RFIDという言葉をよく聞くようになって、数年が経過している。身近なところでは、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードもR F I Dを活用したものである。RFIDは、Radio Frequency IDentificationの略で、無線タグやICタグとも呼ばれる。RFIDと似た言葉で、ビーコンというものがある。ビーコンとは、かがり火やのろしという意味の単語であり、そこから無線で位置や情報を伝える装置もビーコンと呼ぶようになった。RFIDは、パッシブ方式とアクティブ方式に大別できる。前者は、ICタグ側に電池を搭載せず、読み取り装置(リーダー)から電波を受けて動作するもので、後者はICタグ側に電池が搭載されており、常に電波を発信しているという違いがある。つまり、アクティブ方式のRFIDとビーコンは、基本的には同じカテゴリーに属するものだが、一般的には、RFIDよりも伝達能力が高く遠距離まで情報が届き、固定された場所に設置することが多いものをビーコンと呼ぶ。身近なビーコンとしては、VICS(道路交通情報通信システム)の電波ビーコンや光ビーコンが挙げられる。これらは、渋滞の状況や通行止めなどの情報を車のナビゲーションシステムに伝えている。また、登山者が雪崩などに巻き込まれて雪の下になってしまった場合、発する電波から位置を探索するための雪崩ビーコンも、危険な冬山登山には欠かせない装備として普及している。
ビーコンという名前が一般に知られるようになったのは、iOS 7に標準搭載された「iBeacon」からであろう。iBeaconは、BLE(Bluetooth Low Energy)を利用したビーコンであり、発信側のビーコン端末と受信側のiPhoneアプリから構成される。ビーコン端末からは、常にID情報が発信されており、iPhoneアプリによってそのビーコン端末までの距離が分かる仕組みだ。複数のビーコン端末を用意すれば、屋内での測位も可能になる。ただし、iBeaconは登場当初は話題となり、レストランや空港などで導入が始まったのだが、BLE機能をオンにしていないiPhoneユーザーが多いことや、ユーザーが専用アプリをダウンロードしてくれないといった問題もあり、あまり普及は進んでいない。iBeaconを広く普及させるには、そうしたハードルを越えさせるユーザーメリットが必要であろう。
RFIDは、利用する周波数帯によって適するアプリケーションが異なる。前述した交通系ICカードは13.56MHzを利用しているのだが、最近は900MHz帯を利用するUHF帯RFIDに注目が集まっている。UHF帯RFIDの特徴は、パッシブ式でも通信可能距離が数m〜20m程度と長く、多少の障害物があっても通信が可能なことである。欧米では、早い時期からUHF帯RFIDの物流シーンでの導入が進み、現時点ではRFIDの過半数がUHF帯RFIDとなっているのだが、日本国内でも2005年の電波法改正によってUHF帯RFIDが利用できるようになり、ここ数年、UHF帯RFIDを導入する企業が増えてきた。例えば、医療分野においては薬品のビンにRFIDタグを貼り付けて薬品を管理することで、投薬ミスを防げる。また、アミューズメント分野においては、各種サービスのキャッシュレス利用が可能になり、顧客満足度が向上。客単価や収益性を向上させることができる。また、帝国ホテルでは、すべてのユニフォームに富士通フロンテックの洗濯可能なリネンタグを縫い付け、一着ごとの個別管理を可能にするシステムを、2007年から導入している。このシステムは、自動ハンガー装置と連動することにより、特定したユニフォームが自動的に運ばれてくる仕組みを実現しており、ユニフォーム受け渡し時の間違いや不正利用を防止するだけでなく、作業の効率化も実現している。こうした産業界でのRFIDの活用は、今後も進むであろう。
text by 石井英男 1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。