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にっぽんの元気人
2015年7月時点の情報を掲載しています。

「思いやり」が人を育て、会社を成長させるディズニーで学んだ ホスピタリティの大切さ
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドやその関連会社で人事、社員教育を長く経験し、『9割がバイトでも最高の感動が生まれるディズニーのホスピタリティ』(中経出版)などのベストセラーを数多く執筆した研修プランニング&インストラクター&コンサルタントの福島文二郎さん。ディズニーのキャスト(スタッフ)たちが発揮するホスピタリティ精神は、人を育て、会社を成長させる力として、あらゆる企業に生かせるという。ホスピタリティの大切さやその根付かせ方について聞いた。


ホスピタリティは企業のブランド力を高める
BP:福島さんは、東京ディズニーリゾートで長年、人事や社員教育のお仕事に携われたそうですね。ディズニーと言えば、何と言ってもキャスト(アルバイト、正社員)の方々の笑顔と真心のこもった「おもてなし」が印象的です。

福島氏:
キャストの方々による心のこもった接遇は、ディズニーが心掛けている「ホスピタリティ」の基本です。
 ホスピタリティは、日本語の「おもてなし」に近い言葉ですが、わたしは「相手に対する主体的な思いやり」という意味に解釈しています。ディズニーは、何よりもホスピタリティを重んじ、どんな相手やいかなる状況でも、つねに相手の気持ちになって考え、思いやりを持って行動するように、すべてのキャストを教育しています。
 ディズニーに限らず、あらゆる企業や組織にとって、ホスピタリティを重んじることは非常に大切だと思います。

BP:ホスピタリティを大切にすることは、企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?

福島氏:
まずお客さまに対しては、企業の信頼力やブランド力を高めることに結び付きます。思いやりを持って接してもらえば誰も悪い気分はしないですよね。信頼が高まれば、提供する商品やサービスへの評価も高まり、中長期的に売り上げや利益も上がるはずです。
 実際、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの売上高は1983年の東京ディズニーランド開園以来、32年間で約4倍になりました。
 もちろん営業努力もあったわけですが、キャストの皆さんがホスピタリティを発揮して、「ディズニーに行くと、いつも楽しく、気持ちよく過ごせる」という評判を築き上げてくれたことが、成長の土台となっているのです。
 また、ホスピタリティはお客さまのためだけでなく、働く人のためにもなります。上司から部下、アルバイトの先輩から後輩、あるいは同僚同士が、互いに相手を認め合ったり、褒め合ったりすると、それがやりがいや達成感をもたらして、「もっと認められたい」「もっと知識や技能を磨きたい」という向上心に結び付きます。
 そうして一人ひとりの思いやりのこもった行動に磨きが掛かれば、ますますお客さまからの信頼が高まります。
 わたしは、ES(従業員満足)を高めることがCS(顧客満足)向上のための大原則だと思っていますが、まさしくそうした好循環が生まれるのです。

ディズニーの使命を支える4つの行動指針
BP:お客さまを思いやれる人材を育てるには、どのようなことに取り組んだらいいのでしょうか?

福島氏:
人を思いやる気持ちは、思いをきちんと表現し、行動しないことには相手に伝わりません。
 ですからディズニーでは、正社員もアルバイトも、入社後の研修において基本的なあいさつの仕方や、敬語、婉曲話法の使い方などをしっかりと学んでもらいます。
 ディズニーには、ウォルト・ディニーが1955年に米国カリフォルニア州に最初のディズニーランドを開園して以来、60年にわたって一貫しているミッションがあります。それは「すべてのゲスト(お客さま)にハピネス(幸福)を提供する」というものです。
 そして、このミッションを果たすために、すべてのキャストが取り組むべき行動指針として、@安全性(Safety)、A礼儀正しさ(Courtesy)、Bショー(Show)、C効率(Efficiency)の4つ(以下、SCSE)を掲げています。
 つねにこの4つを心掛けてお客さまと接することが、お客さまに対する思いやりにつながり、「すべてのゲストにハピネスを提供する」というミッションの実現に結び付くのです。

