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にっぽんの元気人
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父や上司に怒鳴られ続けた阿川さんに聞く『叱られる力』の磨き方
テレビ番組の進行役や雑誌のインタビュアーとして大活躍の阿川佐和子さん。2012年に出版した『聞く力』( 文春新書)が160万部を超える大ベストセラーとなり、その第2弾『叱られる力』(同)を今年6月に上梓した。幼少期から父に数え切れないほど怒鳴られ、駆け出しのテレビキャスター時代には鬼の上司にどやされ続けたという阿川さん。その貴重な経験をもとに、今の日本人が失いつつある「叱る力」「叱られる力」の磨き方についてヒントをいただいた。


「人見知りの若者が増えている」って、どういうこと?
BP:『叱られる力』を大変面白く読ませていただきました。まず、この本を書くに至ったきっかけを教えていただけますか?

阿川佐和子氏(以下、阿川氏):
おかげさまで前著『聞く力』がとても好評だったので、「第2弾を出しましょう」ということになりました。
 でも、続編と同じ内容では面白くないし、違うネタもないので、「どうしよう」と思案していたとき、20〜30代の働く女性を中心読者とするある女性誌の編集部から、『聞く力』に関するインタビューを受けることになりました。
 「いま、人見知りで、コミュニケーションに悩んでいる若い女性が増えているようです。阿川さんはインタビュー経験が豊富ですし、『聞く力』というコミュニケーションの本も出されていますので、どうすればいいのかお知恵を拝借したい」ということでした。
 それを聞いて「へぇ〜」と思いました。わたしは、人に教えられることなんて何もないけれど、「人見知りが増えているとは、どういうことだ?」と。
 「そんなこと言われたら、わたしだって人見知りですよ!」と聞き手の女性編集者にも話したのですが、「いやぁ阿川さん、何を言っているんですか。だってもう1000人以上の方にインタビューされていらっしゃるでしょう」と。
 そういうことではありませんよね。少なくとも日本人は、よほど自分に自信がない限り、誰だって人見知りだと思います。なるべくなら相手と目を合わさないで話をしたいし、エレベーターの中で知らない人に会ったときには会話を避けるタイプの人が多いはず。
 それはみんなそうだけど、仕事に就いたり、役割を与えられたり、何かをやらなければいけないというときは、「人見知りです」なんて言っていられない。場数をこなすことによって、嫌な人に会っても奮起して「よろしくお願いします!」と言えるようになるわけです。それが大人になるための一つのステップでしょう。
 なのにいまの若い人は、なぜはじめから「わたしは人見知りです」と宣言するのか? それは甘えなんじゃないか? と思いました。
 それがきっかけで、いまの若い人たちは、会社の中でどういう状況になっているのかを知りたくなって、身の周りにいる銀行員や編集者、テレビ局の人など、組織に勤めている人たちにいろいろと聞いてみたところ、「いやぁ、もう大変っすよ!ちょっと注意しただけで、すぐに辞めちゃうんですから」というような話がどんどん出てきたんです。
 優秀な大学を出ているのに、よほど叱られることが嫌なのか、“叱られるとすぐに辞表を出す”という話をちらほら聞くようになって、「これは何じゃ?」と思いました。そして本格的な取材を始めるに至りました。
 で、友だちや知り合いの女性を集めていくつか会議を開いたら、その中のある方から「阿川さん、『叱られる力』をテーマに本を書いてください」と言われたんですよ。
 「叱る側にも問題はあるけれど、部下にも叱られる力を身に付けてもらわないと、仕事にならないんです」と。
 そこで「叱る」「叱られる」にテーマを絞って、さらに取材をしていった結果、出来上がったのがこの本です。


信頼関係が出来ていればどんなに叱られても大丈夫
BP:「叱られる」部下のことだけでなく、
「叱る」側の上司の悩みについてもかなりのページが割かれていますね。

阿川氏:
新聞社やテレビ局なんて、昔は怒声しか飛んでいない職場でしたよね。それが、いまは怒鳴り声が聞こえてこないそうです。
 わたしが最初にテレビの仕事をしたのは1983年から89年に放送された『情報デスクToday』という深夜の報道・情報番組でしたが、あのころは直属のボスに怒鳴られてばかりでした。
 当時のボス、ジャーナリストで評論家の秋元秀雄さん(故人)は、それこそ、どやすことが毎日の仕事みたいな方でした。オンエア直前になって「これで取材だと思っているのか。もう一度やり直せ!」とか。何度も泣かされました(笑)。周りからは「叱られるうちが華だよ」「見込みがあるから叱るんだよ」などと慰められたものです。
 当時は、叱られるのが怖いから“何とかしなきゃ”って思うし、インタビューをしていても、「ああ、これしか聞けないと帰ってから絶対に怒られる」と焦りながら仕事をしていました。「怒られないようにしよう」というのも人間の行動のモチベーションですよね。それは鍛えられたと思います。

BP:いまの若い人は、強く命令をされると上司に反発して、「なぜしなければいけないのですか?」「これをやることに何の意味があるのですか?」と目的や意義を問いただすことが多いようですね。

