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2014年7月時点の情報を掲載しています。
昨年あたりから、テレビや新聞などで「3Dプリンター」に関する話題がよく取り上げられるようになってきた。5月上旬には3Dプリンターで自作した銃2丁を所持していたとして、27歳の男性が銃刀法違反の容疑で逮捕され、大きなニュースとなった。
3Dプリンターとは、その名の通り、3D(3次元)の物体を出力(造形)可能なプリンターである。一口に3Dプリンターといっても、造形方式によって、機器の価格や出力可能な素材、精度などは大きく異なる。3Dプリンター自体は、決して新しい技術というわけではなく、製造業では、RP(ラピッドプロットタイピング)装置として、20年近く前から使われているのだ。しかし、数年前に構造が単純で低価格化しやすい熱溶解積層方式の基本特許が失効したため、安いものでは数万円といった低価格3Dプリンターが続々と登場するようになり、「モノ作り革命」などと喧伝されるようになったのだ。しかし、低価格なパーソナル3Dプリンターを利用すれば、誰もがメーカーになれるというのは大きな誤解である。熱溶解積層方式では、ABS樹脂やPLA樹脂を糸状にしたフィラメントを熱で溶かし、プラットフォームの上に一層ずつ積み上げていくことで造形を行う。ちょうど、ソフトクリームを作るようなイメージだ。そのため、材料は熱に弱いプラスチックしか利用できず、色も基本的には1色になってしまう(20万円を超える製品では2色あるいは3色で造形できるものもある)。つまり、パーソナル3Dプリンターで作れるのは、スマートフォンのケースのような、内部に電子回路や機構を持たない、ガワだけなのだ。強度についても、金型を使って射出成形されたものに比べるとかなり劣り、造形誤差0.1mmといった精度を実現するのは困難だ。もちろん、業務用の3Dプリンターでは、金属粉末を焼結したり、紫外線硬化樹脂を使うものなど、さまざまな方式があり、より高精度で丈夫な造形が可能なものもあるが、数百万円から数千万円以上もする大型機器であり、個人やSOHOレベルで購入できる代物ではない。
現状のパーソナル3Dプリンターは、PCの歴史に例えると、8ビット時代のマイコンに相当する程度の製品であり、買ってすぐ実用的に利用できるというものではない。しかし、マイコンの登場から10年程度で、ビジネスに役立つPCへと進化したように、3Dプリンターの可能性は大きい。現在のパーソナル3Dプリンターの多くは海外製であるが、日本でもキヤノンやローランド ディー.ジー.といったプリンタや加工機器のノウハウを持つメーカーが、3Dプリンター開発に力を注いでいることを表明しており、年内あるいは来年に製品が登場する可能性が高い。3Dプリンターをフルに活用するには、3D CADソフトや3D CGソフトに習熟する必要があるが、3Dプリンタの進化と普及にともない、それらの3Dソフトおよび高性能ワークステーションなどの需要が高まることも予想される。また、3Dプリンターと3Dスキャナーを活用することで、人物の記念写真ならぬ記念フィギュアを作成するサービスも登場しており、他にも3Dプリンターの特性を活かしたさまざまなビジネスアイデアが出てきそうだ。例えば、3D Systems社からは、砂糖を材料として利用し、食べられる砂糖細工を出力できる3Dプリンター「ChefJet」も発表されている。オリジナルな形状のお菓子を作って、結婚式の引き出物に使ったり、子どもの落書きをお菓子にするといったビジネスも考えられる。また、医療分野においても、一人一人の身体にあわせたギブスを作ったり、人工骨を作るといった応用が考えられる。
5月15日には、CADベンダーの最大手として有名なAutodesk社が、3Dプリンタ市場に参入し、3Dプリンターの開発・販売を行うというリリースを発表している。同社が3Dプリンター市場の将来性を高く評価していることの表れであり、今後も多くの企業が3Dプリンター市場やその関連事業に参入することが予想される。
text by 石井英男
1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。
3D Systems社から発売予定の3Dプリンター「Chefjet」による砂糖細工の出力例。
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