2017年2月23日、NTTドコモがコンシューマ機器向け「eSIM プラットフォーム」を発表した。今回は、このeSIMについて解説したい。eSIMとは、Embedded SubscriberIdentity Moduleの略で、組み込み用SIMという意味だ。SIMについてはご存じの方も多いだろうが、スマートフォンや携帯電話などで使われている加入者を特定するためのID番号や携帯電話事業者との契約情報などが記録されたICカードであり、miniSIM、microSIM、nanoSIMの3種類のサイズがある。eSIMの最大の利点は、ユーザー自身の手によって携帯電話事業者との契約情報を書き換えられることだ。従来のSIMカードでは、回線契約時に携帯電話事業者(販売店)が専用の機器を用いてSIMカードに必要な情報を書き込み、そのSIMカードをスマートフォンなどの端末に挿入することで、その回線が開通するという仕組みになっていた。一度、SIMカードに書き込まれた契約情報をユーザー側で書き換えることはできないため、海外に行った場合など、携帯電話事業者を変更する際には、SIMカードを抜いて別のSIMカードに差し替える必要があった。しかし、eSIMなら、ユーザー自らが通信経由(OTA)で携帯電話事業者との契約情報を書き換えることができるため、いちいちS I Mカードを交換する必要はない。eSIMには、従来のminiSIMと同じ15×25m mのカード型と、より小型化した5×6m mのチップ型の2タイプがある。前者はスマートフォンやM2M通信モジュールのS I Mと差し替えて使うことが想定されており、後者は産業用機器や車などに組み込んで使うことが想定されている。
NTTドコモでは2 0 1 4 年6 月から「docomoM2Mプラットフォーム」を利用している法人を対象にM2M機器向けeSIMの提供を開始しているが、今回発表されたeSIMプラットフォームによって、それがコンシューマ機器向けにも広がることになる。NTTドコモでは、eSIMプラットフォームに対応したコンシューマ向け端末を2017年中に発売する予定だが、本人確認などの問題もあり、当面は2台目として契約するタブレットやウェアラブル端末などが対象となるようだ。eSIM対応端末なら、販売店でSIMカードに情報を書き込む作業や回線の開通・確認作業が不要となるため、店頭作業が簡素化され、ユーザーの利便性も向上する。なお、当初はMVNOや海外の携帯事業者などへの開放は想定していないとのことだが、携帯電話事業者の業界団体であるG S M AがeSIMの標準化を行っており、将来的にはeSIM対応端末を1台持っていれば、SIMカードを差し替えずに、世界中の携帯電話事業者のネットワークを利用できるようになるはずだ。
海外の携帯電話事業者もeSIMへの対応を順次進めているため、M2MやIoTといった領域においても大きなメリットが生まれている。例えば、これまで3G/LTEといったWA N機能を備えたM2M機器やIoT機器を海外に輸出する際は、国ごとに異なるS I Mカードを用意して搭載する必要があったが、eSIMを利用すればそうした手間は不要で、コストも削減できる。また、複数の国にまたがるM2Mサービスを展開している企業の場合、eSIMを利用すればローミングではなく、それぞれの国の携帯事業者のサービスを使うことで、通信料金を大きく抑えることが可能になる。このようにeSIMが普及することで、グローバルなM2M/IoT市場の拡大が期待される。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。