LPWAとはLow Power Wide Areaの略で、その名前の通り、低消費電力で遠距離通信を実現する無線通信技術である。一口に無線通信技術といっても、無線LANやBluetooth、LTEなどさまざまなものがあるが、LPWAは、これまでの無線通信技術ではカバーできなかった領域をカバーすることが特徴だ。例えば、無線LANの通信速度は最大約6.9Gbps(IEEE 802.11acの場合)と高速だが、通信距離は100〜300m程度と比較的短く、消費電力も大きい。また、Bluetooth Low Energyは、消費電力は小さいが、通信距離は5〜10m程度と短い。LPWAは総称であり、いくつかの規格が提案されているが、その規格の一つである「LoRaWAN」の通信距離は最大20km程度と長い。また、消費電力もBluetooth Low Energyよりも小さく、バッテリーで数年以上の駆動が可能だ。その代わり、通信速度は980bps〜50kbpsと遅い。
このようにLPWAは、通信速度は遅いものの、超低消費電力で広域通信が可能という特徴を持つため、IoTやM2Mに最適な通信技術として注目を集めている。IoTやM2Mのサービスの肝は、大量のセンサーで取得したデータをクラウドに送り、そのビッグデータを解析することにある。こうした利用方法の場合、通信で送る一つ一つのデータのサイ 量子コンピューターとは、その名の通り「量子」を演算に利用するコンピューターであり、現在のコンピューター(古典的コンピューター)とは根本的に異なる。量子とは、粒子と波の性質をあわせもった非常に小さい物質であり、電子や中性子、陽子などがその代表である。なお、量子コンピューターとして、量子アニーリング法を用いる「D-Wave」という製品が登場しているが、こちらは最適化計算に特化した専用機であり、現在のコンピューターのような汎用性を持たないため、ここでは取り上げない。
古典的コンピューターでは、計算の基本単位をビット( B i t )と呼ぶが、量子コンピューターでは、量子ビット(Qubit)が基本単位となる。ビットは0か1のどちらかの状態をとるが、量子ビットは0と1が重なり合った状態になる。これは量子特有の現象であり、計測することで0か1に決まるが、それまではその両者が共存しているのだ。量子コンピューターは、この重ね合わせ状態を使うことで、古典的コンピューターとは桁違いの高速計算が実現できる。1ビットの入力を持つ古典的コンピューターでは、入力が0の場合と1の場合を別々に演算する必要があるが、1量子ビットの入力を持つ量子コンピューターなら、重ね合わせにより、0の場合と1の場合の計算を同時に行える。2量子ビットなら、00、01、10、11の4つの状態の重ね合わせになり、4並列の演算を行える。以下、3量子ビットで8並列、4量子ビットで16並列と増えていき、40量子ビットなら1兆を超える並列演算が可能だ。このように量子コンピューターは、指数関数的に演算性能が向上するため、古典的コンピューターでは解読不可能とされている高度な暗号も現実的な時間で解読できるほか、ビッグデータの解析や新薬の開発など、量子コンピューターで飛躍的な進化が期待できる分野は多い。
量子コンピューターは、30年以上前から研究開発が行われてきた。量子ビットはノイズなどに非常に弱いため、安定した状態で保つことが難しい。量子ビットの数が増えると、その困難さはさらに増加する。2001年には、IBM研究所が7量子ビットの量子コンピューターを試作し、15の素因数分解に成功したが、その後なかなか進展がみられなかった。IBMは、量子コンピューターの開発ではトップを走る企業の一つで、2016年5月には業界初の商用利用可能な量子コンピューティングシステム「IBM Q」を発表している。IBM Qは、同社のクラウドサービスとして提供され、サービス開始当初は5量子ビットの量子コンピューターをクラウド経由で利用できた。
しかし、2017年に入って量子コンピューターの開発は劇的な進展をみせている。2017年4月には、Googleが9量子ビットの超伝導チップを公開。2017年5月にはI B Mが世界初の17量子ビットの超伝導チップを発表し、IBM Qでも利用できるようになった。半導体最大手のIntelも量子コンピューターの開発を急いでおり、2017年10月に世界で2つめとなる17量子ビットの超伝導チップを公開。量子コンピューターの開発に携わるオランダのQuTechに納入した。IBM、Intel、Googleなどが目指しているのは、50量子ビットの超伝導チップの実現だ。50量子ビットが実現できれば、現在のスーパーコンピューターを超える性能を実現できる。
Googleは、すでに22量子ビットの超伝導チップのテストを行っており、2017年末には49量子ビットの量子コンピューターを実現することを表明している。IBMやIntelも、ほぼ同じようなペースで開発を行っていると推測される。数年以内に、現在のスーパーコンピューターを遙かに凌駕する性能の量子コンピューターが実用化される可能性はかなり高いといえる。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。