これまでのサーバソフトウェアにおけるライセンス料金では、その多くがサーバに搭載されているプロセッサの数を基準としたプロセッサ課金の方法を採用してきた。しかし、プロセッサ課金では、ハードウェア性能の向上でどんなに能力があるサーバでも、反対に安価なサーバでも、プロセッサ数に応じたライセンス数が固定されていた。そのため、システムによって顧客が享受できる価値と、ソフトウェアライセンス課金の間に乖離が起きてきていたことも事実だ。
例えば、4CPUを搭載した数千万円クラスのサーバでも、数十万円のIAサーバでも、プロセッサ課金では同一の料金になっている。これでは、性能の低いサーバを利用している顧客の方が、相対的に高額なライセンス料を支払うことになる。反対に考えるならば、高性能なサーバを導入している企業では、かなり安価なライセンス料となってしまう。
オープンシステムによって、ハードとソフトが自由に選択できる現在にあって、もはやソフトはハードの付属品のような存在ではない。独立した製品として、機能の強化や安定した供給を継続していくためには、ソフトウェアとして独立した適正な課金体系を確立する必要がある、と日本アイ・ビー・エムでは考えている。こうした背景から、課題の多かったプロセッサ単位でのライセンス体系を見直し、将来にわたり新しいハードウェア・ソフトウェア技術の発展に対応可能なプロセッサ
Value Unit課金単位が誕生した。
プロセッサ Value Unit に基づく新しいサーバソフトウェアの課金体系は、「ソフトウェアによって顧客が得られる価値」を基準とした課金体系になっている。プロセッサ能力を数値化
(プロセッサ Value Unit)し、その数値とライセンス価格を掛け合わせて、稼動するサーバに見合った適正な料金を算出する。
実は、マルチコアの登場によって、ソフトウェア各社はその課金設定に苦慮している現状もある。ある会社では、IntelとAMDのプロセッサは「コア数×0.5」にしたり、UltraSPARC
T1は「コア数×0.25」のように、純粋な性能による対価ではなく、プロセッサ内のコア数とチップが、約1になるような微調整で対応している現状がある。それに対して、プロセッサ
Value Unit課金では、プロセッサ=コアと考えて、1コア=1ライセンスで計算する。
日本アイ・ビー・エムでは、ソフトウェア課金は、「単純さ」と 「精密さ」のバランスであるべきだと考えている。単純さとは、単純な構造と現行課金からの変換の単一性があり、現存するプロセッサ上でのソフトウェア課金の変更はないようにする。精密さでは、コアに対して小数(0.5など)となるライセンスの歪みを回避し、将来にわたってパフォーマンスの異なるマルチコア・チップが登場しても柔軟な対応を可能にし、サブキャパシティ・ライセンスのコア単位での提供(予定)までも可能にする。また、ソフトウェア課金体系には、持続性が必要になるため、ライセンスのスケーラビリティと譲渡可能性を継続し、パスポート・アドバンテージのライセンスとメンテナンスによる構造を保持しながらも最低限の変更を行い、ソフトウェア課金競争力の継続的な提供を目指すものだ。
実際に利用しているシステムごとに必要なプロセッサ Value Unit 数を計算するには、稼動対象となるシステムの情報が必要になる。「Value
Unit 計算ツール」を使って、ガイド付きモード、または上級者向けモードが提供する質問に答えることで、必要なプロセッサ Value
Unit 数を計算できる。また「WOS料金計算ツール」でも計算できる。
日本アイ・ビー・エムが、新たなライセンス体系を導入した理由には、持続可能なライセンス構造による、ライセンス体系における業界のリーダーシップを示す目的がある。ソフトウェアのライセンス課金は、利用されるソフトウェアによって得られる価値と連動すべきで、そこから得られるビジネスの価値と連動すべきだと考える利用者も増えている。ソフトウェアに対して正しい対価を支払うことは、利用者としての姿勢であると同時に、利用者がソフトウェアを支持していかなければ、最終的な利益も不利益も利用者に降りかかってしまうことになる。仮に、正しくない対価でソフトウェアを利用し続けていったとしたら、ソフトウェアの開発元では資金の回収が困難になり、製品の存続すら危うくなるのだ。日本アイ・ビー・エムでも、ソフトウェア事業を今後も継続し、より多くの利用価値を提供するために、新しいライセンス課金に踏み切ったのだ。
もちろん、現状の利用者の混乱や不利益を招かないために、旧1プロセッサは、基本的にはほぼ等価の100 Value Unitに置き換えられる。代わって、ソフトウェアライセンスの課金単価が1/100になるので、ソフトウェア課金単価
× プロセッサ Value Unit 数によって算出されるソフトウェア課金は、現状の価格が維持されることになる。
今回の変更によって、利用者が得られるメリットを整理すると、以下のポイントになる。
・プロセッサ能力に合わせた、合理的なソフトウェア課金を提供
・マルチコア・チップに対する、例外のないわかりやすい課金体系
・柔軟かつ拡張性のある課金体系で長期的に利用可能
・現行課金に変更なく、すみやかな移行が可能
さらに、ビジネスパートナーにとっては、プロセッサ能力の高いマシンを提案することで、ソフトウェアの販売を拡大するチャンスにもつながる。そして、プロセッサValue
Unitにもとづく新ライセンス体系の採用は、日本アイ・ビー・エムが今後も継続的にソフトウェア事業を推進し、よりよい製品を提供するための姿勢の表れでもある。