女性の営業職の育成をミッションとして、延べ4万5000人以上の働く女性を支援してきた太田彩子さん。営業女子のためのコミュニティ「営業部女子課」を主宰するなど、働きながら輝く女性を応援する活動を幅広く行っている。そんな太田さんの最新刊『折れない営業女子になる7つのルール』(かんき出版刊)には、営業女子がぶつかりやすい壁とその乗り越え方についてのヒントが満載されている。ひと言ひと言に元気が詰まった太田さんの応援メッセージに耳を傾けてみよう。
BP:太田さんの著書『折れない営業女子になる7つのルール』を拝読しました。まずは、この本で伝えたかったことについてお聞かせください。
太田氏:タイトルのとおり、営業職として活躍する女性の方々を応援するために書いた本です。
ご承知のとおり、営業のフロントラインで活躍する女性はここ数年増えていますが、長い間、男性中心の職種だったこともあって、頑張ってはいるけれど、どこかで壁や限界を感じている営業女子がとても多いです。
そして、「やはり営業は男性的なハードワークだよね」とか、結婚や出産を機に「両立が難しい」と言って辞めてしまう。それを何とか、折れずに続けてほしいという気持ちを込めて書いたのがこの本です。
辞めてしまったらそこで終わりですが、つらさを乗り越えていければ、もっと自分が輝き、新しい可能性もどんどん切り拓いていけると思います。
なので、つらさから逃げるのではなく、どう向き合い、いかに気持ちを切り替えれば、心が折れずに乗り越えていけるかというヒントを7つのルールにまとめてみました。
BP:大塚商会の女性営業職にも社内研修をされたことがあるそうですね。
太田氏:御社から、「女性営業職の方々が、これからも長く活躍していけるようなメッセージを伝えてほしい」というご依頼をいただいたのがきっかけです。わたしはライフワークとして営業女子を応援しているので、「少しでお力になれれば」ということで快諾させていただきました。
お話をしながら、御社の営業女子の皆さんは、「みんな仕事が大好きで、強い意志を持って取り組んでいらっしゃるな」と強く感じました。
ただ、これは御社に限った話ではなく、一般の営業女子に共通することですが、「仕事が大好きで、働き甲斐も感じているけれど、不安でしょうがない」という声をよく聞きます。
いろいろな原因があると思いますが、とくに不安の大きな要因となっているのは「上を見ても、自分の将来を示してくれるロールモデルがいない」ということです。男性であれば、上を見れば多様なリーダーがたくさんいるので、「ああ、自分もこうやって昇進・昇格していくんだな」というイメージがわくと思います。でも女性の場合、若い世代には営業職がたくさんいますが、中堅以上になると一気に減ってしまう。上の先輩たちの多くが辞めてしまうので、「やっぱりわたしもこのままだと、辞めざるを得ないのかな」と思ってしまって、くすぶっている女性が多いですね。
BP:そうした方々にどのようなアドバイスをなさっているのでしょうか。
太田氏:自分の将来やキャリア構築について、毎日毎日、「自分はいまどこにいて、何がアイデンティティで、どういう道を歩いていきたい」なんて考えている人は少ないですよね。その時々の目の前の仕事をこなすだけで精一杯のはずです。でも、何かの節目ごとに考えることは大切です。例えば、ふと立ち止まったときに不安を感じてしょうがない。そういう時こそ、「自分はどうしていきたいか?」ということを真剣に考えるべきだと思います。
これから先、どうすれば自分らしくいられるのか。どんな選択をすれば自分の強みをもっと伸ばすことができるのかということを節目ごとに考えていただきたいですし、なければ自分で作り出すしかないと思いますね。
BP:本の中でとくに印象深かったのは、「あきらめる」という行為を否定的ではなく、前向きにとらえてはどうか?というアドバイスでした。
太田氏:「あきらめる」というのは、何もネガティブな意味ではなく、「選ぶか、選ばないか」というだけということを伝えたいと思いました。
植物を剪定するのも、不要な枝を切ることによって、ひとつの大輪の花を咲かせたり、大きな実を結ばせたりすることにつながるからですよね。
同じように、より美しく、実りの多い人生を手に入れるためには、不要な物事を「あきらめる」ということも大切なのだと思います。
BP:もうひとつ、太田さんが取材したコールセンターのオペレーターの方が、相手から電話をガチャンと切られたときに、「ありがとう」という気持ちを持つようにしているというのも、目からうろこが落ちるエピソードでした。
太田氏:あるオペレーターの方の手記に書かれていたエピソードです。普通だったらカッとなる場面かもしれませんが、逆に「ありがとう」という気持ちになるというのは、いかにも女性らしいですよね。
嫌々付き合っていただいて時間を浪費するぐらいなら、最初から切っていただいたほうが、貴重な時間をほかの大切なお客さまに割り当てることができる。なので「ありがとう」と感謝するというのは素晴らしい考え方だと思います。この例のように、考え方や向き合い方をちょっと変えるだけでも、折れない心を持つことができるのです。
BP:心折れずに仕事を続けた先には、「いずれは管理職」という選択肢も待っています。ただ、女性の場合、必ずしも管理職やリーダーになることを望まない人が少なくないようですが。
