リクルートのトップ営業マンとして長年活躍し、現在はベンチャー企業の人事戦略コンサルティング企業の代表取締役を務める高城幸司氏。情報通信やインターネット関連サービスの営業経験も豊富な高城氏は、「技術の進歩とともに、新たなニーズとサービスが次々に登場するのがITビジネスの面白さ」だと語る。営業成績やビジネススキルを上げるための本も多数執筆している高城氏に、営業マンとして成功するための心構えや、お客さまとの接し方などについてのアドバイスをいただいた。
BP:高城さんはリクルートで長年トップ営業マンとして活躍され、その成功体験をもとに「考える営業」を提唱しておられます。具体的にはどういうことでしょうか?
高城幸司氏(以下、高城氏):いまの営業マンが置かれている状況は、2つの点でひと昔前と大きく変わっていると思います。1つはインターネットが普及して、お客さまが自分で情報を入手できるようになったこと。カタログに書いてあることをいちいち説明に行く時代ではなくなり、それ以外の部分に営業の価値が求められています。
2つ目は、営業マンに対する会社の管理が徹底してきたこと。昔は、結果さえ出していれば、個々の営業マンに自由な行動が許されたのですが、いまは「なぜその行動を取るのか」とか「なぜその会社を訪問するのか」といった目的が明確でないと、お客さまを訪問することすら難しくなってきました。
お客さまとの関係についても同じ。昔と違って、「ちょっと顔を出したいんですけど、いいですか」と言っても、お客さまは会ってくれません。訪問する目的をはっきりとさせて、それをお客さまに明確に伝えることが大切です。
自分をきっちりマネジメントしないと営業成績が上がらない時代なので、漫然と動くのではなく、1つ1つの行動に意味を持たせて動く必要があるわけです。これが「考える営業」です。
BP:なかなか会ってもらえないお客さまに、「会ってみたい」と思わせるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
高城氏:会う必然性を感じてもらうことが大切です。いまのお客さまは「面白い人間だから会ってみたい」というよりも、「この人間に会っておかないとマズイ」という理由からアポイントを受け入れてくれることが多いものです。
例えば、お客さまがある製品を使っていて、それよりも費用対効果の高い製品を扱っているサプライヤーを検討せずに意思決定したとすれば、上司に怒られます。より安い価格を提示する営業マンがいたら、会わないという理由はないですよね。お客さまに「この営業マンの情報を聞いておかないと、あとで自分がまずくなる」と思うようなものを、どのように提示するかがポイントです。
BP:相手に「会ってみたい」と思わせるようなネタを事前にしっかり調査しておくことが必要なのでしょうね。
高城氏:そこで大事なことが2つあります。1つは、その会社の誰をターゲットに据えるのかということ。
現場の担当者は、もし発注すれば自分の仕事が増えるだけなので「会いたくない」と言うかもしれません。
でも部長であれば、実務は関係ないので、「会社のためだったら」と訪問を受け入れてくれることもあるでしょう。
また、部長が「せっかくだから新しいものを導入したい」と思っても、経営者は「新しくなくていいから、安いものを導入したい」と言うかもしれません。同じ会社の中でも人や立場によって考えは違うわけです。誰かに「いらない」と言われても、その会社がいらないという意味ではありません。
とはいえ、最初から経営者にはなかなか会ってもらえないので、自分が直接会えるキーマンがどのように考えているのかを知ること。そのうえで、会社がどのような課題を抱えているのかを詳しく聞き出すことが大切です。
BP:「考える営業」を実践するうえでのポイントについて教えてください。
高城氏:例えば、電話によるアプローチの段階で、すべてを説明してしまって、お客さまに理解していただけるのなら、会いに行く必要はありません。この段階で大切なのは、お客さまに「会って話を聞きたい」と興味を持っていただけるように製品やサービスを魅力的にプロモーションすることです。細かいスペックではなく、まずは「こんなにコストダウンが実現します」「こんなに業務が楽になります」といったイメージを伝えることが大切。スペックの話から入ると、むしろ営業のチャンスを逃すことが多いものです。
BP:まずは興味を持ってもらうことが大切だということですね。
高城氏:お互いが信頼関係を築き上げていくまでのプロセスにおいては、細かいことを話すのではなく、「いい会社みたいだな」とか「面白い人だな」「面白い提案を持ってきてくれそうだな」と相手の期待値を高めていくようなアプローチを心掛けます。
その中で、お客さまの課題を探り出し、何度も訪問して、ひと通りのお話をうかがったら、話題を絞っていきます。「広げる」段階から「絞る」段階へと上手に切り替えることが大切です。
BP:高城さんは著書の中で、「営業力とは『製品力』『会社のブランド力』と『自分力』の組み合わせである」と書いておられますが、製品力やブランド力が弱い中で営業を成功させるにはどのようにすればよいのでしょうか?
