テンアートニは、データレプリケーションに特化した、ミラーリングの非同期モードに対応した新製品『SteelEye Data
Replication for Linux v6』を今年9月にリリースした。これにより、最小限のハードウェアコストで快適なデータレプリケーション環境を構築することができる。
テンアートニでは、『LifeKeeper for Linux』のHAクラスタ環境下においてネットワークミラーリング機能を提供するオプション製品として、『LifeKeeper
for Linux Data Replication』(以下、LKDR)を販売してきた。しかし、LKDRは、ミラーリングの同期モードにのみ対応していたため、今回、そのバージョンアップ製品として、非同期モードにも対応した『SteelEye
Data Replication for Linux v6』(以下、SDR-L)をリリースした。
従来のLKDRは、ミラーリングの同期モードにしか対応していなかったので、そのパフォーマンスはIPネットワークの転送能力などによって大きく左右された。たとえば、通常、システムを冗長化する際は2台のサーバを用意して、アクティブとスタンバイに分ける。同期モードでは、アクティブ側がデータの書き込みを行った後に、スタンバイ側に書き込み命令をして、その書き込みが終了したという返答が送られてきてはじめてひとつのジョブが完了する。(図1)しかし、この場合、スタンバイ側でデータの書き込みを行うときに必然的に時間がかかってしまう。さらに、データレプリケーションでは、ネットワークを通じてデータを転送する必要があるので、そこでも余分に時間がかかってしまう。このため、ひとつの書き込み命令に一連の処理が入るため、全体としてパフォーマンスが下がる可能性がある。
しかし、SDR-Lではミラーリングを非同期モードで行うので、こうした問題は一気に解消される(図2)。アクティブ側で書き込みを行った後、コピーはスタンバイ側への処理キューに送られる。実際には遂次データの書き込みや転送が行なわれているが、システム全体のパフォーマンスは影響を受けにくい。
このようにパフォーマンスが大幅に向上したことで、データレプリケーションの用途も広がる。今までデータレプリケーションは、データ容量が比較的少ないシステムの冗長化にしか適していなかったが、今後は、非同期モードに対応することによって、データベースサーバなどの用途にも使えるようになる。
また、今まではネットワークのスピードが速いギガビットクラスでデータレプリケーション構成をとることが推奨されていたが、今後は、WAN環境の遠隔地同士でもデータレプリケーションの構成をとることが可能になる。
現在、Linuxをベースにしたデータレプリケーションを実現するソフトウェアは他にもあるが、他の製品はすべてミラーリングの同期モードにしか対応していない。Linuxでミラーリングの非同期モードをサポートしているのはSDR-Lだけである。それがなぜ可能になったかというと、SDR-Lの開発元であるSteelEye
Technology社のエンジニアが、Linuxカーネルの改善に直接関わったからだ。
SDR-Lは、LinuxのソフトウェアRAIDドライバ『md』を利用するが、従来の『md』には、ミラーリングの非同期モードに対応していなかった。そこで、SteelEye
Technology社のエンジニアがLinuxコミュニティに対して『md』の修正パッチを提供。これにより、Linuxカーネル2.6.16以降で遅延書き込み機能とビットマップ機能を実装した新しい『md』が標準提供され、SDR-L
の非同期モードと差分同期機能をカーネルの標準機能として実現した。したがって、実際に SDR-L を稼動させるためには、2.6.16以降のLinuxカーネルを搭載したLinuxディストリビューションが必要となる。現時点では
SUSE Enterprise Linux Server 10 (SLES 10)が対応している。『Red Hat Enterprise
Linux』では、今年末から来年に掛けてリリースが予定されているバージョン5からLinuxカーネル2.6.16に対応する見通しだ。これにより、『Red
Hat Enterprise Linux』でも、ネットワークミラーリングの非同期モードへの対応が可能になる。