BP:4つの行動指針について、もう少し詳しく教えてください。

福島氏:
SCSEの中でも、とくにホスピタリティと密接にかかわっているのがAの礼儀正しさです。言葉遣いや態度は、相手の気持ちに大きく影響するものですから、先ほども述べたようにあいさつや敬語の使い方はしっかりと学ばなければなりません。
 ただし、それぞれのお客さまにどのように接すればいいのかというのは、そのときの状況によっても異なります。ですから、お客さまとの接し方については、ディズニーではいっさいマニュアルを設けていません。だからこそ、お客さまのお望みやお困りごとを察して、その都度柔軟に対応できる「思いやり」の心が求められるわけです。
 繰り返しになりますが、スタッフの一人ひとりがホスピタリティの精神を持ってお客さまと接し、行動することが大事なのです。

BP:その他の行動指針も、ホスピタリティと関連するのでしょうか?

福島氏:
例えば@の安全性ですが、安全で過ごしやすく、衛生的な環境を提供することは、お客さまのことを思いやる大切な取り組みです。
 また、Bのショーはたんなる演目という意味ではなく、ディズニーでは、施設やキャスト、あらゆる出来事など、ディズニーリゾート内のすべてのことを指します。お客さまが見て、触れて、味わって、体験するもののすべてがショーなのです。
 そのショーのすべてを完ぺきにこなして、お客さまにハピネスを感じていただくことも、ディズニーにとっての思いやりなのです。
 そうした幸福感をお届けするためにも、キャストたちはしっかり勉強する必要があります。なぜなら、多くのお客さまは、映画や絵本などで親しんだディズニーの世界観を持って来園されるからです。ですから、ディズニーのアルバイトや社員の導入研修では、ディズニーのこれまでの歴史や世界観についても学んでもらいます。
 最後にCの効率性ですが、お客さまをお待たせしないようにアトラクションをできるだけスムーズに運営したり、お客さまが迷わないように誘導したりすることも大切な思いやりです。
 余談ですが、東京ディズニーリゾートの運営は、世界中のどのディズニーランドにも負けないほど高い効率性を持っていると思います。
 例えば、東京ディズニーランドの人気アトラクションであるスペースマウンテンは、運行するコースターの回数が海外のディズニーランドよりも多い。これは、日本のキャストのほうが短時間で、より多くのお客さまをコースターに誘導できるからです。
 効率性や、サービスのきめ細かさ、施設のメンテナンスがしっかり行われている点などでは、東京ディズニーリゾートは世界のディズニーの中でもトップクラスと言えるでしょう。

おカネと時間を掛けても根付かせる価値がある
BP:お話をうかがっていると、SCSEの考え方はディズニーだけでなく、ほかの企業にも応用できそうですね。

福島氏:
ディズニーに限らず、あらゆる企業においてホスピタリティは企業の信頼やブランドを高め、成長をもたらす力になると思います。
 ただし、社内にホスピタリティを定着させるには、そのための人事制度や教育制度、表彰制度といった仕組みづくりが必要ですし、それなりのおカネと時間がかかります。実際、ディズニーやオリエンタルランドも、これまで数十年にわたる歳月と膨大な予算を掛けて、ホスピタリティを社内に根付かせることができたのです。
 じっくり時間を掛けて制度を作っても、なかなか思ったような効果が表れないものです。部分修正を加えたり、まっさらから作り直したりと、スクラップアンドビルドを重ねながら整えていくしかありません。