高城氏:現実問題として、他社ではまったく取り扱っていないとか、当社でしか買えない製品というのは案外少ないものです。そのとき、業界1位の会社と下位の会社とでは、相手の対応が違ってきますよね。
ある程度知名度のある会社で、製品力も高ければ、会社や製品の実績を前面に出していく正攻法でいいと思います。逆に、まったく知名度がない場合は、「今回は会社ではなく、わたし自身が考えてきたプランです」といったように「自分力」を前面に出していく方法もあるでしょう。
提携先のブランド力を借りるのも方法です。わたしの経験談で言えば、1987年にリクルートに入社して18年勤務しましたが、若いころはリクルートのブランド力が弱く、「リクルート事件」などもあって営業に苦労したものでした。そこで、知名度の高い大手商社と組んで、その推薦をもらいながら営業成績を上げたこともあります。
BP:営業力を高めるために必要なことは何でしょうか?
高城氏:個人としての営業力を高めるためには、積極性が非常に大事です。
アプローチする前から「この仕事はうまくいきそうにない」とか「以前、あの人が営業に行ってダメだったから、多分だめだろう」とか「去年もコンペで負けたし」と後ろ向きになる人も多いですよね。無口とか口下手といった本来のパーソナリティーは横に置いて、お客さまに対して積極的に行動する自分を演じることが大事です。
2つ目は、聞く力を磨くこと。ただ耳を傾けるだけでなく、お客さまからいかに話していただけるようにするか。一方的に話すのではなく、聞くために質問する力が求められます。
3つ目は、そうした営業のプロセスに楽しみながら取り組むこと。営業の仕事を通じて「自分は成長している」という意識を持ち続けることです。
「毎日同じことの繰り返しで、全然成長できない」とか、そもそも営業の仕事はあくまで長いビジネスマン人生の一部であって、「将来、別の部署や、もっと上のポジションで活躍するための通過点にすぎない」といった考え方の人も多いようです。でも嫌々やっていると、仕事って来ないですよね。
営業という現場のキャリアを充実させようと意識しながら仕事をすると、「この人に頼んでみようか」ということで、仕事が自分に集まるようになるし、お客さまとの信頼も構築できます。その結果、営業成果が上がって仕事が楽しくなる。すべてがうまく循環していくわけです。
BP:「考える営業」を実践するには、時間の使い方も大切なのでしょうか?
高城氏:「考える」と言っても、訪問する会社を調べるのに1日3時間以上もかけていたら、仕事が回らなくなりますよね。1日20件のお客さまを回る営業マンなら、60時間もかかることになるのですから、不可能です。それぞれに与えられた時間の中で、いかに集中して考えるかが大切なのです。
「考えなさい」というと、「時間がない」という人がいます。でも、30秒の時間さえない人っていないじゃないですか。朝30分早く出社するとか、昼食を食べながらでもいいですし、やり方はいくらでもあると思います。細切れの時間をうまく使うことです。
BP:高城さんはビジネス・コミュニケーションに関する本も多数書いておられます。「ゆとり世代」の社会進出が話題となっていますが、これから社会に出てくる若者たちを活用するためのヒントをいくつか教えてください。
高城氏:彼らに求める努力が、会社のためではなく、1人ひとりの個人のためにあるのだということを伝えてみてはどうでしょうか。たとえばかつては、「うち(会社)の今年の目標は売上10%アップと決まっているから、お前頑張れよ」とか「いま、うちの部の業績は社内で3位だから、頼むよ」といった会社や組織のための叱咤激励が通用したものですが、会社よりも自分自身の成長や働きがいに関心のあるいまの若者たちには理解できません。
「お前の範囲でこんなふうに努力してくれると、チームとしてこうなる」と伝え、その中でいかに自分の役目が大事であるかということを理解してもらうのが効果的です。全体の目標を達成するために、個人目標を達成させることの大切さ、それが本人の成長にどれだけプラスになるのかを明確に伝えてみましょう。
BP:最後にIT機器やソリューションの営業現場で活躍する本誌読者の皆様に応援メッセージをお願いします。
高城氏:クラウドが新しい潮流として注目を集めているように、ITの進歩に終わりはないと思うんですよね。つねに新しいサービスやソリューションが登場して、ビジネスのチャンスもどんどん変化していく。それがいちばん面白いところかなと思っています。
お客さまに今日は何も提供できなくても、来年は何かできるかもしれないわけですよ。だから、一度会ったお客さまとの縁は大切にすべきです。「昨日おじゃましたときには無理だと申し上げたんですけど、社に戻って技術担当者に聞いたら、できると言われました」ということがよくあります。
新しい技術やサービスが出てきたときに、自分がいままで会ったお客さまの顔を思い浮かべて、「これって、もしかしたらあのお客さまに役立つかもしれない」と思い浮かべること。つねに自分がいままで訪問した企業や、お客さまの顔をイメージしながら、新サービスやソリューションとの接点を探っていくことが大事だと思います。
|