阿川氏:
昔は「四の五の言わずにやれ!」が当たり前でしたからね。よくわからないけど、上司が怒っているからやらなきゃいけないという感じでした。
 それが叱り方として正しいのかどうかはわかりません。暴君的なことが絶対に正しいとは思わないし、『叱られる力』を出した後、親に一度も叱られたことがないというのに、優秀で立派な仕事をしている方に出会って、「こういう人もいるんだ」と思いましたからね。
 ですから、激しく叱ったり怒鳴ったりすることが絶対に必要だと言うのではありません、ただ、メリハリは欠かせないと思います。
 『叱られる力』の「あとがき」にも書きましたが、嬉しいとか、楽しいとか、悲しいとか、寂しいとか、悔しいとか、人間の感情は多種多様です。その中の嫌な感情だけにフタをして、大事な子どもの目にさらさないようにするのはどうだろうかと思います。
 その子どもが死ぬまでやさしい親がそばにいてくれるなら別だけど、ある日突然、思いもよらない嫌なやつと会うかもしれないじゃないですか。社会なんてそんなもんで、馬の合わない人とか、この人は素晴らしい人だと思って結婚してみたのに合わなかったとか、思いどおりにならないことだらけなのが人生だと思います。
 「世の中は思いどおりにはならない」ということを、なるべく小さいころから少しずつ経験しておけば、大きくなって社会に出たときに嫌な目にあっても「あぁ、あのときと似ているな」とか、「たしかに嫌だけど、あのときほどじゃないな」と思えるわけですよ。
 「叱る」「叱られる」の前提として、対峙する人間と、信頼関係が出来ていれば大丈夫だと思います。
 「あいつ(親・上司)は、本当に俺が憎いのか?」と思うような関係になっちゃうと、なかなか言っていることも耳に入らないし、言っても届かない。
 叱るときは鬼のように恐くても、褒めるときはちゃんと褒めて抱きしめてくれることがわかっていれば、子どもは、親から「本気で憎まれている」と思うことはないはずですよね。

11偉くなっても「叱られるかな?」と思う存在を持ち続ける
BP:『叱られる力』には、阿川さんが幼少期から、お父様で作家の阿川弘之さんに何度も怒鳴られたエピソードが数多く盛り込まれています。阿川さんご自身、子どものころから相当たくましく鍛えられたのではありませんか?

阿川氏:
たくましくなっていませんよ、全然。このインタビューを受ける直前にも父から電話が掛かってきて、「何事か?」とびくっとしました。いまでも怖いんです(笑)。
 父に叱られて幸せだったという思いはありませんが、いくつになっても叱ってくれる人が身近にいるというのはありがたいことですね。
 「こういうことをやったら、この人に怒られるだろうな」とつねに想像するような存在は、わたしのようなわがままな人間には、死ぬまで必要だと思っています。
 人間って、歳や経験を重ねて上の立場になっていくと、自分を叱ってくれる人がだんだん少なくなりますよね。“社長さん”になっちゃった日には、誰も叱ってはくれないでしょう。
 立場が上になると、つい「自分が正しい」と思い込み、部下や周りの人の意見に耳を貸さなくなるようになる人もいるけれど、どこかで自分の身を引き締めてくれる存在を持ったほうがいいと思います。
 部下や周りの人も、上の立場の人間にはモノを言いにくいですもん。
 だいたい、わたしのようにテレビや出版の世界にいると、放っておいてもチヤホヤされやすいわけだから、自分が図に乗っていても誰も言ってくれないので、見えなくなるわけですよ。
 毎日言われるのは嫌だけど、たまに言われるような存在が必要だと思っています。
 それは、生きている人間だけに限らず、たとえば「ご先祖様に何て言われると思っているの?」とか、世間様とか神様、仏様とか。そういう、ある意味、宗教心のようなものが人間を律してきたのではないでしょうか。
 わたしは宗教家でも何でもないですが、宗教の大切さって、そういうところなのかなと思います。
 もちろん身近な親でも、先輩でも、誰でも構わないのですが、「叱られるかな?」と思う存在を持っていることが大切かもしれませんね。

BP:阿川さんご自身にとって、「叱られるかな?」と思う存在とは?

阿川氏:
やはり何といっても父です。でも、広い意味では一緒に働いている仲間もそうですね。みんなわたしのことを守ろうとして、一生懸命に盛り立ててくれるし。「自分のほうが偉い」と思ったときは危ないと感じています。
 もちろん、先輩として上に立たなければいけないことはあります。何でも皆さんの言うことを「はいはい」と聞くほど素直ではないけれど、文章を書くにしても担当の編集者の意見というのは非常に大事だし、さらには読者だったり、視聴者だったり、いろいろなところに「叱られるかな?」と思う人がいます。そうした人たちをないがしろにしたら自分はおしまいだなと思います。
 とかくわたしたち日本人は、自分よりも年齢が低い人や、閉ざされたコミュニティの新人に対しては「こっちが偉い!」という意識になりがちです。
 これは、日本がヨーロッパのような階級社会ではないからだと思いますが、職場に限らず、仕事とはまったく関係ない集まりや飲み会などでも、なんとなく「その場の上下関係」を作りたがる傾向があります。
 ある種、日本人の習い性のようなものなので、何もかも欧米化する必要はないとは思いますが、そうした了解がある以上、どこに行っても、歳を重ねるにつれ否が応にも自分が上になる場所がどんどん増えていく。そうして、「叱られる」機会がだんだんと減っていく。
 やっぱり、若いうちに何度も「叱られる」ということは、得難い人生経験なのかもしれません。

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作家/エッセイスト
阿川 佐和子氏
Sawako Agawa

◎ P r o f i l e
1953年生まれ。東京都出身。1981年「朝のホットライン」(TBS系)でリポーターに。2000年に坪田譲治文学賞を受賞した『ウメ子』ほか、小説、エッセー多数。「サワコの朝」、「ビートたけしのTVタックル」(テレ朝)にレギュラー出演中。






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