消費者は潜在意識で何を求めているか、脳波を測定して本当のニーズを解明する。そんな脳科学の手法を、製品開発からパッケージ、広告展開までの一連のマーケティングに応用する「ニューロマーケティング」が注目を集めている。 従来、商品開発や広告制作などのマーケティング活動では、消費者へのアンケート調査やインタビュー等が用いられてきた。しかし、この手法は消費者が自ら意識し、表現できる情報でしか捉えることができず、消費者の感情の動きなど、無意識の意思決定プロセスについては、正確に語ることができない。そのため、アンケート調査では良い結果が出ても、いざ世に出してみたら全く売れない、というケースが続出している。 ニューロマーケティングの専門家であるニール・マーティンは、著書『「習慣で買う」のつくり方』の中で次のように語っている。 「企業は『消費者は自分の意思で選択をする』前提でマーケティングや新商品開発を行っている。つまり『他社にはない優れた機能を作れば、賢い消費者は選んでくれる』という考え方。実際のところは、消費者の行動の大半は自分でもなぜこれを買っているのかわからない、のが本音。消費者は、『自分の意思で買った』と思い込んでいるだけなのである。買った理由を聞けばもっともらしい理由を作り上げるが、本当のところは、ほとんどの判断は無意識に行われている。」 そこで、こうした無意識のプロセスに迫る方法として注目を浴びているのが、ニューロマーケティングだ。これは、脳科学の見地から消費者の脳の反応を計測することで消費者心理や行動の仕組みを解明し、マーケティングに応用しようとする試み。研究が進んだ背景には、fMRI (核磁気共鳴計測)、NIRS(近赤外線分光法)、MEG(脳磁図)など、被験者に損傷を与えない脳の活動計測技術、診断装置の発展がある。 すでに大企業を中心に、商品開発やコマーシャルの事前調査にニューロマーケティングが採用されており、スウェーデンの自動車メーカーVOLVOは、車のカッコよさについてニューロマーケティングを用いた実験を行った。被験者に脳波を検知するヘッドセットを装着し、いくつかの写真を見せながら、感情の動きと深い関係を持つと言われる前頭前皮質の状態について計測。国内においても、カネボウ化粧品が「化粧と女性心理の関係性」を発表。ユニ・チャームは「脳波による香り感性診断」という研究成果を発表し、女性用生理用品の商品開発に反映した。さらにユニ・チャームは「赤ちゃんは紙おむつ素材の触感の違いを区別していて、素材の気持ち良さを実感している」こともニューロマーケティングで実証している。 今後はBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)という脳の反応と機械をつなげる技術も発展していく。機械と連携することで「念じただけで物が動かせる」という画期的な技術だ。ロボットアームや歩行アシストなどと連携することで、介護・福祉分野での活躍が期待されている。これからますます脳科学は身近になり、マーケティングへの応用も広がっていくだろう。 ただし脳科学は、「無意識」にアプローチする手法であり、「マインドコントロール」「洗脳」や「自由意思への浸食」などの倫理的な懸念がある。また、脳に関してはまだまだ未解明な部分が多く、安易に結論付けることはできない。こうした課題はあるにせよ、消費者の意思決定プロセスについてより深い知見が得られるニューロマーケティングの魅力は絶大だ。ITパートナー各社は、自社の商品開発にニューロマーケティングを取り入れつつ、関連ソリューションの開発を進めたい。