2017年、急速にA(I 人工知能)の活用が進んでいる。現在実用化されているAIは大きく三つに分類できる。一つ目が制御プログラムの延長としてのAI、二つ目が第二次AIブーム後のテクノロジーを基盤としたAI、そして三つ目が機械学習を取り入れたAIだ。特にディープラーニングによる機械学習を取り入れたAIの発展は目覚ましく、対話型の課題解決ソリューションとして導入事例が数多く発表されている。将来的には、SIerの仕事を奪うかもしれないと言われるAIについて、現在の立ち位置を紹介する。 |
今年4月、富士通は以前から開発を続けてきたA「I Zinra(i ジンライ)」のクラウドベースのAPI提供を開始した。2017年9月現在、画像認識、手書き文字認識、音声テキスト化、音声合成、知識情報構造化、知識情報検索、予測といった基本APIと、専門分野別意味検索、需要予測、FAQ検索、対話型BoTといった目的別APIがあり、同社は今年中に30種のAPIを投入する予定という。
さらに同社は5 月に、コールセンターへの問い合わせにA Iチャットで自動応対するシステムやNVIDIAのGPU「Tesla P100」を搭載したディープラーニング基盤システムの販売を開始。矢継ぎ早の展開は、ライバルがひしめくAI市場に大きな商機があると判断したからにほかならない。発表以来同社には数多くの問い合わせが寄せられているというが、その背後に長年のシステム開発の実績があることは間違いない。
AI市場に参入したベンダーは富士通だけではない。例えば日立ソリューションズは今年7月、働き方改革をトータルに支援する「日立ワークスタイル変革ソリューション」を発表しているが、その主要な課題の一つである生産性向上においてマイクロソフトのSkype for Business上で稼働するAIチャットボット「AIアシスタントサービス」を活用している。
コンシューマー市場まで目を広げると、AIという言葉が至るところで使われ、まさにブームの様相を呈している。いよいよ本格的なAIビジネスがスタートしようとするいま、まずはAI利用の概況を整理しておく必要があるだろう。
現在実用化されているAIは、大きく三つに分類することができる。一つは既存の「制御プログラムの延長」としてのA I。家電製品に搭載されるA Iの大部分はここに含まれる。次が第二次AIブーム後のテクノロジーを基盤としたAI。1980年代のAIブームでは、専門家の判断をマシンに置き換えるという方向でAI開発が進んだ。「エキスパートシステム」と呼ばれるこの方向性は、現在のAI開発においても一定の役割を担い続けている。最後が機械学習を取り入れたAIで、特に画像解析の分野で画期的な成果を発揮するディープラーニングもここに含まれる。
では、企業活動においてAIはどのような役割を果たすのか。B to BのAI活用の先行ランナーであるIBMのWatsonを例にそれを考えていこう。AIによる人気クイズ番組への挑戦をテーマに開発が開始されたWatsonの特長は、自然言語の処理や機械学習を通し、膨大なデータを読み解き、根拠をもとに仮説を生成し、回答候補を抽出する点にある。WatsonはIBM創業100周年になる2011年に人のクイズ王を破ることに成功した後、2014年に本格的な事業化がスタートしている。2016年には、日本語対応APIの提供も開始され、国内でも既に複数の導入事例が生まれている。
IBMはWatsonをAIではなく、人間の知的活動や意思決定を支援する「拡張知能」と位置付けている。あくまで人間の知性や洞察、あるいは企業の経営判断を支援するツールであると捉えることがその理由だ。
Watsonはどのようにして企業活動を支援するのか。それは大きく、「顧客接点改革」「意思決定支援」「洞察による発見」という三つの観点に沿って考えることができる。顧客接点改革は、エンドユーザー様が顧客に対応する際、顧客にとって最適な解を効率良く提供するための支援を行う。コールセンターにおける業務支援はその最も分かりやすい例だ。例えばみずほ銀行の事例では、顧客との対話内容(音声)に基づき、マニュアルやF A Q情報を抽出することでオペレーターの業務を支援するシステムが構築されている。
顧客接点のA I活用効果は、業務の効率化だけではない。例えば、製造業の場合、コールセンターへの問い合わせ内容を分析することで、製品不具合の早期対応を行うことも可能だ。
意思決定支援は、コンプライアンス(法令遵守)に関する支援がその一例だ。具体的には、法律文書や社内に蓄積されたさまざまなドキュメントからポリシーを学び、社内のアクションがコンプライアンスに適応しているか否かを規範と共に提示し、意思決定を支援する。保険金支払い業務における審査業務などで活用が進んでいる。
洞察による発見は、医師の診断支援がその具体例になる。一人の医師が膨大な数に及ぶ医学論文のすべてに目を通すことは不可能だ。だがAIならそれも可能だ。例えば、米国メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターでは、150万を超えるがんの症例データと42誌/200万ページの専門誌をWatsonに読み込ませ、学習させることで、医師の診断を支援しているという。同様の取り組みは、東京大学医学研究所でも進み、専門医でも診断が難しい特殊な白血病を判別し、治療法変更を医師に提案した例が報告されている。
続き「すぐそこまで来ているAIのある未来 AIサービスの現在の立ち位置とは?」は本紙でご覧下さい。
|