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にっぽんの元気人
2010年11月時点の情報を掲載しています。

一人ひとりが「自分ブランド」を持てば会社にイノベーションが巻き起こる
モノづくりの国、日本では「いい製品さえ作れば、必ず売れる」という考え方がいまだに根強い。しかし、「なぜいいのか」をきちんと言葉で伝えなければ、単なる自己満足に終わってしまう。アパレル業界のカリスマとして知られる藤巻幸夫氏が、自社の強みを明確なブランドとして確立し、それを効果的に情報発信していくためのヒントを伝授。「会社だけでなく、社員1人ひとりも『自分ブランド』を確立し、志を高く持ってビジネスに取り組むことが大切」だと藤巻氏は語る。


未来を予想するための「仮説」と「検証」が大事
BP:藤巻さんは、東京・新宿の老舗百貨店「伊勢丹」で斬新な売り場を数多く企画したことから「カリスマバイヤー」と呼ばれ、その後、民事再生法が適用された「福助」の社長として再生に取り組むなど、アパレル業に長く、かつ深く携わっておられます。その藤巻さんの目に、いまのアパレル業界はどう映っているのでしょうか。
藤巻幸夫氏(以下、藤巻氏):
最近は「GAP」や「FOREVER21」「H&M」「ZARA」など海外のファストファッションの勢いがありますね。人気ファッションのテイストを上手に取り入れながら安く大量につくる業態で、2008年ごろから日本市場に押し寄せました。
 一方で、80年代から90年代にかけて次々と登場した日本の大手アパレルによるコーディネートブランド、「シャネル」「アルマーニ」などの海外高級ブランド、デザイナーの個人ブランド、複数のブランドをオーナー自身が編集して独自のファッションスタイルを提案するセレクトショップなど、既存業態も非常に多様化しています。
 そうした混沌の中で、アパレル企業はいま、どのポジションを狙っていくべきなのかが見えにくくなっているように思います。安さでは海外のファストファッション勢に勝てるわけがないので、より個性を大事にするという意味で、デザイナーの役割が今後ますます重要になるのではないでしょうか。

BP:日替わり、週替わりでアイテムを次々と入れ替えるファストファッションの登場で、流行の変化はさらに目まぐるしくなっているようですね。
藤巻氏:
他の業界と同じく、アパレル業界においてもビジネスを成功させるための基本は「仮説」と「検証」です。
 かつては過去の売れ筋の色、柄、素材、デザイン、サイズといったデータをきちんと継承しさえすれば商品が売れたけれど、そのやり方は通用しにくくなってきました。
 経済そのものが厳しいので、ますます洋服が売れない。ファッションに興味を持たない若者も増えています。わたし自身、数多くのブランドを手掛けていますが、「簡単にはいかなくなってきたなぁ」と日々実感しています。
 複雑で変化の激しい今日のアパレル業界においては、過去ではなく、未来を探るための「仮説」と「検証」を行わなければなりません。
 「これから何が売れていくのか」と「仮説」を立てながら取り組んでいくことが重要なんですけれど、それは100%は当たらない。だからこそデザイナーの個性を強く打ち出しながら、それをいかに打ち破っていくかが大事なんじゃないですかね。

BP:アパレル業界向けの情報システムも、未来予測型のものが求められていると言えそうですね。
藤巻氏:
ただ、アパレル業界における未来の時間軸はどんどん短くなっています。先週売れたものと、今週売れているものとはまったく違いますからね。
 読みにくい未来の「仮説」を立てるわけですから、システムづくりはますます難しくなっていると思いますが、大塚商会さんをはじめIT業界からの画期的なアイデアに期待したいですね。

BP:福助の再生に当たっては、従来の仕事のやり方やシステムを抜本的に見直されたそうですね。
藤巻氏:
福助の社長に就任した当時は、旧式システムを継ぎ足し継ぎ足して使用しており、部署ごとの帳票もバラバラで、経営判断に必要な情報の集約すら困難な状況でした。そこで古いシステムをばっさりと切り捨て、最新の情報システムに入れ替えました。
 そもそも福助には、取扱商品の商品分類表すらありませんでした。色や柄、デザインなどをきちんと分類しなければ、どの種類の商品がどのような売れ方をしているのかを正確に把握することはできません。しっかりとした分類表を作ってシステムに入れ、売れ筋の「仮説」と「検証」を行うという当たり前のことから改革が始まりました。


「自分ブランド」が 企業の革新力になる
BP:一方で、「福助」ブランドの再構築には相当力を入れたそうですね。
藤巻氏:
福助は海外の有名ブランド品を受託生産するほど優れた製造技術を持ち、製品に対する信頼は非常に強かったので、それを軸にもう一度ブランドを打ち出していこうと考えました。
 そもそも福助は120年以上の歴史を誇る老舗です。僕はつねづね、ブランドとは「ヒストリー(歴史)」「ストーリー(物語)」「フィロソフィー(哲学)」であると言っているんですけど、働く人全員がその会社の歴史や物語、哲学をすべて語れて、はじめてブランドは確立されるんじゃないかと思います。
 過去のヒット商品は何だったとか、全盛期にはどういう宣伝をしたとか、そういう輝かしい歴史を掘り出して、社員のブランドに対する誇りを高めてもらいました。それが福助再生の大きなカギになったのではないでしょうか。
 自分たちの魂を商品に込めていくと、名前も、売り方も、どういう商品にするかということにも個性が出てくる。それがブランドだと思うんですよ。

