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2019年1月時点の情報を掲載しています。
クラウドコンピューティングの課題を補完する“エッジコンピューティング”を一口に言うと、ユーザーのより近くにサーバーを配置するネットワーク技法。新たなバズワードに浮上したこの言葉は、とらえ方次第でいくつかの異なる意味を持ち合わせている。
遠隔地のデータセンターが複雑な処理を代行するクラウドコンピューティングは、デバイスの能力を問わず、高度な処理を従来は考えられないほど迅速に行うことを可能にした。スマートフォンをインターフェイスにする、SiriやGoogleアシスタントといったAIアシスタント機能はその一例だ。
クラウドのメリットはそれだけではない。時や場所を問わない情報共有の容易さ、目的に応じたスケールアウトの柔軟性、管理の容易さなど、さまざまな恩恵を提供している。だが、一方でクラウドにはある大きな課題が存在し続ける。サーバーとの距離やネットワークの複数の結節点を経由することに伴う通信遅延である。
確かに、通信テクノロジーは日進月歩で進化してきた。だが、通信高速化による利便性向上がクラウドの新たな需要につながり、一向に通信遅延を解消するめどが立たないのが実情である。クラウドに基盤を置く新たなソリューション開発においても、通信を巡る課題は大きな障害であり続けている。例えば自動運転では、交通状況に関する最新状況を常に各車両が共有することが不可欠だ。通信遅延は、場合によっては事故にもつながりかねない。こうした課題の解決策として浮上したのが、ユーザーの近くにサーバーを分散することで、通信遅延やサーバー、ネットワーク機器への負荷増大を回避するエッジコンピューティングである。ちなみにこの名称は、ネットワークの周縁部(エッジ)にサーバーを配置することに由来する。
エッジコンピューティングという言葉は今日、多様な意味合いで使われている。その一つが、コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)というデータ配信の仕組みに関連した用法だ。
ウェブコンテンツ配信を目的としたネットワークであるCDNの特長は、複数のキャッシュサーバーを分散して配置する点にある。その仕組み自体は1990年代からあり、利用者が最寄りのサーバーを利用することで、ネットワークの遅延が回避できる点がその最大のメリット。具体的には、インターネットサービスプロパイダー(ISP)の設備内に専用キャッシュサーバーを収容する方法をとることが一般的で、すでにグーグルやNetflixなどのコンテンツ配信事業者がISPとの連携を進めていると言われる。また、CDNの仕組みをグローバル企業に提供するアカマイ・テクノロジーズは、B to Bを前提にすることから“知られざるインターネットの巨人”とも称されている。
しかし、エッジコンピューティングが意味するのはそれだけではない。CDNはまさにインターネットの“エッジ”にサーバーを配置する。だが、“ユーザーの近くに”という観点ではそれとはまったく異なる可能性が見えてくる。
分かりやすい例が、V Rグラスなどのウェアラブルデバイスをインターフェイスにするソリューションだ。
生産性向上や品質管理の観点から、工場などの作業現場におけるIT化は大きな課題であり続けている。デスクワークと異なり、立ち仕事で両手が塞がることも多いだけに、その普及には難しい面も多い。しかし、VRグラスとエッジコンピューティングを組み合わせることで、視野の一角にマニュアルを表示するなど、両手が塞がれた状態でも多様なIT活用が可能になる。
また“モノのインターネット(” IoT)でも、エッジコンピューティングは大きな役割を果たす。最先端の工場では無数のセンサや測定器が稼働し、そのデータを迅速に処理し、生産装置にフィードバックすることが求められている。通信遅延は製造ラインの混乱にもつながりかねないだけに、まずはセンサや測定器に近い場所でリアルタイムの処理を行い、必要なデータだけを遠隔地のサーバーにアップロードすることは大きな意味を持つ。ビジネスへの貢献という観点では、クライアントサーバシステムが普及したオフィスよりむしろ、工場や倉庫などIT化が遅れる分野においてエッジコンピューティングは大きな役割を果たすことだろう。
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