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2006年5月時点の情報を掲載しています。
先日、名古屋に本社を構える企業の経営者とお話しする機会を持ちました。東京・大阪よりも景気が先行して良くなった名古屋ですが、「何が原因なんでしょうね?」と質問したところ、「近江商人の血が濃い場所だから…」と教えられました。「近江の千両天秤」という諺がありますが、天秤棒一本あれば行商で千両を稼ぎ、財産を形成するのが近江商人の真骨頂であり、千両を稼いでも行商を続ける「継続は美」というDNAも有名です。
「IT時代に近江商人とは」と呆れる人もいるでしょうが、果たしてそうでしょうか?歩いて販路を広げることは、非常にリアルなビジネスです。近江商人が得意としたのは、商品に関する需要と供給の状況、地域による価格差などを商業活動に活用したことでした。リアルなビジネスで一定の販路を獲得すると、蓄財した資本で、全国各地に積極的に支店を開設したことも近江商人の特長です。支店展開で成功すると、江戸の日本橋、大阪の本町、京都の室町という三都にも進出する豪商に成長したのが近江商人でした。
近江商人のビジネスモデルに「産物廻し」があります。持ち下り荷(関西から関東や地方へ)・登せ荷(地方から関西や江戸へ)など、地域間の需給と価格差に着目して生産地から消費地へ生活必需品を流通させるのです。IT時代の現在は商圏がワールドワイドに拡大しただけで、実態は近江商人の行為と変わりがないようです。多くの近江商人は金融業・質屋なども経営していました。貸したお金の返済は、金銭だけでなく、大豆などの現物で返させてもいました。大豆は醸造業に関係深い原材料ですが、実際にそれに進出した近江商人もいましたし、明治以降、多くの商人が銀行を設立しました。
近江商人は、地方へ資本と技術を提供して、原料を移入し製品を移出するというビジネスモデルも作っています。また、紅、酒、油などの製造権も取得して、原料を仕入れ、技術者を雇用して製造販売した近江商人もいました。近江商人たちは、経営の範囲が広がると個人企業から何人かが資本を出し合い、共同企業(乗合商合)を組織したそうです。近代資本主義経済の先取りですね。組織は商人たちが自己の商権を守り、相互の不要な競争をさける目的もありました。
成功した近江商人の家訓は貴重です。共通することは、勤勉・倹約・正直・堅実・寛容です。代表的な家訓に「しまつして、きばる」があります。どういう意味でしょうか?近江商人の商法は、八幡商人・日野商人・五個荘商人など、活躍した時代や場所により異なりますが、共通するのは遠い地域間の価格差を利用することと、商売相手の利益を優先するという考えです。つまり、薄利の商売だったのです。利益を上げるために、他人の嫌がる苦労を進んで「きばり」、長期的にみて経済の合理性を求めることが「しまつ」です。近江商人にはケチという印象を持つ人がいますが「しまつ」を誤解されたものなのです。
「三方よし」(さんぽうよし)という五個荘商人中村治兵衛の家訓があります。「他国へ行商するもの総て我事のみと思はず、其の国一切の人を大切にして、私利を貪ること勿れ…」というのです。「売手によし」「買手によし」だけでなく「世間によし」を考慮せよとは、まさに現代の企業に求められている姿そのものだと思いませんか?
「富を好しとし、其の徳を施せ」は、八幡商人西川利右衛門の家訓でした。商売が繁盛して富を得るのは良い事だが、その財産に見合った徳(社会的貢献)をすることも重要だと教えます。業績が大きくなった分だけ、企業の社会的貢献という徳を積みなさいということです。このことから、近江商人の現代性が認められます。名古屋の経営者は「名古屋人はケチと話す人がいるけど、冗談じゃない、使うべきところには使うという信念が強いだけだ」と話します。「ケチ」と誤解されながらも、近江商人の「しまつ」の商いに自負を持っているのです。
島川 言成
パソコン黎明期から秋葉原有名店のパソコン売場でマネージャを勤め、その後ライターに。IT関連書籍多数。日本経済新聞社では「アキハバラ文学」創生者のひとりとして紹介される。国内の機械翻訳ソフトベンチャー企業、外資系音声認識関連ベンチャー企業のコーポレート・マーケティング部長を歴任。現在、日経BP社運営のビジネスサイト「日経SmallBiz」でIT業界の現状分析とユニークな提案をするコラムを連載中。PC月刊誌「日経ベストPC」では秋葉原のマーケティング状況をリポート。また、セキュリティ関連ベンチャー企業のマーケティング部門取締役、ゲームクリエーター養成専門学校でエンターテインメント業界のマーケティング講座も担当。
【コラム】「売れるショップに売れる人」
・第6回 業務フローを共有できる組織作りが大切 【Vol.25】
・第5回 オリジナルのランチェスター戦略の構築を 【Vol.24】
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