その考え方に沿って何をすればいいのかという行動が自分で考えられるようになるからです。実例を学ぶだけでは応用できません。
 この会社の若手の方たちは、わたしの研修を通じて、「顧客志向の商品づくりというものは、こういう“考え方”でやっていけばいいんだ」ということを知ったのだと思います。考え方のプロセスを知ったので、ゼロベースから計画を全部つくれたわけです。
 一度そういう「考え方」を知るだけでも、若手はちゃんと主体的に動けるようになるのだということを上層部の方々にも知っていただきたいですね。


「必要か」「好きか」「欲しいか」を知るのがマーケティングの基本
BP:『1年で成果を出す P&G式10の習慣』では、顧客志向はお客さま向けだけでなく、社内向けにも大切だと書かれています。

杉浦氏:
『P&G式10の習慣』で、「考え方」として特に伝えたかったのは、「目的」を持つことの大切さと「顧客志向」の2つです。
 顧客志向とはマーケティング思考ですけど、マーケティング思考とは「相手にどうやって買ってもらうか?」ということです。お客さまに商品を売るだけでなく、上司にアイデアをOKしてもらうことだって、買ってもらうのと同じことなのです。
 誰かと仕事をしたり、お付き合いをしたりするときも、同じように顧客志向で接すれば、必ず結果は出るものです。メモを書くにしても、話すにしても、読み手や聞き手のことを分析しながら言葉を選ぶこと。プレゼンテーションをするのであれば、受け手に素晴らしいと感じてもらうためには、その人を知らなければいけません。
 「顧客を知る」というのは何かと言えば、購買の基本的な動機はたった3つ。
「必要か」「好きか」「欲しいか」だけです。相手は自分が売るものに対してどのように感じるのかを考えることが、モノを売るだけでなく、自分自身やアイデアを売るうえでも重要です。

BP:「目的」を持って行動することについてのアドバイスをお願いします。

杉浦氏:
まずは、行動をする前に一つひとつ「目的は?」と自問自答してください。目的とは「得たい結果」です。「その結果を得るために何をすればいいのだろう?」と逆算して、本当に必要なことを優先してやる、癖をつけてください。
 そして、結果を目的達成できたかどうか、で終わるのではなく、必ず“成果”を分析することです。この部分が日本の会社にはあまりできていないことなのですが、結果だけを分析するのではなくて、そこにたどり着くまでに何をして、どのような結果が表れたのかというように、ステップごとに分解して分析してほしい。そうすると、仮に結果が出せなかったとしても、どのステップでつまずきがあったのかということが見えてくるわけです。
 課題部分の改善を行ったり、良い部分を強化することで、次回の成果につながる確度が高くなります。分析なしに全体評価だけで良し悪しを判断してしまうと、いつまでも勝ちパターンが見えてきません。 P&Gが成功している理由は、基本的には失敗しないこと、そして細かな分析によって、失敗の確度を下げていることではないかと思います。

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杉浦 里多 氏
Rita Sugiura

◎ P r o f i l e
LVMH(モエヘネシールイヴィトン)グループなどで宣伝広報マネージャーを務めた後、P&Gジャパンに入社。マーケティング部でSK-U、パンパース、ブラウンジレットなど多くのブランドのコミュニケーション戦略全体に携わる。マックスファクターのブランド再起に尽力し、売り上げ増に貢献したことなどが評価され最優秀社員賞を受賞。現在は、「これでもいいか」から「これじゃなきゃ!」に変えるブランド価値プロデュースに尽力。『1年で成果を出す P&G式10の習慣』(祥伝社 2013)、『がんばりが評価される女性の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング 2008)、『イケダン育成術』(文藝春秋 2011)など著書多数。また、「おはよう日本」(NHK)、「みのもんたの朝ズバッ」(TBS)など、TVでも活躍している。






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