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2020年7月時点の情報を掲載しています。
2020年は、東京オリンピックの開催と5Gの商用サービス元年として歴史に残るはずだったが、新型コロナウイルスに対処するために、オリンピックは延期となり、全国に緊急事態宣言が発令される事態となった。しかし、5Gサービスは当初の予定通り、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアによって3月末に開始された。
5Gは、現行の4Gの後継となる第5世代移動通信システムのことで、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という3つの利点を持つ。現行の4Gに比べて、速度については約20倍の最大20Gbps、低遅延については約10分の1の1ms、多接続については約10倍の1平方kmあたり100万デバイスを実現する。こられの5Gの特性を活かした新たなビジネス分野への応用が期待されているのだが、こうしたパフォーマンスの大幅な向上を可能にしたのが、新たな周波数帯の利用である。5Gでは、Sub 6と呼ばれる6GHz未満の周波数帯とミリ波と呼ばれるより高い周波数帯を使うことができる。これまでの4Gでは、主に3.5GHz帯や2GHz帯、1.7GHz帯、800MHz帯などが使われてきたが、5Gでは、3.7GHz帯と4.5GHz帯のSub 6と、28GHz帯のミリ波が使われる。ミリ波のミリは、波長が1mm〜10mmであることを示しており、厳密には30GHz〜300GHzが該当するのだが、5Gで使われる28GHz帯もミリ波と呼ぶことが多い。
電波は、基本的に周波数が高くなるほど、直進性が強くなり、障害物の後ろに回り込みにくくなるため、広いエリアをカバーするのが難しくなる。また、ミリ波は、水分による減衰が大きいため、雨に弱いという欠点もある。その反面、周波数が高くなれば、使える帯域幅も広くなるため、通信容量を確保でき、速度を高めやすくなる。例えば、3.7GHz帯や4.5GHz帯の場合、キャリア1社あたりに割り当てられる帯域幅は100MHz単位(NTTドコモとauは2枠の200MHz幅が割り当てられた)だが、ミリ波の28GHz帯では、キャリア1社あたりに割り当てられる帯域幅は4倍の400MHz単位となる。そのため、広いエリアはSub 6でカバーし、都心部などの混雑エリアをミリ波でカバーするという運用が考えられる。
技術的には、Sub 6は従来の4Gで扱っている周波数とあまり変わらないため、実装が容易だが、ミリ波は周波数が一桁変わるため、アンテナや基板設計の難易度も上がる。そのため、各キャリアから登場する最初の5Gケータイは、Sub 6しか対応していない端末も多い。NTTドコモを例に挙げると、5Gケータイの第一弾として発表された6機種のうち、ミリ波に対応するのは、サムスン電子の「Galaxy S20+」と富士通コネクテッドテクノロジーの「arrows 5G」の2機種のみだ。しかし、3月にスタートした5Gサービスは、まだSub 6の基地局しか運用されていないのだ。NTTドコモでは、2020年6月からミリ波対応基地局の運用を始める予定だが、当初はミリ波が使えるエリアはごく限られたものになりそうだ。また、ミリ波の特性上、エリア内であっても窓際しか使えず、建物の奥では電波が届かないという可能性もある。
そもそも、Sub 6でのエリアカバーも現行の4Gに比べればごく限られており、国内キャリアで最大のインフラを誇るNTTドコモでさえ、サービス開始時に使えるのは全国150カ所に限られる(基地局は500局)。2020年6月末の時点で、ようやく47都道府県で使えるようになり、全国の政令指定都市を含む500都市をカバーするのは2021年3月末の予定だ。NTTドコモの5G基地局数は、2022年3月末で2万局を予定しているというが、それでも現行の4G基地局が2018年度で20万局を超えているのと比べると、10分の1以下にすぎない。5Gの高速通信や低遅延といった恩恵をどこでも享受できるうになるには、まだ数年はかかるだろう。
どうせ5Gケータイを購入するのなら、より高速な通信が可能になるミリ波に対応した製品を選びたいという気持ちもわかるが、現時点での5Gサービスの理論最大速度は、Sub 6が下り最大3.4Gbos、上り最大182Mbpsなのに対し、ミリ波が下り最大4.1Gbps、上り480Mbpsであり、上り速度は約2.6倍に向上するが、下りは約1.2倍しか向上しない。そのため、スマートフォンにおいて、ミリ波対応のアドバンテージを感じる場面はあまりなさそうだ。現時点では、ミリ波対応端末を選ぶ必要性はそれほど大きくないのだ。
text by 石井英男
1970年生まれ。ハードウェアや携帯電話など のモバイル系の記事を得意とし、IT系雑誌や Webのコラムなどで活躍するフリーライター。
富士通コネクテッドテクノロジー製のミリ波対応5G
ケータイ「arrows 5G」
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