太田氏:できることなら、リーダーという新しいキャリアをつくっていく道は、選択肢のひとつとして考えてほしいと思います。誰かを導いていくという立場になることは、必ず自分の経験値を上げてくれるからです。
いままでのリーダー像は、男性で、長時間労働で、人生を捧げて身を粉にするようなイメージだったと思います。でもこれからは、時短のリーダーだってありうると思いますし、ワーキングマザーとか、介護などの制約のある人がリーダーとして活躍する機会がますます増えるはずです。
実際に自分がそういう地位になってみると、その先に見える景色が変わると思います。実は、そういう選択に迫られるときが人生の節目ですよね。ターニングポイントに差し掛かると、どうしても人間は悩むものですが、そういうときに怖がらずに、新しい一歩を踏み出してほしいと思います。
BP:太田さんは、頑張っている営業女子たちを応援するコミュニティ、「営業部女子課」を主宰しておられますね。
太田氏:おかげさまで、無料会員を含めて全国で2500名以上の営業女子の方々が登録しています。
どんな方でも大歓迎ですが、せっかく参加していただくのであれば、何か目標を持って入っていただきたいですね。例えば、「仕事で結果を出したい。そのために『営業部女子課』のネットワークを通じて社内だけでは得られないノウハウや他社の状況を知りたい」という目標でもいいと思います。
もしくは「自分の目指すキャリアを達成するには、営業女子としてどんなことをやればいいのか」といった展望を探しに参加する方もいらっしゃいます。よくわたしは「営業女子は達成女子を目指そう」と言っていますが、会員の皆さんの達成願望がこのコミュニティを通じてかなえられたらいいなと思っています。
BP:会員の方の中には、地域への社会貢献を積極的に行っている方もいらっしゃるようですね。仕事とプライベートに加え、地域のことにも積極的にかかわるというのは素晴らしいことですが、3つのことを同時にやるのは、なかなかパワーがいると思います。
太田氏:もともと「営業部女子課」は、「女性の営業力をもって日本の社会の発展に貢献する」というミッションを持っています。
わたしたちがせっかく持っている「売る力」を、自分たちのためだけでなく、地域のため社会のためにも還元していきたい。
例えば、地域の伝統商品を「わたしだったらこういうふうに売る」とか、地方
治体とタイアップして、「もっと地元を盛り上げるために、女性にこんなふうに活躍してもらいましょう」というイベントを行ったりしています。
そうした活動を通じて、最終的には、わたしたち営業女子に対するイメージを変えていきたいと思っています。
営業と言うと、どうしても昔ながらのゴリ押し営業とか、男性中心とか、根性論といった、若い女性たちから敬遠されるようなイメージを持たれてしまうのですが、それを変えるべく「営業女子は、「かしこカワイイ女子」を目指そう」というキャッチフレーズを掲げて、営業女子の人口そのものを増やしていきたいと思っています。
BP:「営業部女子課」に限らず、社会を変えるさまざまな活動を行っていきたいという目標を持っておられるそうですね。
太田氏:いまは営業女子の活躍を応援していますが、そもそもは社会におけるマイノリティ(少数派)の存在をマジョリティ(多数派)に変えていくことが自分の使命だと思っていて、さまざまな活動を考えています。
営業女子も営業職全体の2割前後といわれている典型的なマイノリティですが、少数派だと、どうしても「悩みがあっても解決できない」とか「声を上げてもなかなか届かない」という壁にぶつかってしまいがちです。
届きにくい声を何とか代弁して、それによって社会をよくしていこうよという活動を進めているわけです。それによって、日本をもっと元気にしたいと考えています。
皆さんが働くということを通じて、何かしらの力を発揮できるようになっていただくために、微力ながらお役に立ちたいと考えています。
BP:最後に本誌の読者にメッセージをお願いします。
太田氏:キャリアの発達に終わりはありません。先ほど「あきらめる」というのは、決してネガティブなことではないと言いましたが、「何歳だから無理」とか、「結婚や出産をしたからもうできない」などと思い込むのは、悪い「あきらめ」だと思います。つねにチャレンジする気持ちだけは、あきらめずに持ち続けてほしいですね。
わたしの場合も、組織人を辞めて一度独立したのですが、また組織に戻っています。40歳手前になって、「これからどういう人生を歩んでいこうか」と考えたときに、やっぱりもう一度組織に戻って、思いっきり組織の力を借りて貢献していこうと思ったわけです。そういう人生って、自分の意思次第でいくらでも選べるので、人間は一生成長できると思います。だから、何かチャンスが来たときは、それを「必ず掴み取る」というくらいの勇気を持って飛び込んでほしいと思います。
いまの立場が安定していればいるほど、人間は「現状を変えたくない」という気持ちが強くなるものですが、それでも何となく気持ちがくすぶっているとすれば、そこが人生の節目です。そういう節目のときは、自分と真剣に向き合って、一歩を踏み出してほしいと思います。
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