BP:効果の表れにくいものには、あまりおカネや時間は掛けたくないと思う会社もあるかもしれませんね。

福島氏:
確かに日本の企業の多くは、どうしても短期的な利益ばかりに目が行ってしまい、中長期を見据えた投資はおろそかにしがちです。
 しかし、おカネと時間を掛けてでも社内にホスピタリティを根付かせると、それは会社の中長期的な成長を支えてくれる頼もしい礎となるはずです。
 例えば、経営判断や意思決定のミスによって一時的に業績が下がったり、経営者が不祥事を起こしたりしても、社員にホスピタリティ精神が根付いている会社なら、何とか持ちこたえることができるかもしれません。
 なぜなら、お客さまは普段、経営者と接しているのではなく、最前線の営業担当者やサービス担当者と接しているからです。
 現場の方々が普段から思いやりを持った接客やサービス対応を行っていれば、会社に対する世間の評判はそう簡単に崩れ去るものではありません。
 ホスピタリティを根付かせるのには時間が掛かりますが、一度根付いてしまえば強固な礎となるのです。

BP:ホスピタリティを定着させる仕組みづくりとして、具体的にどのようなことから取り組んだらよいと思われますか?

福島氏:
まずは、それぞれの企業がこれまで培ってきた伝統や文化に合わせて、それに共感してもらえるような人事制度や教育制度を作ってみてはどうでしょうか。もちろん、すぐに期待どおりの効果が出るとは限りませんので、先ほども述べたようにスクラップアンドビルドを重ねながら、制度に磨きを掛けていくべきだと思います。
 制度づくりにおいて大切なのは、会社が社員に持ってもらいたいと考える価値観を一方的に押し付けるのではなく、社員の思いも汲み取って、互いに共有できるようにすることです。
 ちなみに東京ディズニーリゾートにおける入社から各部署への配属までの教育制度を簡単に紹介すると、まず導入研修でディズニーの歴史や世界観、ミッション、行動指針などについて理解してもらいます。
 一通りの知識を学んでもらったところで、次に待っているのはウェルカムイベント。「わたしたちの仲間になってくれてありがとう」という感謝の気持ちを込めて、ゲストをお迎えするのと同じようにおもてなしします。
 まずはこれらの教育やイベントを通じて、ディズニーの価値観やホスピタリティの大切さをしっかり共有してもらうのです。
 その後、配属される各部署でもウェルカムイベントが行われ、ひととおりの歓迎が終わると、ようやく具体的な業務内容の研修、OJTへと進みます。部署によって異なりますが、入社から業務開始まででおよそ5〜6日といったところでしょうか。この流れは、正社員もアルバイトもまったく同じです。

BP:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。

福島氏:
繰り返しになりますが、ホスピタリティを根付かせれば、企業の成長を中長期にわたって支えてくれる頼もしい礎となります。それを築き上げるためには、お客さまや社内の人々にホスピタリティマインドを発揮できる人材を継続的に育て上げていくことが非常に大切です。
 おカネと時間はかかるかもしれませんが、ぜひ前向きに検討してみてはどうでしょうか。

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JSパートナー株式会社 代表取締役
福島文二郎氏
Bunjiro Fukushima

◎ P r o f i l e
1962年生まれ。東京ディズニーランドがオープンした1983年に第1期の正社員としてオリエンタルランドに入社。初めての配属先はジャングルクルーズ(運営部)。その後、人事部ユニバーシティ課(ディズニー教育)、株式会社イクスピアリ(東京ディズニーリゾート併設のテーマ型ショッピングセンター)の総務部人事課など、社員教育畑を経て、商品企画室(社員教育の担当部署)に配属。2007年の退社までディズニーの研修を100プログラム以上開発する。また、開発の傍ら研修能力を高めるために放送大学にて心理学を学ぶ。退職後は、研修プランニング&インストラクター&コンサルタントとして活躍し、2009年にJSパートナー(株)を設立。サービス業だけでなく電力会社やメーカーなど、業種を問わない社員教育研修を行っている。初の著作『9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』(中経出版)が50万部を超えるベストセラーに。






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・フリー・アナウンサー 福澤 朗氏 【Vol.79】

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・作家/エッセイスト 阿川 佐和子氏 【Vol.76】


 
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