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にっぽんの元気人
2013年11月時点の情報を掲載しています。

迫る消費税増税、企業経営やシステムにどう影響するのか?
消費税の税率が2014年4月1日から8%に引き上げられることが決定した。さらに1年半後の2015年10月1日には、税率が10%に引き上げられる見通しである。アベノミクス効果で回復の兆しが見られる消費は、増税によって腰折れしてしまうのか?また、消費税改正に向けて、会計システムはどのように修正していくべきなのか?システム監査技術者としてのキャリアも持つ公認会計士で、消費税対策に詳しい岩谷誠治さんに聞いた。


税抜き価格の復活で価格競争がさらに熾烈に?
BP:来年4月1日、消費税が現行の5%から8%に引き上げられることが決定しました。増税前に駆け込み需要が発生し、その後、消費が大きく落ち込むのではないかという懸念もあるようですが、岩谷さんは増税が消費や企業業績にどのような影響を及ぼすとお考えですか?

岩谷誠治氏(以下、岩谷氏):
駆け込み需要は発生するでしょうが、増税後、すべての商品の売り上げが一気に落ち込むことはないと見ています。前回、1997年に消費税率が3%から5%に引き上げられたときも、駆け込み需要は発生しました。しかし、その影響が特に大きかったのは住宅や自動車、家電といった耐久消費財だけで、食品や日用品などの消費は増税後も大きく落ち込むことはありませんでした。税金が増えたとしても、生活必需品は買わないわけにはいきませんからね。ですから今回も、駆け込み需要後の消費の反動減は局地的、限定的だと考えていいと思います。
 とはいえ、所得は伸びないのにモノやサービスの値段が3%上がるわけですから、一気に落ち込むことはないにしても、消費がじりじりと落ち込むことは間違いないでしょう。
 法人の設備投資にも、少なからず増税の影響が出てくるはずです。システムやサーバ、PCなどのIT設備投資も駆け込み需要の反動を免れることはできないかもしれません。

BP:見方を変えれば、IT業界にとっては、増税前の駆け込み需要が狙いどころと言えるかもしれませんね。ところで、企業の経理部やシステム部にとっては、消費税増税とともに既存の会計システムを見直していくことが当面の課題です。どのような点に注意すべきでしょうか?

岩谷氏:
今回の消費税改正では、税率を5%から8%に引き上げるだけでなく、モノやサービスの価格表示について、従来の総額表示(税込み価格)と税抜き価格のどちらかを選べるようになりました。いまのところ3年間の時限措置となっていますが、価格表示を税抜き価格に変更する場合は、それに合わせてシステムを更新する必要があります。つまり、税率の引き上げと、価格表示変更の2つに同時対応しなければならなくなるわけです。
 価格表示方式の選択は、その企業の価格戦略と密接に関わるものですから、経営者の判断を待たなくてはなりません。税込み金額と税抜き金額のどちらを選ぶのか、経営者がなかなか決められないという事態も想定されます。
 その場合、システム変更に費やせる時間はどんどん削られてしまいます。決まったらいつでも更新に取り掛かれるように、周到に事前準備をしておくことが大切だと思います。

BP:税込み価格と税抜き価格のどちらかを選べるようになったことで、企業の価格政策も大きく変化しそうですね。

岩谷氏:
2004年の消費税改正で総額表示が義務付けられたときは、98円や9,800円といった端数価格の商品を、価格を据え置いて販売する動きが広がりました。それ以前の税抜き価格表示の時代には、値札に本体価格980円、消費税49円と表示し、税込み価格1,029円で販売していたものが、総額表示(税込み)で980円となり、実質約5%の値下げが行われたのです。
 経営体力のある企業が総額表示の義務化を機に値下げに踏み切ったことで、経営体力の弱い企業もいやおうなく追随せざるを得なくなりました。
 今回は、有力企業が税込み価格と税抜き価格のどちらを選択するのか、それを元にどのような価格政策を推し進めるのかによって、値付けのトレンドが大きく変わってくるでしょう。
 どのようなトレンドが現れるのかを現時点で予想することは不可能ですが、例えばこれまで総額表示980円(本体価格933円)で売っていたものを、そのまま、税抜き価格933円で売るということは考えにくい。切りのいい900円にしたり、端数価格にこだわって890円まで値下げしたりする企業も現れるかもしれません。このように、消費税の価格表示方式の見直しによって、価格競争がますます厳しくなることも十分に考えられます。3%の増税で消費者の財布のヒモも堅くなるわけですから、企業収益に少なからぬ影響を及ぼすことは間違いないでしょう。


増税後なのに5%が適用される場合も
BP:有力企業の価格政策に追随せざるを得ない中堅中小企業にとっては、ますます厳しい環境となりそうですね。

岩谷氏:
セミナー等で中堅中小企業の経営者とお話しをする機会が多いのですが、やはり多くの方が増税の影響を心配しておられるようです。
 しかし、わたしはそうした方々に「あまり気にする必要はありませんよ」と申し上げています。というのも中堅中小企業の場合、3%という細かいレベルで会計を管理している企業はそれほど多くないと思うからです。
 中堅中小企業の経営者の中には、会計を気にするのは年度末と中間期のせいぜい年2回程度で、日ごろはあまり売り上げや利益を見ていない方も大勢いらっしゃいます。
 年度末になって売り上げや利益が足りないことに気づき、あわてて営業を強化したりしますが、そうした、悪く言えばどんぶり勘定、よく言えばおおらかな会計管理を行っている企業の場合、たとえ増税で売り上げや利益が数パーセント変化しても、その変化に気づくのは、半年後かもしれません。
 むしろ週次や月次ベースで損益を厳密に管理している企業ほど、増税の影響を大きく感じることでしょう。
 会計士の立場としては、せっかく多くの中堅中小企業が優れた会計システムを持っておられるのですから、積極的に活用して、せめて月次ベースのきめ細やかな会計管理を実践することをお勧めしたいですね。
 増税によって消費が落ち込み、価格競争で利益が圧迫される状況が深刻になればなるほど、きめ細やかな会計管理によって、仕入れや販売戦略をタイムリーに見直す取り組みが重要になってくるはずです。今回の消費税増税をいいきっかけとして、会計への向き合い方を変えてみてはどうでしょうか。

