Windows 10 Mobileとは、マイクロソフトの最新OS「Windows 10」のスマートフォン向けエディションである。スマートフォンだけでなく、8インチ以下のタブレットも対象となり、CPUとしてはARM互換CPUまたはx86互換CPUがターゲットとなる。マイクロソフトは、以前からPC向けWindowsのサブセットとなる組込機器向けOS「Windows CE」の開発を行っており、スマートフォン向けとしてもWindows CEをベースにしたWindows Phoneと呼ばれるOSをリリースしてきた。Windows Phoneの最終バージョンが、2014年4月に発表されたWindows Phone 8.1であり、Windows 10 Mobileはその後継として位置づけられる。
PC向けWindows 10とプラットフォームが完全に統一されたことがWindows 10 Mobileの特徴であり、Windows10で導入されたユニバーサルWindowsプラットフォーム(UWP)用アプリケーションは、そのままWindows 10Mobileでも動作する。また、Microsoft Officeのサブセットである「Office Mobile」が標準搭載されており、OneDriveとの連携も可能なため、PCで作成したOff i c e文書をOneDriveに保存しておけば、Windows 10 Mobile搭載スマートフォンで直接閲覧や編集が可能だ。パーソナルアシスタントの「Cortana」も搭載しており、音声で情報を検索することや予定を管理することができる。
Windows 10 M o b i l eの目玉ともいえるのが、「Continuum for Phone」(以下Continuum)と呼ばれる、ディスプレイの大きさに応じて、ユーザーインターフェースを適切に変更する機能である。Windows 10搭載2-in-1PCでは、ノートPCスタイルからタブレットスタイルにスタイルを変更すると、自動的にユーザーインターフェースが切り替わるが、Windows 10 Mobileにも同様の機能が搭載されており、Windows 10 Mobile搭載スマートフォンに外部ディスプレイを接続すると、PC向けWindows 10のように、Windowsやアプリの見た目や操作性が変わるのだ。スタート画面も、スマートフォン単体での利用の際は全画面にタイルが並んだものとなるが、外部ディスプレイに接続すると、PC向けWindows 10と同じスタートメニューに変更され、Office Mobileもマウスやキーボードでの操作が可能になる。要するに、スマートフォンにディスプレイやキーボードを繋げばPCと同じ感覚で利用できるようになるという機能が、Continuumなのだ。Continuumでは、無線(Miracast)経由で外部ディスプレイを接続することも可能だ(機種によっては無線接続のみサポートとなる)。Continuumを利用すれば、出張時に重くてかさばるPCを持ち歩かなくても、メールの送受信やレポートの作成程度ならスマートフォン+モバイルキーボードでこなせるようになる(ディスプレイは、ホテルの部屋の液晶テレビを利用すればよい)。
Continuumは便利な機能だが、その分、高いパフォーマンスが要求されるため、すべてのWindows 10 Mobile搭載スマートフォンで利用できるわけではない。Continuumを利用するには、CPUとしてSnapdragon 810/808/617を搭載し、2GB以上のメモリと16GB以上のストレージを搭載する必要がある。国内販売されているWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの中で、現時点でContinuumに対応した製品はトリニティの「NuAns NEO」とVAIOの「VAIO Phone Biz」の2製品のみである。
Windows 10 Mobileは、確かにWindows 10との親和性が高く、ビジネスユースには適したOSであるが、すでにAndroidとiOSでシェア9割以上を占めているスマートフォン向けOS市場で確固たるプレゼンスを獲得できるかどうかが、今後の焦点となるだろう。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。