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2015年7月時点の情報を掲載しています。
TransferJetという言葉を聞いたことがあるだろうか?TransferJetは、元々ソニーが開発した近接無線通信技術であり、通信距離が3cmと短い代わりに、560Mbps(物理層の理論値。実効レートは最大375Mbps)という高速通信が可能なことが特徴だ。TransferJetの最大の魅力は、対応機器同士をかざすことで自動的に機器同士の接続が確立され、通信が開始されるという、直感的で分かりやすい操作を実現していることだ。通信距離が短いことはデメリットにも思えるが、通信距離が短いことを活かして、こうした使い勝手のよさとセキュアな通信を両立させているのだ。無線通信技術の一種ではあるが、通信距離をあえて短くすることで、他の無線システムとの干渉を防いでいるのだ。また、同じ部屋で複数のTransferJet対応機器を同時に動作させても、性能低下が起きないというメリットもある。TransferJetは、誘導電界を用いたカプラを利用することで、近距離では高い利得を得ながら、離れると急激に減衰するという特徴を実現している。なお、最近は、NFC(Near Field Communications)と呼ばれる非接触通信技術も注目を集めているが、NFCは非接触ICカードをベースにした技術である。通信速度はTransferJetのほうがNFCの約1000倍も高速であり、NFCとは競合せず、共存できる技術だ。
ソニーがTransferJetを発表したのは2008年1月7日であり、同日より米国で開催されたCES Internationalで参考展示が行われた。さらに、2008年7月にTransferJetの相互接続仕様確立に向けたTransferJetコンソーシアムが設立された。TransferJetコンソーシアムには、ソニーや東芝、富士通、KDDIなどの大手メーカーを中心に26社が加盟している(2015年6月時点)。しかし、TransferJetの発表から7年以上が経過しているが、残念ながら当初の期待通りに普及が進んでいるとは言い難い状況だ。2010年には、ソニーがTransferJet対応デジタルカメラやTransferJet対応PC、TransferJet対応メモリースティックなどを発売し、その後、他社からも対応製品が発売されているのだが、肝心のソニーがTransferJet対応製品の販売をやめてしまったこともあり、このまま主流にならずに消えて行くのかと思われていた。技術的には優れた仕様であるが、対応機器が少なく、そのため量産効果が見込めず、コスト的にも高く付いてしまっていたのだ。
しかし、その状況も変わりつつある。ソニーに代わってTransferJetの普及に力を入れている東芝は、2013年にTransferJetアダプタ(USB対応とMicro USB対応の2製品)を発売し、TransferJet経由でのPCとAndroidデバイスとのデータ転送が容易に実現できるようになった。さらに、富士通は、2015年5月18日に開催された2015年夏モデルの発表会において、NTTドコモ向けスマートフォン「ARROWS NX F-04G」にTransferJetが標準搭載されていることをアピールした。その発表会にゲストとして招かれた東芝の担当者が、2015年夏にTransferJet搭載SDカードを発売する予定を明らかにした。TransferJet搭載SDカードを利用すれば、既存のSDカード対応デジタルカメラでも、TransferJetによる高速なデータ転送が可能になるので普及へのハードルがぐっと低くなるだろう。
また、4K動画やハイレゾ音楽などに代表されるコンテンツの大容量化を見据え、TransferJetのさらなる高速化への検討が開始されている。現行のTransferJet規格は中心周波数が4.48GHzで、転送速度は560Mbps(理論値)だが、中心周波数60GHzで転送速度10Gbps以上を実現する次世代規格の策定が進んでいるほか、その中間的な仕様として、中心周波数は同じ4.48GHzのまま、変調方式の改良などによって2Gbpsを実現する規格も策定中とのことだ。考えてみれば、Bluetoothも登場から普及までにはかなりの期間を要した。日本発の優れた近接無線通信技術であるTransferJetも、これからが普及への正念場なのであろう。
text by 石井英男
1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。
TransferJetに対応した富士通のスマートフォン「ARROWS NX F-04G
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