フジテレビ系列の情報番組『とくダネ!』で気象キャスターを務める天達武史さん。同番組MCの小倉智昭さんが呼び掛ける「あまたつ〜!」で一躍全国区の人気者に。異常気象や災害時などは現場取材も行い、天候・気候に関する講演活動も精力的に行っている。学生時代にはデザインを学び、気象予報士になる前は9年間ファミレスで勤務するなど、異色の経歴の持ち主でもある。そんな天達さんに、ここ数年、大きな被害が続いている台風への備えや、仕事人としての心がまえなどについて聞いた。
BP:天達さんは、気象予報士としてテレビでご活躍すると同時に、防災などに関する講演活動を全国各地で行っておられますね。2019年は、東日本を中心に大型の台風が何度も襲い、河川の氾濫よる家屋の倒壊など甚大な被害が発生しました。まずは、今度の台風の原因について振り返っていただけますか?
天達武史氏(以下、天達氏):千葉県全域における停電や、多数の家屋が床上浸水するなど、大きな被害が相次いだので、2019年は“台風の多い年”だったと思ってらっしゃる方も多いかもしれませんが、実は、発生した台風の数そのものは、例年とそれほど大きく変わりませんでした。数が増えたわけではなく、たまたま日本を通過する台風の数が多かったのです。
台風は、赤道よりやや上の北緯5〜25度付近の太平洋上で発生することが多く、その後、発達しながら徐々に北上するのですが、どのルートを通るのかというのは、その時々の風の流れや気圧配置によって異なってきます。
台風は、強い気流によって流されるだけでなく、高気圧の“へり”に沿って流れるというクセを持っています。水の流れの途中に大きな石があると、石の縁に沿って流れがカーブするようなものです。
日本列島の真上に大きな高気圧が張り出しているような状況なら、台風は入り込むことができず、大きくそれていきますが、逆に2019年は、台風発生時に日本列島が高気圧のへりにあたってしまったため、台風の通り道が作られてしまったのです。
その通り道が、たまたま東日本のあたりに位置していたので、台風15号では千葉県などに、その後の台風19号では長野県や福島県、宮城県などに甚大な被害をもたらしました。
2018年には、台風の通り道が西日本にできることが多かったので、大阪などが大きな被害を受けています。
いずれにしても、その時々の高気圧がどのような配置になっているかを見ることによって、台風の進路は、ある程度予想できるわけです。
BP:2019年の台風は、10月12日に日本に上陸した台風19号が最低気圧915hPa(ヘクトパスカル)、最大瞬間風速が65メートルを記録するなど、非常に大型のものが多かったようです。これは何が原因だったのでしょうか。
天達氏:台風の勢力の強さは、海面の水温が関係しています。
そもそも台風は、温かい海水から立ち上る水蒸気をエネルギーに発生するもので、一般に海面水温が27度以上で発達しやすくなるのですが、2019年は海面水温が27度を上回ることが多く、しかも水深50メートル辺りまで水温が温かい状態が続きました。
これが、勢力を増した大きな原因の一つであると考えられます。
例年に比べて勢いが強いだけでなく、たまたま通り道が東日本上空にできててしまったという要因が重なって、大災害に結び付いてしまったのです。
水温上昇が大きな台風を生んでしまったのは、深刻な地球温暖化が遠因であると言えるかもしれませんね。
BP:天気予報で発表される台風の勢
力や進路に関する予想は、大きく外れることはないのでしょうか。
天達氏:台風の発達状況や進路に関する予想の精度は、年を追うごとに上がっています。例えば2018年までは、テレビの天気予報などにおける台風の進路図は3日先までしか表示できませんでしたが、2019年には5日先まで表示できるようになりました。
突然襲ってくる地震やゲリラ豪雨などと違って、台風は襲ってくることを事前に察知し、対策が打てる災害です。
やって来ることがわかっても、準備のために5日間も費やせるのですから、慌てることなく、必要な備えを十分にしておきたいですね。
BP:具体的には、どのような備えをすればいいのでしょうか。
天達氏:大型の台風が通過すると、その後2日間程度は交通がまひするケースがあります。その間、食品配送などの物流が滞ることを考えると、やはり限られた時間の中でも、視聴者の皆さんに何か一つ印象に残ることだけは伝えたいと心掛けています。最低でも2〜3日分の水と食糧は普段から備蓄しておいたほうがいいと思います。
すぐに持って逃げられるように、非常持ち出し袋に入れておくといいでしょう。最近は、避難所に逃げる場合でも、「水と食糧は持参してください」と言われることが多いので、そのためにも、あらかじめ準備しておくことをお勧めします。
また、非常持ち出し袋を準備する際には、なるべく重くならないようにすることも大切です。「1週間分ぐらいは
持っておかないと」と不安になる気持ちはわかりますが、袋が重くなり過ぎて、運べなくなってしまっては元も子もありませんからね。
BP:食糧は、どのようなものを用意すればいいのでしょうか。
天達氏:以前は乾パンや缶詰など、1年程度は保存可能な食糧が一般的でしたが、最近は賞味期限が2〜3カ月程度の非常食を用意する人も増えているようですね。賞味期限が長すぎると、ついそのままにしてしまうので、いざというときに食べられないこともあるからです。
