IT系の雑誌やメールマガジンを見ていると、どんどん新製品が発表されています。また、新しいシステム構築方法を紹介したり、評価する記事も多いですね。 こうした記事から新しい情報システムの必要性が理解され、そこから新たな需要が生まれたりするわけですから、IT業界にとってはなくてはならないものです。読者の皆さんはこうした情報には敏感だと思います。私もそうです。 しかし私の場合は、単に新しい情報を集めるためではありません。私は、1980年代半ばからPCとネットワークに関わっていますが、新しいデバイスやシステムを導入すると、必ずといって良いほど予想もしなかったトラブルに遭遇します。もちろんその都度対策を考え、乗り越えて来たわけですが、中には、サーバの全データを喪失するような、思い出してもぞっとする事態の一歩手前まで行ったこともあります。 何度もそうした経験をしていると、新しいシステムやデバイスを見るたびに、どのような障害やトラブルが予想されるか?を考える癖がついているのです。特にその新しいシステムやデバイスと人間が関わった時に生じる新たな問題やリスクの方が気になります。 リスクがリスクを呼ぶ こうした、新しい技術が新たなリスクを生むという現象は、社会学者であるウルリッヒ・ベッグが「リスク社会論」(1986)の中で提唱しています。そして現代の情報社会にも当てはまりますので、3つのポイントに絞ってご紹介しましょう。 ■リスクを認識する手段の変化 放射能や狂牛病のように、近年のリスクは目に見えないものが多く、専門知識が無いと認識が難しくなっています。同様に、IT系のリスクもその認識に専門知識が要求されます。 ■リスクのグローバル化 チェルノブイリ原発事故で放出された放射能は、遠く日本にも到達しました。インターネット上のコンピュータウイルスは、あっという間に全世界に拡散します。 ■リスク対応の再帰性 トヨタ・プリウスのリコールは、タイヤがロックして滑ることを防ぐABSの制御ソフトの問題だと言われています。同様にウイルスを防ぐためのアンチウイルスソフトが完全である、という保証はどこにもありません。ITがもつリスクの対応に、新たなITが必要となるという再帰性が生じています。 顧客のリスク対策をサポートしよう 中小企業では兼任や片手間のシステム管理者も多く、新しいシステムやデバイスを導入しても、そこに生じる新たなリスクを予想し、対策するまでの準備ができないことが多いように思います。また、新しいモノのほうが安全だと誤解している人もいます。 もちろん、対策には費用がかかりますから、すぐに実行できないかもしれません。しかし読者の皆さんにお願いしたいのは、そのリスクをユーザに伝えておくことと、ユーザが社内に周知するためのお手伝いをしてほしいのです。そして、適切なリスク対策を何時でも迅速に提案できるようにしておくことです。そうした顧客対応が、信頼されるベンダーの条件だと思います。 最後に2年間続いた本連載ですが、今回で一区切りとなります。お付き合いいただきありがとうございました。今後は、Twitterで私の名前を検索して、“つぶやき”を引き続きフォローしていただければと思います。
【目から鱗のI T 夜話】 ・第12夜 取り返しのつかない一発アウト 【Vol.47】 ・第11夜 Windows 7よりも大切なアプリケーション 【Vol.46】 ・第10夜 インフルエンザ騒ぎから考えるバランスのとれたセキュリティ対策 【Vol.45】 ・第9夜 システム管理者を育てる秘訣 【Vol.44】