日本では普及が疑問視されてきたキャッシュレス化。利用者は、現金を持たないことで、店舗における決済時間の短縮などの利便性や路上犯罪へ巻き込まれるリスクが低減するといったメリットがある。一方、国家単位では、不正蓄財の洗い出しや偽札排除といった目的もあるようだ。ITビジネスの観点からは、新しい設備投資の促進は、パートナー様のチャンスにつながる。 |
キャッシュレス決済を巡る動きが何かと慌ただしい。政府は以前から2020年をめどに国内のキャッシュレス決済比率を40%に高める目標を掲げ、普及に向けた検討を進めてきたが、ここにきて2019年10月に予定される消費税増税後のキャッシュレス決済には2%分をポイント還元するプランが浮上。詳細は明らかではないが、小売店のほか、飲食店や宿泊業など、消費者向けビジネスを提供するすべての中小事業者を対象に、最長1年間ポイント還元する方向で検討が進んでいるという。
その背景には、国内のキャッシュレス決済比率の低さがある。各国のデータが出そろう2015年時点で比較すると、日本のキャッシュレス決済比率は18.4%。韓国(89.1%)、中国(60.0%)、カナダ(55.4%)などのキャッシュレス先進国と比べ、大きく出遅れているのが実情だ。
キャッシュレス化には政策的な後押しが大きな意味を持ち、例えば韓国の場合、「クレジット利用額の30%の所得控除」、「クレジット利用による宝くじ購入の権利付与」などの施策が高い普及率の背後にある。こうした状況を受け、日本もいよいよキャッシュレス化に本腰を入れ始めたと言えるだろう。
ちなみに普及に向けた施策の方向性は一様ではない。例えば中国では、Alipay(アリペイ)に代表されるQRコード決済が広く普及するが、そこにATM網の整備の遅れなどの事情に加え、「信用」という概念を軸に人々の行動を変革しようとする国家レベルの試みがあると指摘する声も多い。簡単に言えば、公共料金の支払いを遅延したり、レンタサイクルを乗り捨てたりしていると飛行機の搭乗チケットが買えなくなるなどのデメリットが生じ、ルールに従って行動すればさまざまなメリットが得られる仕組みを通し、公共心の低さが言われる国民の意識と行動を変えていこうというわけだ。企業の与信情報や公共機関の個人情報の社会的な共有は日本では考えにくいが、現地では比較的好意的に見られているようだ。
日本の状況を考える前に、ここでキャッシュレス化のメリットを簡単に整理しておこう。まず挙げられるのが、店舗で現金のハンドリングが不要になる点だ。釣り銭を滞りなく用意したり、レジ締め後に現金残高を確認したりする作業は何かと手間がかかるものだ。ある調査では、現金残高の確認にレジ1台あたり20〜30分費やすという。省力化の延長上にあるのが、既に駅売店などで実証実験もスタートした無人店舗がある。またキャッシュレス化は、金融機関の業務そのものを大きく変えることだろう。
もう一つのメリットとして挙げられるのは、取引の可視化だ。既存のポイントカードなどによって企業が把握できるのは、自社店舗内の消費行動に限られてきた。キャッシュレス決済は、この枠組みを超えた消費行動の把握が可能になる。これは決済サービス提供企業による新たなサービスの提供にもつながるはずだ。さらに言えば、税収の観点でもその効果は大きい。
ではなぜ日本では、キャッシュレス化が進まないのか。その理由としてまず挙げられるのは手数料の存在だ。現在日本のキャッシュレス決済の主流であるクレジットカードは、3〜6%という比較的高い決済手数料を店舗が負担する。これが小規模店舗のクレジットカード普及の障害になっていることは間違いない。
日本におけるキャッシュレス化の障害はもう一つある。それはキャッシュレス決済方式の多様さである。主要なキャッシュレス決済手段の一つにFeliCaを採用した電子マネーがあるが、交通系ICカードだけに限っても10種類ほどあり、どれを選べばいいのか分かりにくいのが実情だ。キャッシュレス決済手段にはそのほか、銀行口座と紐づけて発行されるデビットカードやスマートフォンを使ったモバイルウォレットもある。利用者の観点で言えば、一つの仕組みであらゆる決済に対応できるようにならない限り、現金入りの財布を手放すのは難しい。キャッシュレス先進国として知られるスウェーデンの例では、国内主要銀行が共同開発した「Swish」(スイッシュ)と名づけられたスマートフォン用決済アプリがその役割を担う。
こうした中、キャッシュレス化の本命として注目されるのが、モバイルウォレットの一種に位置づけられるQRコード決済だ。その第一の特長は導入の容易さにある。
QRコード決済には二つの方法がある。一つはスマートフォンにQRコードを表示し、店舗側の端末で読み取る方法(コード支払い)。POSレジ導入済み店舗であれば、新たに専用リーダーを購入するだけで対応が可能だ。もう一つが店頭に表示されたQRコードを利用者がスマートフォンで読み取る方法(読み取り支払い)。決済は購入金額を利用者が入力して行う。この方法であれば、紙に印刷したQRコードを店頭に貼り出すだけでも対応が可能。中国や東南アジアでは屋台の買い物もこの方法で行われることが珍しくない。決済は電子マネーやクレジットカードにひもづけて行うため、プリペイド、ポストペイの両方式に対応可能だ。
QRコード決済サービスにはLINE Pay、楽天Pay、ソフトバンクとヤフーの合弁によるPayPayなどに加え、これまで自社以外のE Cサイト決済に利用されてきたAmazon Payも実店舗でのQRコード決済サービス提供を開始。来年にはメガバンク系サービスも登場が予定されるなど、多様なプレーヤーの参入が続いている。普及を図るうえでは、プレーヤーのとうたや規格の統一化も課題になるだろう。
続き「来年実施予定の消費税増税にも影響 どうなる? 日本のキャッシュレス化」は本紙でご覧下さい。 |
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