賞味期限が2〜3カ月なら、その都度チェックして買い替えることになるので、持ち出し袋の中身を常に「使える状態」にしておくことができます。いざとなってから困らないように、定期的にチェックをしておきたいですね。
BP:今回の台風では、河川の氾濫による家屋の倒壊や床上浸水など、水による被害が多く発生しました。自分の家が被害を受ける可能性があるかどうかを事前に知るためには、どのようにすればいいでしょうか。
天達氏:台風による被害には強い風によるものもありますが、甚大になりやすいのは、やはり大雨の被害です。
水は高いところから低いところに流れるものですから、まずは自分の住む場所が、川から見てどんな高さや位置にあるのかを知っておくことが大切です。そのうえで、自治体がホームページなどで公開している地域のハザードマップを確認し、川の氾濫やがけ崩れなどの危険地域に指定されているのであれば、大きな台風がやって来たときにはなるべく早く避難するという行動が必要になってくると思います。
ちなみに、自分の住む地域が危険かどうかを知るためには、その土地の地名も目安のひとつになります。
東京であれば、「渋谷」や「千駄ヶ谷」のように、地名に「谷」という文字が付いている場所は、ほかの土地に比べて低いところにあるので、河川の氾濫などの被害を受けやすいと想定することができるわけです。
BP:企業としては、台風などの災害にどのように備えればいいでしょうか。
天達氏:台風の通過が予想されるときには、従業員をなるべく出社させず、在宅勤務などの対応が望ましいのではないでしょうか。
また、河川の氾濫などによって道が冠水した場合、地下のフロアが水没してしまう恐れがあります。地下にオフィスや倉庫を構えておられる会社は、台風の進路予想が出た時点で、大切な書類や機器を2階以上に上げておくことをお勧めしたいですね。
一方で、水とともに深刻なのが風による被害です。
いまのオフィスビルは、ほとんどの窓が強い風にはびくともしない強化ガラスを使用していますが、2019年9月に千葉を襲った台風15号のように最大瞬間風速60メートル近い暴風が吹くと、瓦や看板などが飛んで窓を直撃することもあります。万が一を考えガラスに養生テープやガムテープを貼っておくなど、しっかり備えをしておきたいところです。
地下に水が入らないようにする対策としては、やはり土嚢(どのう)を積むのが効果的です。土嚢は土だけでなく、水を入れても作れることを覚えておきたいですね。
BP:ところで天達さんは、フジテレビ系列の情報番組『とくダネ!』の気象キャスターを務められて15年になるそうですね。MCの小倉智昭さんとの絶妙な掛け合いがとても評判です。
天達氏:天気予報コーナーが始まる直前、小倉さんから「あまたつ〜!」と声を掛けられるのですが、実はこれ、小倉さんのアドリブから始まったんです。第1回出演のとき、小倉さんとは本番直前まで一切面識がなく、始まるぎりぎりのところでご挨拶したのですが、そんな見ず知らずの人間をいきなり呼び捨てですからね(笑)。
後で小倉さんに聞いたら、「よく行く定食屋のアルバイトの兄ちゃんに似ていたので、思わず気安く呼んでしまった」と。それがすっかり定着して、15年も続いているわけです。
最初のころは、「いくら年下でも、気象の専門家を呼び捨てにするなんてけしからん」という抗議の電話やメールが1日1,000件ほど殺到したようですが、それでも小倉さんは呼びかけ続けてくれた。おかげで、親しみやすいコーナーになりましたし、キャスターの大先輩として、視聴者の心に届く「伝え方」を親身になって教えてくださった小倉さんには本当に感謝しています。
BP:出始めのころは、いろいろご苦労もあったのではないでしょうか。
天達氏:限られた時間の中に、あらかじめ用意しておいた情報が収まらないなど、最初は失敗だらけでした。
いまでも時間との闘いには悩まされています。天気予報コーナーは番組の最後なので、ほかのコーナーが押してしまうと、時間がどんどん削られてしまうのです。
自分では「1日1へぇ〜」と言っているのですが、限られた時間の中でも、視聴者の方に何か一つ印象に残ることだけは伝えたいと心掛けています。
BP:天気予報以外にも、講演や取材など、さまざまな仕事を行っておられます。天達さんならではの「話し方」のコツを教えていただけますか。
天達氏:もともと人見知りで、話すことはあまり得意ではなかったんです。初対面の人と話すときに心掛けているのは、なるべく相手との共通点を見つけて、その話題から入ることです。
仮にスポーツ選手とお話する場合、自分も学生時代に野球をやっていたので、スポーツの話からするようにして、あとは聞き役に徹します。
相手に話してもらいやすい場の雰囲気さえ作れば、自然に会話が広がっていくのではないでしょうか。
B P:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。
天達氏:災害対策で一つ付け加えておきたいのは、「水害にはタイムラグがある」ということです。
台風が過ぎ去っても、河川の水量はその後に増大します。大きな河川は大雨の9時間後に氾濫したケースもあるので、くれぐれも注意してください。
また、仕事に関しては「プラスになるためにマイナスのことがある」ということを大切にしています。ステップアップしようとするときには、何らかの障害があるものです。それも自分を育てるための肥やしになるのだと思えば、乗り越えられるのではないでしょうか。
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