BP:藤巻さんは、企業だけでなく、個人も「自分ブランド」づくりが大切だと提唱されています。「自分ブランド」づくりの意義と、その実践方法についてお聞かせください。
藤巻:
かつて伊勢丹でサラリーマンを経験した観点から言うと、社員が会社から言われたことをやっているだけでは、イノベーション(革新)なんてできないと思います。企業の発展のためには革新が不可欠ですが、そのためには社長がイノベーティブであるだけでなく、現場から生まれる社員1人ひとりの革新力が重要になってきます。
 大切なのは志です。僕の場合、係長のときは部長の気持ち、部長になったら役員のつもり、役員になったら社長のつもりといった感じで、現状よりも2〜3上のステージの志を持って仕事に立ち向かうことを心掛けてきました。
 存在感を周囲に明確にアピールすることも大切です。そのためには自分の強みをどんどん伸ばして、それをアピールしていかないと。
 「あいつにコレを任せておけば、間違いない」と周囲から一目置かれるようになること。それがその人のブランドになるんじゃないですかね。いま、没個性の人が多いんじゃないかと思うんです。

BP:革新力を育てるには、少しずつでも自分を変える努力をすることが大事だというのが藤巻さんの持論ですね。著書に「ネクタイや靴の色を変えるだけでもいい」というお話がありました。
藤巻:
人間は見かけも大事だと思っているんですよ。すごく有名なブランドの服や高い服を着るという意味じゃなくて、普段の身なりとか、立ち居振る舞いとか、作法、マナー、話し方とか、そういう基本的なこと。
 暗い顔をしている人には、誰も近寄りたいと思いませんよね。人間としての基本をしっかりとさせることも、「自分ブランド」を築くうえで大事です。


シンプルなメッセージが 「ブランド」を育てる
BP:不況の長期化とともに、ますますモノが売れない時代になっていますが、こういう時代に売り上げを伸ばすための有効な方法とは何でしょうか。
藤巻:
日本人は技術力がすごくて、モノづくりに長けている国民ですけど、PRが下手なんですよね。
 モノを売るためには、もっと自分の思いをメールで発信するとか、言葉の重みを大切にすることが大切な時代に差し掛かっているんじゃないですかね。
 企業ブランドも製品ブランドもメッセージじゃないですか。そのメッセージを、きちんと伝え続けることが大事じゃないかなと思います。
 僕も最近Twitterを始めたんですけど、こちらから送った情報に対していろいろな反応があって面白いですね。
 コミュニケーションというのはキャッチボールと同じです。互いに反応を確かめ合って、好奇心を刺激し合うとことから、新たな何かが生まれてくる。

BP:コミュニケーションを成功させるための秘訣は何でしょうか。
藤巻氏:
伝えたいことを素直に発信していけばいいんです。なるべく短く、わかりやすい言葉で、シンプルに伝える。
 シンプルというのは単純という意味ではなくて、「そぎ落とすこと」だと思うんです。たくさんある情報の中で、いちばん大事な幹の部分だけをきちんと伝えていくほうが、伝わりやすい。
 たくさんの言葉を盛り込まれると、「結局何が言いたいのかわからない」ってことがありますよね。単刀直入でいいと思います。そういう意味では、Twitterは有効なツールかもしれませんね。
 ツールの特性を考えながら、発信したい相手ごとに使い分けることも大切です。テレビCMや新聞広告だけでなく、ブログやTwitterなども有効に活用してみてはどうでしょうか。

BP:最後に藤巻さんの今後の活動予定について教えてください。
藤巻氏:
不況の影響で世間には暗いムードが漂っていますが、こういう時代だからこそ、生活を明るく楽しくできるような企画を、どんどん打ち出していきたいですね。
 また、地域ごとに埋もれている素晴らしいモノを探り出し、その良さを世界中に伝えていきたい。いい仕事をひたすら続けていくことで、日本に元気を提供できる1人になれればいいなと思っています。
 もちろん、わたし1人の力でできることには限界があります。賛同してもらえる企業や人と手を組み、一緒になって取り組んでいく。そうした出会いの機会を得るためにも、コミュニケーションはとても大切ですね。

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藤巻 幸夫氏
Y u k i o F u j i m a k i

◎ P r o f i l e
1960年東京都出身。大学卒業後、伊勢丹に入社。カリスマバイヤーとして多くの成功をおさめる。セブンアンドアイ生活デザイン研究所、福助の社長を歴任。現在では、日本をキーワードにしたブランド作りの仕掛け人として、日本のいいもの、いいひとをつなぐプロジェクトを推進。教育分野では、アカデミーヒルズ「日本元気塾」の講師や明治大学特任教授としても活躍している。



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世間の暗いムードを吹っ飛ばす! 藤巻氏の新たな挑戦
 人を巻き込むことで商品やサービスを成長させる藤巻氏は、あらゆるジャンルのクリエイターと活動を共にしている。
 生活を明るく楽しくできるような企画として、人気音楽ユニット、DREAMS COME TRUEの衣装なども手掛けるデザイナー丸山敬太さんと組んで、パソコンケースや化粧品、お菓子のパッケージなど、さまざまなモノをデザインするプロジェクトを展開している。
 さらに、ゆずや小夏、ツバキ油など天然の国産ハーブだけを使用した「rinRen(凛恋)」(写真左)というヘアケア・ボディケア用品をプロデュース。新たな日本発のブランドとして発信することにも取り組んでいる。

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【にっぽんの元気人】

・CS・ホスピタリティ総合プロデューサー 林田 正光 氏 【Vol.52】

・株式会社サイゼリア 代表取締役会長 正垣 泰彦 氏 【Vol.51】

・株式会社ペリエ 和田 裕美 氏 【Vol.50】

・経済評論家 勝間 和代氏 【Vol.49】



 
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