BP:会計システムを取り扱う本誌読者にとっては、そうした提案をクライアントに行う絶好のタイミングと言えるかもしれませんね。ところで、消費税増税が実施されても、取引や納入の時期によっては、増税前の税率が適用されるケースもあると聞きましたが。

岩谷氏:
消費税の税率は、契約を行った日や代金の支払日ではなく、商品を引き渡したり、サービスを提供したりした時点を基準に適用されます。例えば、増税前に物品を購入して代金を支払ったとしても、引き渡しが増税後であれば、原則的には増税後の税率が適用されるわけです。
 しかし、そうした原則的な方法の適用が困難なものも存在するため、今回の消費税改正では個別に「経過措置」が設けられました。
 経過措置には、増税施行日(2014年4月1日)前後の取引に関するものと、施行日の半年前に当たる「指定日」(2013年10月1日)前の取引に関するものの2種類があります。
 前者の場合、旅客運賃や電気・ガス・水道料金、長期割賦販売、定期刊行される新聞・雑誌、長期大規模工事、売り上げの値引き、仕入れの返品などについては、4月1日前後の取引の混乱を避けるために、例外的な取り扱いが定められています。
 後者は、工事等の請負契約、資産の貸し付け、書籍等の予約販売、通信販売などが対象で、今年10月1日の「指定日」前に契約したものであれば、受け渡しが来年4月1日以降でも現行の税率が適用されます。
 このように、増税前後には適用税率の異なる取引が混在することになるので、会計処理上きちんと区分することが大切です。販売管理においては請求書ごとの税率を間違えないようにしなければなりませんし、固定資産設備を導入する場合、請負契約を交わすことになるので、「指定日」前に契約した設備であれば現行税率を元に消費税額を計算します。
 また、あまり神経質になる必要はありませんが、インターネット取引のように24時間取引を行っている場合、来年3月31日から4月1日に日付が改まった時点で、すぐに適用税率が切り替わるようにシステムを修正しておくことも大切です。


軽減税率の導入を見据えて対策を練っておく
BP:そのほか、システム対応で注意しておくべき点はありますか?

岩谷氏:
中堅中小の場合、パッケージの会計システムを導入している企業がほとんどだと思いますが、現在お使いになっているシステムが増税に対応してバージョンアップできるかどうか、なるべく早めに確認しておくことをお勧めしたいですね。あまりにも古いパッケージシステムだと、バージョンアップやサポートが受けられなくなっていることもあります。
 また、2世代前や3世代前のシステムを使用している場合、一足飛びに最新版にバージョンアップしようとすると、データが移行できないといったトラブルが生じることもあるので注意したいですね。

BP:企業向けに会計システムを提供するSIerとしては、そうしたトラブルを回避しながら、いかにローコストでよりよい解決策をお客さまに提案できるかが大切になってくるのでしょうね。ほかに、今回の消費税増税に関連して、SIerの立場で心がけておきたいことはありますか?

岩谷氏:
まだ政府は最終決定していませんが、来年4月1日に消費税率が5%から8%に上がるのに続いて、2015年10月1日には税率が10%に引き上げられる見通しです。
 第1段階の8%への増税では見送られましたが、第2段階の10%への増税が実施されるときには、軽減税率が盛り込まれる可能性は高いと思われます。軽減税率とは、特定の対象や品目について10%よりも低い消費税率を適用させる制度のことです。
 現在、日本の会計システムは単一税率を前提に設計されていますが、軽減税率が実施されると、複数の税率に対応したシステムへの変更が余儀なくされるのです。単に税率が上がるだけならそれほど大変ではありませんが、複数税率の導入とともにインボイス方式(詳しくは22ページ参照)も導入される可能性が高く、その場合、システムの修正はより複雑になります。
 しかも、過去の消費税改正の歴史を振り返ってみると、改正内容が決定するまでに長い時間が掛かり、施行直前になってようやく決まるケースも珍しくありませんでした。おそらく軽減税率の導入についても、ギリギリまで議論が続けられることになると思います。その結果、システムの修正に費やせる時間も短くなってしまうことでしょう。
 なるべくスピーディに対応できるように、来年4月の消費税改正に向けて顧客のシステムの更新をする際には、再来年10月の改正も視野に入れながらシステムの状況を把握し、対策を練っておくといいでしょう。

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公認会計士・税理士岩谷 誠治氏
Seiji Iwatani

◎ P r o f i l e
(株)会計意識 代表取締役。公認会計士、税理士、システム監査技術者。早稲田大学理工学部卒。資生堂を経て朝日監査法人(現あずさ監査法人)に入社。1994年公認会計士登録。アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2001年に独立、岩谷誠治公認会計士事務所を開設。SE及びITコンサルタントの方々向けに、システム開発に影響を与える会計法令の改訂情報を提供している。「収益認識プロセスと会計の接点」(中央経済社)、「借金を返すと儲かるのか? -会計の公式-」「国語 算数 理科 しごと」(日本経済新聞出版社)など、著書多数。






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